シアのなんでなんで
シアが酷い熱を出してしまった。
俺は今出来る最高のパフォーマンスでキュアポーションを作る。
出来上がったポーションは今までの、どのポーションより、淡い光を放っていた。
出来たポーションを持ってシアの部屋を訪ねる。
ノックをすると、弱々しい声が反ってくる。
「シア、薬を持ってきたよ」
シアはベッドで頭から毛布を被っていたが、俺が入ると顔だけヒョコっと覗かせる。
「シア、調子はどう?欲しい物とかない?」
何も言わず、目だけが俺を追いかけてくる。
「薬だよ」
シアを抱き起こしてキュアポーションを飲ませようとするが、
飲もうとしない。
「シア、効かないかも知れないけど、俺が作ったキュアポーションだよ」
シアが小さく首を振る。
その後、熱で潤んだ目で俺を見つめてくる。
外の喧騒が別の世界の音の様に聞こえる。
この部屋が世界から切り取られ、二人だけしかいない世界。
「なんで・・・」
俺の目を真っ直ぐ、俺の心の中を見ようとするように見つめられ。
シアの綺麗な金色瞳から目が離せない。
その小さな唇がゆっくりと動き出す。
「なんで、なんで、そんなにいっぱい優しくするのよ・・・。私があんなに酷い態度とってるのに・・・なんで全く気にしないの・・・。自分の事より、私の事を優先するし・・・。なんで、なんで・・・」
シアの金色の瞳から大粒の涙がこぼれだす。
「私なんてどうなったていいの・・・。優しくされたって何も返せない。一生懸命仕事覚えて少しでも役に立ちたい、少しでも返したい。今の私にはもう何もないの!」
涙も鼻水も垂らして、ぐちゃぐちゃの顔で俺の腕にしがみついてくる。
「私、そんなにいっぱいもらっても、返せないよ・・・」
シアを優しく抱き締めて頭を優しく撫でる。
「シア。シアは大切なギルドの仲間だよ。シアがうちのギルドに来てくれて俺はすごく嬉しいんだ。俺はこの世界に家族は居ない。楽しい毎日だけど心の何処かで寂しかったんだと思う。シアが来てくれてから心の隙間を埋めてくれて、暖かい気持ちになれた」
シアの頭を優しく撫で続ける。
「だから、俺はシアに優しくするんだと思う。シアは一生懸命頑張っているよ。すごく助かっているよ。ありがとう。シア。シアにうちのギルドにいてもらいたい」
「本当?」
「ああ」
優しく笑い掛ける。
「だから、今日はこれを飲んでゆっくり休もう」
シアの唇にポーションの瓶を当てて傾けていく。
「マズイ」
シアが泣きながら笑って見せてくれた。
シアをそっと横にして布団を掛けてあげる。
シアが俺の手を握ってくる。
「ねえ、もう少しだけ居てくれる・・・」
優しく微笑み返して、シアの細い手を握り返す。
頭を優しく撫でてあげると子供の様な満足げな顔で、すぐに寝息が聞こえてくる。
シアも知らない土地に一人、周りは敵なのか味方なのかも分からず、不安しか無かったと思う。
しばらくシアの寝顔を眺めてから仕事に戻った。
昼、過ぎにシアの様子を見に行くがまだ寝ていた。
午前中には仕事が終わったので、シアの部屋に椅子を持ち込んで錬金術の本を読む事にした。
シアの静かな寝息を聞きながら、本読んでいたらいつの間にか眠ってしまった。
目を開けるとシアの顔が目に飛び込んでくる。
「ごめん、寝っちゃみたい」
大きく背伸びをする。
「シア、調子はどう?」
シアの額に手を当てると熱は引いている。
「熱は無いみたいだけど」
「心配掛けてごめんね。寝て起きたら、すごく楽になってた」
シアの何気ない自然な笑顔。
笑顔に時が止まって動けない。
「汗、かいちゃって、着替えても・・いい?」
シアのちょっと困り顔で時が動き出す。
「ごめん!すぐ出るよ」
何故か焦ってしまって、慌てて部屋を出た。
なんで、俺こんなにドキドキしてんだ!
ふと、思い付いた答えに、頭をブンブン振って頭の片隅に追いやる。
「もう、入って良いよ」
シアに呼ばれて部屋に入ると見た事の無いベージュのワンピースに着替えていた。
ベージュの上品さがシアをおしとやかな女性に見せている。
「へへ、この服どうかな?」
「良く似合ってるよ、どこぞのお嬢様かと思ったよ」
「これ、リーザさんにお古を貰ったの」
その場で勢い良く一回転して見せてくれる。
あ!パンツ見えそう!
「あ!今、エッチな目で見てたでしょ!」
「いや!見てないよ!」
「うそ!また、鼻の下がこーーーーなに、伸びてたよ!」
シアに冷たい視線を向けられるが、あれ!?
以前の視線とちょっと違う気がする。
上手く言えないけど、全てを拒絶する感じが無くなったような?
「シアちゃん要るかい?」
「はーい」
扉がノックされプランさんが入ってくる。
「あれー、寝てなきゃ駄目じゃないか。ほらほら。マスターも居るのにシアちゃんを無理させちゃ駄目よ。病人はしっかり休まなくちゃ」
プランさんに強引に布団に押し込まれる。
「シアちゃんの為にお粥作って来たから、いっぱいお食べ」
「プランさん、ありがとうございます」
食いしん坊のシアだ。
バクバク病人とは思えないスピードで食べていく。
「美味しいです。美味しいです」
「そんなに急いで食べなくたって誰もとったりしないわよ」
「ラムさんにとられちゃいます」
俺の方をチラッと見るけど、とらないから!
「あら、泣くほど美味しかったかい。また作ってあげるからね」
シアが泣きながらバクバク食べる。
「シアちゃんいる?」
「はーい」
今度はリーザさんとトールさんが訪ねてきた。
「体調は大丈夫?果物買ってきたけど、食べれる?」
「はい、頂きます!」
「あれ?シアちゃん泣いてるの?」
リーザさんが俺を睨む。
俺!?
「ラムさんシアちゃんに酷いこと言ったりしてないですか!」
「いやいや!言うはずないじゃないですか!」
ほら、シア、しっかりリーザさんに説明して!
シアに目で合図する。
「私、ラムさんにイジメられてるんです」
「シアーーー!」
「こら!ラムさん!見損ないましたよ!」
「僕もラム君がそんなことするなんてビックリだよ!」
おいおい!シアーーー!恩を仇で返すとはこの事だぞ!
悪くないけど、謝るしかないのか・・・
「・・・すみません」
「「「ははは、ははは」」」
皆、一斉に笑い出す。
「ラムさん冗談ですよ。ラムさんがシアちゃんにそんなことしないのは分かってますよ」
「もー、リーザさん驚かせないで下さいよ!」
「シアちゃん、ラムさんが悪さしたら私にすぐ言ってね」
シアも皆と一緒にケラケラと自然と笑っている。
「シアちゃんが元気になったら歓迎会やらないとね!」
「そうだね!また皆で騒ぎましょう!」
しばらく皆で談笑していたが、シアが病み上がりの為、今日の所は皆、帰っていった。