家探し
午後はチコリ商会に向かう。
チコリ商会の商館は奴隷会館もある、上の商店街の近くに在った。
そこまで大きくはないが豪華な作りの建物で、荷受け場所などが見当たらない事から、商談場所と商品の搬入倉庫は別けているのだろう。
商館に入り従業員に声を掛ける。
「お約束している、錬金術ギルド、ギルドマスターのラムザールです」
男は一瞬止まったが、思い出したようで部屋に案内してくれる。
部屋は絨毯がひかれ、ソファーもフカフカしていて座り心地が良い。
しばらくして五十代位のやせ形で頬に傷のある男が入ってくる。
「お待たせしました、私、チコリ商会の支配人をしてます、センターで御座います」
「錬金術ギルド、ギルドマスターのラムザールです。本日は商会長はいらっしゃいますか?」
「申し訳ありません、商会長はただ今、取り込んで下りまして、私がお話を伺わせて頂きます」
促されて席に着く。
「ラムザール様、本日はどの様なご用件でしょうか?」
「石鹸をご存じですか?」
「勿論、存じております」
テーブルの上に石鹸を出す。
「こちらは当ギルドで製造した石鹸で御座います」
「ほう」
センターは石鹸を手に取るがあまり興味が無さそうだ。
「本日はこちらの石鹸の紹介に伺わせて頂きました」
「成る程、ただ石鹸は高価でなかなか売れないんですよ。それに町のギルドが作った物と王都の石鹸では質の落ちるでしょうし、販売は難しいですな」
試しもせずいきなり下扱いかよ!
「まあ、どうしても言うなら、試しに100個、タダでしたら引き取りましょう。それが売れたらその後10Gで取引させて頂きますよ」
おいおい、だいぶ酷い条件だな。
まあ、この町のナンバー1と2の商会と取引が決まっている今、無理に取引しなくても良い。
やんわりとこちらから引き下がってチコリ商会を後にした。
チコリ商会から戻った午後はひたすらハイマジックポーションを作っていく。
コスモ商会に納品する、石鹸はトールさんとリーザさんに任せてある。
俺は高額なポーションを作った方が儲かるが、リーザさん達は石鹸の方が稼げる。
仕事終わりの鐘でプランさんに納品する。
エクストラポーションを見ると感嘆の声を上げる。
「さすが、マスターだね!私は出来ると思ったよ!それにしても綺麗な色だね。先代ギルドマスターを思い出すよ」
「凄く綺麗で神秘的な色ですね・・・」
さあ、期待の査定金額の発表の時間です!
エクストラポーション:3,000G
ハイマジックポーション:750G×4=3、000G
凄い金額になったが、エクストラポーションは作れる人が少ない。
この町では先代ギルドマスターだけ。
先代ギルドマスターが亡くなった為にトロールの心も売れ残っていた。
それにエクストラポーションの依頼が無い。
普段は作っても売れない。
ハイマジックポーションの依頼さえ無い。
最近はポーションしか作ってなかった。
いつもこれだけの依頼があれば石鹸なんて売らなくて良いんだけど、今回はドラゴンの特需となっている。
6,000Gシアが持って来てくれてお金を受けとる。
あれ!?シアが袋から手を話してくれない。
「シア、お金頂戴?」
「G・・・G・・・G・・・」
シアの目がGマークになってる。
「シア、さあ、手を離して」
シアが泣きそうに、顔をプルプル振る。
可愛いが心を鬼して力を込めて袋を引っ張る。
シアが俺を見つめながら
「ご主人様、これ頂戴!」
「う・」
ヤバイ、手を離してしまいそうだ、だが俺には借金18,000
G有るし、シアと一緒に住む新しい家の資金も必要だ。
「シア、手を話さないと今日の夕御飯はオカズ一品減らすぞ」
「え!」
シアが怯んだ隙に袋を奪うことに成功する。
「あ!私のお金が・・・」
凄く睨んでるけど俺のお金だから!
次の日、新しい新居をシアと一緒に探しに行く。
ギルド宿舎は立地が良いし、部屋数も多いので賃料が高い。
引き払ってギルドの雑費を減らすのだ。
それに、キッチンもなく常に外食なのも嫌だったし。
契約更新が迫っているので新しい家探しを開始した。
一番の要因は猫耳メイドを宿舎じゃ雇えないじゃないか!
