商会選び
シアが熱を出してしまった。
今まで溜まった疲れが出たんだと思う。
うちのギルドにくるまで、気の休まる時なんて無かったんじゃないかな?
最初のうちは俺の事もだいぶ警戒してたけど、少しずつ心を開いてきて気がしてた。
ふと、気が緩んだときに風邪って引きやすいよね。
平日に頑張って仕事してやっと休みだ!と思ったら風邪で寝込んで休みが潰れちゃったり。
キュアポーションが多少は効いたんだと思う。
夕方には熱が下がって、プランさんの作ってくれたお粥をバクバク食べてたからね。
俺は朝から短剣の練習をしていた。
この世界は平和な日本とは違う。
夜、一人で出歩くなんて絶対しちゃいけない。
いつ、何があるか分からない。
少しでも自衛出来るように時間を見つけては、短剣スキルを練習している。
俺は視線に気付いて練習を中断して、視線の相手を探す。
視線の相手は直ぐに見つかった。
朝日を浴びて綺麗な金髪はキラキラと輝いていて、青いリボンの髪止めと、青い服がより一層金髪を引き立てていた。
目が合うとシア、から先に挨拶してくれる。
「おはよう」
「おはよう、体調はどう?」
「うん、もう大丈夫。昨日はありがとう」
ちょっと伏せ目がちに恥ずかしそうに答える。
「支度して、朝御飯を食べに行こうか」
シアがもじもじしながら口を開く。
「あの、昨日の事なんだけど・・・」
「ん?ポーションのこと?」
「それもあるんだけど、なんか昨日は熱があって、ぼーとしてて、自分でもその・・・なんか変なこと言っちゃたなーと。熱があったから・・・」
ん!?昨日、シアが言ったことはーー。なんで、なんでと、後はあれかの事か?
「ん?変な事って、寂しいから手を握って側に居てってやつ?」
それを聞いたシアの顔がみるみる真っ赤になっていって、出会った頃の冷たい目線に変わる。
「滅・・・」
「え!?」
シアが近くにあった、バット位の角材を手にとってゆっくり近づいてくる。
「シア・・・、その角材で何をするつもりかな・・・」
「・・・」
金色の瞳が輝くとすごいスピードで角材で殴り掛かってくる!
とっさに一歩下がると鼻先を角材がかすめる。
短剣の練習の為、手にナイフを持っていたから避けたけど、短剣スキルが無かったら俺の鼻が曲がってたぞ!
その後のシアの孟攻撃!
シアは角材スキルでも、持ってんじゃないかって疑うほどの連続攻撃をかわす。
この細い腕のどこにこれだけのパワーがあるの!?
結構な時間攻撃を避け続けてやっとシアの攻撃が止む。
「はあ、はあ、はあ、なんで当たらないのよ!」
「いやいや!当てんなよ!」
シアが角材を手放し、地面に座り込んで顔中から汗が吹き出し地面に汗が滴る。
「あんたが避けるから汗かいちゃったじゃない!」
「避けなきゃ、大ケガだよ!」
「・・・ち」
今、舌打ちしましたよこの子!
ご主人様に対して危害を加えようとして、さらに舌打ちですよ!
「シア、そんなに恥ずかしがらなくても、人間体が弱ってる時は心も弱っちゃうから、甘えたくなるもんだよ」
「ううう・・・」
シアを立たせる為に手を差し出す。
じっとその手を見てたけど、顔を赤くしながら俺の手を握って立ち上がる。
シアとの距離が近くなって、汗によって強くなったシアの臭いが鼻をくすぐる。
ギルドに出社し午前中はいつもの通り、ギルドの依頼を片付ける。
昼、シアと一緒にご飯食べながら商会のアポイントをお願いする。
「シア、食べながらで良いから聞いて欲しいんだけど」
「うん、だに?モグモグ」
「石鹸の準備も整ったから、そろそろ商会長と話がしたいからアポイントを取って欲しいんだけど、有力な商会は見つかった?」
「まんげんが、びゅうりょくなごうかいはめごしつでてるよ」
食べながらでも良いけどさ・・・飲み込んでからしゃべろうよ。
なんかリスみたいで可愛いけどさ。
「プランさんに聞いて何件か、有力な商会は目星つけてあるよ。どこもある程度の規模があって、王都にも支店がある所。この町は港があるから貿易が盛んで結構有力な商会が多かったよ」
さすがシアちゃん優秀です。
「まず、この町で一番大きな商会がサラダ商会。ここの商会は領主と繋がりが深い商会だって。二番目に大きな商会がコスモ商会。この商会は若い人が商会長でここ数年でいっきに伸びてきた振興の商会みたい。三番目がちこり商会。ここは商品に質の悪い物が混じっていたりして評判はあまり良くないけど、とにかく他の商会より安くて売れてるみたい」
