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石鹸大量生産

 シアが食堂でご主人様と呼んでくれた様な気がした次の日。

ギルドに石鹸の容器や眼鏡、柄杓が納品された。

午前中はいつものギルドの依頼を消化し、午後からシアと一緒に石鹸の大量生産に取りかかる。


 シアの顔は眼鏡と三角巾、口はタオルで覆っていて、変な人にしか見えない。

それでもよく見ると美人だと分かってしまう所が恐ろしい。


「シアよく似合ってるよ」

「スライムの液かけるわよ」


目が本気なんですけど。


「なんで貴方が付けないで、奴隷の私に付けさせるよ」

「残念、俺はブルースライムの液には触りません。それはシアの仕事なんです」

「それは分かってるわよ、万が一飛び散った事を考えると貴方が付けるべきでしょ」

「確かにそうだね。安全性を考えたらもう一個注文するか。とりあえず今日はシアの方が危ないからシアが付けてて」


眼鏡はシアに付けさせ、柄杓の説明をして作業を開始する。

まず石鹸の容器を並べて、油専用の柄杓で一回、容器に入れる。

この柄杓で一回すくうだけで規定の分量になる。

今度はブルースライムの液専用の柄杓でこちらも一回掬って。容器に加える。

後は俺がかき混ぜて、「錬金術」を掛けたら石鹸の出来上がり。


「凄く簡単になった。こんなに簡単な仕事でいいのかな?」

「仕事を効率化する事は大切だよ。同じ成果を上げるなら、無駄な事をいっぱいして頑張てやりました!より、効率化して楽して出来ました!の方が俺は偉いと思ってるから」

「それってなんか釈然としない・・・頑張ってる人の方が偉いと思う」

「俺だって頑張りを否定してる訳じゃなくて、頑張るなら効率化出来る様に、考える方を頑張ろうて言ってるだけだよ」


シアの表情は不細工な眼鏡と布巾で覆われていて分からないが、多分眉間にシワを寄せてウンウン考え込んでいる。


「何となく分かる様な、貴方って難しい事言うね」


その後も今の要領で石鹸を作っていく。

一個作るのに一分。

二十五個の容器全てを作り終えるのに三十分程で出来てしまった。


「もう終わっちゃたね、疲れたでしょ。一旦休憩して更に二十五個分作っちゃおうか」

「私なら疲れてないから大丈夫」

「ダメダメ。危険な素材使ってるんだから、決まった時間で休憩入れていこう。事故が起きてからじゃ遅いよ」

「うん、分かった」


お茶でも入れてホッコリしますか。


「お茶入れるけど飲む?」

「私が入れる」

「疲れたでしょ、休んでな」

「駄目!私にやらせて!」


シアが強く主張するので、シアにお茶を入れて貰って一休みする。

シアが真剣な面持ちで話しかけてくる。


「ねえ、」

「なに?」


段々とシアの俺に対しての睨む様なキツい視線は減ってきた。


「やっぱり、なんでもない」

「そっか」



 だからと言って笑ってくれたり、言いたいことを言い合える関係にはなってないけど、それでも少しの変化に俺はシアとの関係の変化に満足していた。


 昨日から何か言いたげなんだけど、なんだろう?

すごく気になってるですけどー。

でも、ぐいぐい聞いたら逆効果な気がして、もう少し気を許してくれて、話してくれたら嬉しいな。


「じゃあ、そろそろ石鹸作り再開しますか」

「うん」


二人で更に二十五個分の容器の石鹸を作り終える。

もう一度休憩して石鹸を作るを繰り返して、一日で容器百個分の石鹸作り終える。

一個の容器で出来た石鹸を五等分するので計五百個の石鹸を作った事になる。

さすがに百個はしんどい、次回からは五十個でやめておこう。

シアはプランさんの手伝いに受け付けに行かせる。


 夕方、トールさんが以前話していた、石鹸の申請書類を持って来てくれる。


「ラム君、この前話していた、石鹸のレシピの申請書類が出来たから見てくれるかい?」

「トールさんありがとうございます」


トールさんに渡された書類に、ざっと目を通す。


「トールさん、制作者の欄に俺の名前しかないんですけど、トールさんの名前は書かないんですか?」


トールさんが頭を掻きながら困った顔をする。


「いやー、僕なんて、ほとんど何もしてないからね、名前なんて書けないよ」


確かに俺の話がヒントにはなっているが、ブルースライムの液に辿り着いたのはトールさんだし、一緒に配合についても何度も試した。

俺の名前だけなんて出来ない。


「トールさんが居なかったら、ブルースライムの液も分からなかったですし、配合だって一緒に考えたじゃないですか!連名にしてください!」

「でもねー僕なんて、ちょっと手伝っただけだし」


トールさんのこの謙虚な所は好きだけど今回は譲れない。


「絶対、連名にしてください!連名にしないなら、登録しません!」


トールさんを説得して制作者をトールさんと連名にしてもらう。


「後、申請書で相談したいのが、このレシピを公表するかどうかだね」

「公表すると、どうなるんですか?」

「レシピを開発した場合、ギルド本部に登録は義務付けられてるんだけど、否公表にして独占することも出来るし、公表して

作りたい人がレシピの使用料を開発者に払って、誰でも作れる様にも出来る。ラム君はどうしたい?」


王都のギルドはレシピを否公表にして独占して儲けている。

石鹸は現代日本では当たり前の様に使われていて、生活に無くてはならい物だ。

うちのギルドが独占したら、作れる数も限られて、使う人も限られてしまう。

それよりも、公開して多くの人に石鹸を作ってもらって、多くの人に石鹸の良さを知ってもらって、石鹸の市場自体を大きくしたい。

それによって俺達のレシピが多く使われ、結果多くの使用料が入ってくるんではないだろうか。


「俺は公表したいです」


トールさんがプルプル小刻みに震えだして、突然抱きついてくる。

トールさん!俺!そっちの気はないんです!!!

俺の手を両手で掴んで、火照った顔で真っ直ぐ俺の目を見つめてくる。

トールさんご免なさい!


「さすがラム君!レシピは公開しよう!僕もそっちが良いと思っていたんだけど、なかなか決断出来なかったんだ。それを即決するなんて凄いよ!やっぱり多くの人に作ってもらって、多くの人に使って貰ってこそ、錬金術師冥利に尽きるってもんだよね!僕は目先の小さな利益に目が眩んで悩むなんて・・・恥ずかしいよ。ラム君は錬金術師の鏡だよ!偉大なる錬金術師シラセ様も発明した数々のレシピを公開したんだ。僕もシラセ様みたいになりたかったのに、ああ、情けない!シラセ様の凄い所はね~~~~~~~~なんだよ!」


トールさん、話し長いよ・・・。

トールさんは普段は冷静なんだけど、錬金術の話になると熱くなってしまう。


「じゃあ、トールさんも公開でいいんですね」

「もちろんだよ!」


首をブンブン縦に大きく振る。


「ギルドに登録したらすぐにレシピは広まるんですか?」

「直ぐには公開されない。まずギルドでも作ってみて、安全性や効果を検証して認められると認可が降りるからね。多くのレシピの登録申請がギルド本部に上がっていて、順番に検証していくから半年は掛かるんじゃないかな?」


それは都合が良いかも知れない。

その間に自分達の石鹸を先行販売して、市場での知名度を上げておけば後発の参入があっても優位を保てる。


「トールさん、レシピの公開の話なんですけど、当面の間は秘密にしておいて下さい」

「いいけど、どうしてだい?」

「情報はお金ですよ」


トールさんが首を捻っていたが、ラム君の事だ、考えがあるんだろうって納得してくれた。



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