シア視点1
次もシア視点です。
私、シア 16歳 お父さんと二人で行商している。
お母さんは私が小さい頃に病で亡くなった。
お父さんはヒューガルデンの町で店を構えるの夢だ。
今は行商でお金を貯めている。
今回の行商が終われば、お金が貯まって店が持てると張り切っている。
「ねえ、何でこんな田舎の村なんか行かなくちゃいけないのよー。ヒューガルデンで先物やった方が絶対儲かるって」
父さんが人の良さそうな笑顔で笑う。
「ははは、シア、商人てのはな、人にありがとうて言ってもらって、お金を貰う仕事なんだよ」
「もう、それは何度も聞いたよー」
お父さんは口癖でいつも人にありがとうを言いなさい。
ありがとうを言われなさいって言う。
「ありがとうて言って貰えれば、必ずまたお客さんは来てくれる。シアもありがとうて言って貰える商人に成りなさい」
「えー、私は楽して稼ぎたいよー」
お父さんは人が良すぎるのよ。
こんなんじゃ絶対、いつか人に騙されるわよ。
でも・・・確かに村の人が品物を持って行った時にありがとうて喜んでくれるのは嬉しいだよね。
「旦那、そろそろ村が見えて来ますよ!」
護衛の冒険者から声が掛かる。
街道は比較的安全だが、盗賊、魔物など護衛無しでは移動出来ない。
村に入ってしばらくするとお父さんの怒鳴り声が聞こえる。
お父さんが怒鳴るなんて珍しいな。
確か村長さんと話していたはずだけど?
「話が違うじゃないか!」
「そうなんだが、もう必要無くなったんだ」
「そっちが泣きついて来たから、こっちだって無理してここまで来たんだぞ!」
「それは、悪かった、申し訳ないが、村も余裕があるわけじゃない、必要無いものは買えない」
「ふざけるな!ここまで来るのに冒険者だって雇って来てるのに大損じゃなか!この商品だって相場より高かったが、そちらが必要だと言うから仕入れて来たんだぞ!」
「本当に悪かったと思っているが、買えない物は買えない」
村長とお父さんがずっとそんなやり取りをしている。
結局、品物は買って貰えず、荷台は重いままヒューガルデンに戻る事になった。
なんかお父さんの背中が小さく見えた。
結局、相場より高い値段より仕入れた商品は大損となり、さらに往復の冒険者の費用など出費だけの行商となった。
「お父さん、元気だして、貯めたお金は無くなっちゃたけど、また頑張って貯めなおそうよ」
「シア、すまない、この行商で店を持てれば、やっとお前を辛い行商から楽をさせてやれると思ったのに」
「お父さん、私は行商好きだよ。だからそんなに落ち込まないで、また一緒に頑張ろうよ。ね!」
普段はお酒なんて飲まないのにその日は、酒場に行って帰って来なかった。
それから数日後、お父さんが泣きながら私に謝って来た。
「どうしたの?何があったの?」
「すまない、すまない」
「謝ってばかりじゃ、分からないよ?どうしたの?」
「すまない、すまない」
お父さんを落ち着かせて話を聞くと、酒場に行った時に先物の儲け話があると男に持ちかけられたそうだ。
絶対儲かると男の言葉を信じてその話に乗って、商品を買ったが、直ぐに値下がりし大負けしてしまった。
「お父さん、先物なんてやらないって言ってたじゃない!」
「すまない、どうしても前回の行商で失った金を取り戻したくて、お前に楽をさせたくて、やらないと決めていたのに、手を出してしまったんだ」
その時、扉が勢いよく開いて男達が入ってくる。
「誰ですか!」
「俺たちは奴隷商人だよ」
え!もしかして・・・
「お父さん自分を担保にお金を借りたの?」
男達がニヤニヤ、私を見てくる。
「そんな、おっさん一人じゃ、返せない額の借金だよ!」
私は血の気が引いて、お父さんを見たけど、すまないと繰り返えすだけだった。
奴隷になってからの扱いは酷かった。
食事も貰えず、お風呂も入れず、反抗的な態度で何度も殴られた。
その後馬車に乗せられ、何日も馬車に揺られながら、お父さんを騙した村長、先物の詐欺し、奴隷商、世の中すべてを毎日呪った。
何処かの町の奴隷商館について何度も商品として、客の前に連れて行かれた。
その度に私は反抗的な態度を取って何度も殴られた。
それでも絶対に辞めなかった。
お父さんを騙した、あの男達が許せなくて、絶対負けたくなかった。
何度も殴られて、食事を抜かれて体がボロボロになって、もう死にたいと何度も思った時に、一人の若い男の人がやって来た。
全然、お金持って無さそうで、こいつも他の男同様、いやらしい目で私を見てきて、気持ち悪い。
男って皆そう!
何か聞いてきたけど、絶対に口も聞きたくない!
「シア!お前は何度言ったら分かるんだ!」
奴隷商に何度も殴られた。
「顔は商品だから、殴らんが、次にそんな態度を取ったら娼館送りだからな!」
もう一度さっきの若い男の前に連れて行かれる。
あんな態度とったのにまた呼ばれるなんて、ほんと男って汚い!
若い男は優しそうな笑顔を浮かべているが、これもきっと表面だけだ。
「シアさん、始めまして、ラムザールと申します。私は錬金術ギルドでギルドマスター代理をやっているのですが、当ギルドで働いて頂ける方を探しています。シアさんは錬金術に興味はありますか?」
奴隷の私に対して丁寧に名乗るなんてちょっとビックリした。
「・・・無いです」
でも、男なんて絶対信用できない!
「文字の読み書き、計算は出来ますか?」
私は商人の娘、お父さんの娘だもん。
「・・・出来ると思います」
「じゃあ、俺の事は好きですか?」
この人、馬鹿なの!?好きな訳ないでしょ!
「・・・嫌いです」
「ここ、奴隷商館は好きですか?」
大大大っ嫌い!
「じゃあ、最後に商売は好きですか?」
お父さんとの楽しかった行商の日々を思い出す。
大変だったけど、お客さんの笑顔を見ると幸せな気持ちになれて頑張れた。
お父さん・・・何でお客さんの笑顔の見えない先物なんてしたのよ・・・
お父さんとの思いでは否定出来ないよ・・・。
涙が溢れそうで、でもこんな奴に弱味なんて見せたくなかった。
私はお父さんの娘、商売は好き!
お読み頂き誠にありがとうございます。
年末、忙しい為投稿お休み致します。
年明け元旦より開始致します。
また読んで頂けたら嬉しいです。