「じゃあ、その三商会に商談の約束を取り付けてきて欲しい。日時は相手の都合に任せるけど、出来れば商会長と直接話がしたい。取引実績もない錬金術ギルドがいきなり、商会長と商談するのは難しいと思うけどね」
「分かった。出来る限りやってみる」
「後、出来る範囲で商談相手の情報も集めておいて欲しい」
シアの目がやる気にみちあふれていた。
商談は直ぐに決まった。
まず、コスモ商会の商会長に会える事になった。
コスモ商会の商会長は三十代前半で主に猫島との交易で財を成した振興の商会だ。
特に悪い噂はなく人当たりは柔らかいが、チャレンジ精神が旺盛で、上手いこと猫獣人の新たなニーズを発見し儲けた様だ。
コスモ商会の商館は港にあった。
一階は商談兼、倉庫となっているようで荷物が運び込まれては、荷ほどきと商談が行われていた。
猫の獣人の従業員も多く、にゃあにゃあ聞こえてくる。
近くの三角耳の男だけど可愛い猫獣人に声を掛ける。
「こんにちは、錬金術ギルドのギルド長のラムザールと申します。商会長と商談の約束をしております。取り次ぎお願いできますか」
「にゃあ!ラムザール様ですね。お話は伺っております。ご案内致します」
にゃあ!て言ったよ。男なのになんか可愛いし、やっぱり猫獣人のメイドさんが欲しい!
猫獣人の後ろを付いて行くが、目の前で尻尾が揺れててたまらん!
案内されたのは十畳程の広さの部屋に椅子とテーブルがあるだけのシンプルな部屋だ。
しばらくすると三十代前半の男性が笑顔で入ってくる。
「お待たせしました。コスモ商会商会長のコスモと申します」
「錬金術ギルド。ギルド長代理のラムザールです」
笑顔で握手を交わす。
さすが商会長、笑顔で感じが良いのだが眼光が鋭い。
たぶん、怒らせたら凄く怖いタイプだな。
「ラムザール様の噂は聞いておりますよ」
え!?噂なんてされてるの!
「お恥ずかしい話ですがどの様な噂ですか?」
「メイソンとその取り巻きの冒険者をお一人で倒され、先代ギルドマスターのリーザさんを助けだし、メイソンギルドを潰したと聞いております」
「まーそんな感じですが、よくご存じですね」
おい、おい、そんなの噂になってるの!
恥ずかしくて町歩けないよ!
「私は商売がら情報を集めるのは得意なものですからね。さて、本題に入りましょうか。本日のご用件をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
商会長だ、時間が無いのだろう。
サクサク行きますか。
「まず、これを見てください」
取り出したのはうちで作った石鹸だ。
「ほう、これは何ですかな?」
「手にとってご覧下さい」
コスモが撫でたり、臭いを嗅いだり興味身心といった感じだ。
「ではこちらはご存じですか?」
次に取り出したのは王都の石鹸だ。
「ええ、存じております。石鹸ですね。と言うことは始めに見せてくれた物も石鹸ですか?」
「その通りです。最初にお見せしたのは当ギルドで開発し、製作した石鹸です」
コスモは王都の石鹸とうちの石鹸を比べる。
「今まで王都の錬金術ギルドでしか、作れなかった石鹸のレシピを当ギルドで開発に成功いたしました。ただ当ギルドは小さなギルドですので、販路や販売の仕方が分かりません。そこでコスモ商会と良い関係を築けたらと思いまして本日お伺いした次第です」
コスモは顎を触りながらしばし石鹸を見つめる。
「成る程、お話は分かりました。大変、興味深いお話ですね。我が商会の取引先にも石鹸に興味がある方はいらっしゃいます。ただ、突然の事ですのまだここで詳しい話は難しいですね」
「ええ、もちろん本日は石鹸の紹介に上がっただけです」
机の上にさらに10個石鹸を出す。
「これは商品サンプルとして差し上げますので、まずお使いになってみて下さい。その上で気に入ればさらに詳しく話していきましょう」
「ありがとうございます。ちなみにこれを当商会が買うとしていくらで、いくつほど用意出来るんですか?」
この段階では腹の探りあいだな。
あまり具体的な数字は出せない。
「そうですね。今の段階で言えるのは王都の石鹸よりは安い金額で提供できます。個数は現段階では一日に100個。需要があれば増産も可能です」
コスモは笑顔を終始崩す事は無かったが、眼光の鋭さだけが増していっていた。
コスモの頭の中ではどのくらい儲かるのか、目まぐるしく計算していることだろう。
さあ、次の商談はどうなるかな。