事前に住宅ギルドに希望は伝えてあり、今日は内覧会となっている。
住宅ギルドの女性職員に連れられて現地に向かう。
「ラムザール様の希望は錬金術ギルドから歩いて10分、部屋数が四部屋、海が見えるでよろしいでしょうか」
せっかく異世界に来たんだ、朝起きて窓を開けたら海!最高じゃないか。
朝、窓を開けたら隣の家の壁じゃガッカリだよ!
ギルドから歩いて10分、マーケットからも近く非常に便利な立地だ。
家は細長い三回建てで、何件も同じ住宅が並んでいるうちの一軒だった。
一階がキッチンとダイニング。
二階三階に二部屋ずつある。
「あの、海が見えないんですが?」
「海は三階の窓から見えますよ」
三階に上がって窓を開けると、確かに見える。
見えるんだが・・・建物と建物の隙間から見えるんだよね。
「シアはこの物件どう思う?」
「え、私!?」
「そうだよ、シアも一緒に住むんだから」
「そうね、マーケットも近いし、キッチンも使い易そうだし、三階からは海も見えるんでしょ。私なんかが住むには勿体ないくらいよ」
住宅ギルドの人が温かい目で見てくる。
「奥さまの言う通り、この物件は大変人気が御座います。買い物も便利ですし、治安も良いので賃料も高いですが、旦那様が稼がれてるようで羨ましいですよ」
「奥さま・・・なんて」
案の定、シアは顔を赤くして手を振って否定しているが、ギルド員の女性は、奥さまと呼ばれた事に恥ずかしがっていると勘違いしたようだ。
「ラムザール様もこんな可愛い奥さまを迎えてすみに置けませんね」
「そうでしょう、シアは可愛いですよね」
「まあ、おろのけですかー。新婚さんは良いですねー。」
シアが顔を真っ赤にして睨もうとしているが、ちょっと口元が緩んで、にやけてるよ。
「可愛い・・・可愛いかな・・・」
「もっと海が、がっ!と見える物件ありあませんか?」
「そうですね、値段は上がって良ければ在りますよ」
この物件が月1,800Gだ。
それでも新婚さんが住むには高い物件だ。
でも、高くなったとしても、現代と同じような物件には住みたくない!
「高くなっても良いので紹介して下さい!」
「分かりました。それでは次の物件に行きましょう」
次に案内されたのはマーケットからは離れてしまうが、ギルドからは15分掛からない位の距離の高台の物件だ。
二階建てで庭も小さいけどついていて、短剣の練習や、庭でご飯を食べるなど出来そうな広さはある。
傾斜に立てられている為、一階からも海がしっかり見える。
海が見える条件は完璧だ。
「シア、凄く良い景色だね」
「わーー、気持ちい!」
シアがグーと両手を広げて風を感じている。
俺も一緒に両手を広げて風を感じてみる。
海は太陽の光で水面がキラキラ光、海風が心地良い。
初めてこの異世界に転移して見た海に、感動したのを思い出した。
もう、決めちゃいたいけど、取り合えず室内も見せてもらう。
一階がキッチンとダイニングと一部屋。
二階に三部屋あって、6畳、6畳、12畳くらいで、十分な広さがある。
「凄く気に入ったんですけど、ここはいくらですか?」
「はい、ここは月に3,500Gとなっています」
「やっぱり、高いんですね」
シアがツンツンしてくる。
「ちょっと高すぎるんじゃない?」
「んーー。悩むなー」
ギルド職員の女性が話しかけてくる。
「私もお二人で住むにはちょっと高いと思いますよ。先程の物件も非常に良い物件ですよ」
「私もさっきので良いと思うよ。さっきの物件でも贅沢だよ」
女性二人は先程の物件押しかー。
ポーション一個が10Gだから350個。
月に25日ポーションを作ったとして一日14個かー。
「んー悩むなー。」
「それでしたら、ギルドに値下げ出来るか聞いてみましょうか?」
「出来るんですか?」
「お約束は出来ませんが出来る場合も有りますので」
「是非、お願いします」
住宅ギルドに移動し偉い人に聞いて貰うと3,000Gまで下げてくれたのでここに決める事にした。
取り合えず二ヶ月分の賃料を払って契約書にサインした。
月の切り替わりはまだ先だが数日分はサービスしてもらい、もう明日から住んで良いそうだ。
家具も買わなくちゃいけないし、明日からもポーション作りだな。