シアと青い服
ミッツさんの話ではメイソンと冒険者四人は炭鉱に送られ強制労働の刑になる予定らしい。
午後はシアと一緒に石鹸を作っていく。
トールさんと石鹸のレシピは、ある程度完成しているので、今は品質を自分達で使用し確認している。
今日、シアと試したいのは石鹸を効率良く作る方法を考える事だ。
シアと一緒に錬金術室に移動する。
「シア、これから知る事は誰にも言っちゃ駄目だ。極秘だよ」
シアの目を見て真剣な顔で伝える。
小さく頷き返してくれる。
「これから、石鹸を作る。俺が最初に作るから見ていて。次はシアに作って貰うからね」
「あ・あの・私、錬金術なんて・・・出来ない・・・よ」
シアが不安そうな目で俺を見る。
「ごめん、ごめん、言い方が悪かったね。錬金術は俺がやるから、その前の準備を手伝って欲しいんだ。難しくないよ、ただ量って、入れて、混ぜるだけだからね。まー、実際に見た方が早いね」
まず、皮の手袋をして顔を手拭いで覆う。
「ブルースライムの液は、皮膚を溶かしたり、目に入ると目が見えなくなる危険な液体だ。顔を近づけたり、こぼさない様に注意してね」
シアにも手袋と手拭いを渡して着けさせる。
「準備が出来たら、まず油を計量して容器に移す。
次にブルースライムの液も同じように計量して少しづつ、ゆっくり加えながら、かき混ぜていく。
二つの液が混ざり合うと、油の色がほんのり変わってくる。ここまでをシアにお願いしたい」
いつもの睨みつける視線はなく、迷子の子供みたいな目で俺をみてくる。
「大丈夫、慣れるまで俺も一緒にやるから、やってみよう」
一旦、下を向いたが、顔を上げるといつもの強気の表情に戻っていた。
シアに教えながら、一緒に作業を進めていく。
特に問題なく油とブルースライムの液の混ぜ合わさった物が完成した。
「じゃあ、錬金術かけるよ。ちょっと眩しいよ。錬金術!」
光が収まると、先程はほんのり色が変わる程度だった油が、しっかり色が変わり、油とブルースライムの液が融合している。
シアが自分の作った、石鹸をじーっと見てから、伺うように俺の顔を見る。
「成功したの?」
「成功だ、やったね!」
シアの表情が夏の太陽の下の向日葵の様にほころぶ。
始めて見せたシアの表情に心臓が大きく跳ねて、見入ってしまった。
俺の視線に気付き、いつものむすっとした表情に戻り、睨まれる。
ちょっと位見たって良いじゃない!ご主人様だよ!
その後も、シアに混ぜてもらって、俺が錬金術を掛ける事を繰り返す。
ここで何点か問題が分かってきた。
①容器が足りない。
②ただ計量するだけなのだが、何回もやると大変
③安全性の問題
とりあえず困ったらトールさんに相談だ。
トールさんとリーザさんに集まってもらう。
「石鹸の相談なんですが」
「座って、お茶入れるから」
トールさんが四人分のお茶を入れてくれる。
お茶をすすりながら話し始める。
「まず、石鹸の販売に当たって、当ギルドで、どの程度、生産出来るのかを確認する必要があります。理由は色々有りますが、売上=販売個数×販売価格になるので、売上予測や販売価格の決定に必要になります。次に取引先から100個欲しいと言われたが在庫が無い場合。現在のバックオーダーと生産能力とから先方に納期を伝えるの必要になります」
「はい!」
リーザさんが元気に手を挙げる。
「はい、リーザさん何でしょうか?」
「難しくて分かりません!」
「はい、問題ありません」
リーザさんの頭をポンポンしてから先に進む。
「生産能力は高い方が良いのですが、今日作業していて問題がいくつか発見されました」
先程の①②③の問題を説明する。
「まず、容器の仕入れ先を知りたいのと、石鹸の計量だけに使う道具を作ってくれる場所を知りたいんです」
「ラム君、容器が足りないって事だけど、ギルドが容器を買っている工房に依頼すれば作ってくれるよ。専用器具に関しても工房に依頼すれば作ってくれるよ」
設備投資の金額に付いては後でプランさんとリーザさんと、いくつ注文するか詰める必要があるな。
「後、安全性を上げるため眼鏡が欲しいんですけど、売ってますかね?」
「ごめん、僕は眼鏡を知らないんだけど、どんなものだい?」
「ガラスで出来ていて目を覆って、ブルースライムの液が目に入らない様にしたいんです」
「うーん。それも工房の職人に相談だね。後で一緒にギルドの付き合いのある工房に行ってあげるよ」
トールさんは午後の作業が有るとの事なので、一旦解散し明日、工房を訪ねる事になった。
俺とシアは港のマーケットに毛布と服を買いに行く。
港のマーケットは何時もの賑わいを見せている。
シアは先程から俺に付いて来てはいるが、顔を右に向けたり、左に向けたり、終いには顔だけ後ろを向いている。
「シア、見たいものが有ったら、見てもいいんだよ」
シアの表情がパッと笑顔になり、何か言いかけてやっぱり止める。
固くなだなー。
その後は目当ての店まで、キョロキョロしないで付いてくる。
「こんにちは!」
「お!リーザの所の錬金術師さんか、うちで買った服の着心地はどうだい?」
「その節はありがとうございました」
「ちゃんと次からもうちで買ってくれよ!」
「ええ、ここ以外では買いませよ」
「今日はどうしたんだい?」
「今日はこの子の服を見せてもらいたくて」
店の主人にシアを紹介する。
「早速買いに来てくれたのか!そりゃあ、嬉しいね。俺の商売人の目は間違って無かったな。それにしても、もう彼女が出来たのかい!リーザちゃんにも負けない美人さんだね。でももうちょい、ふっくらした方が俺は好きだね」
おやじの好みは聞いてない!
シアは奴隷商館時にあまり食事を貰って無かった様で、やつれ、顔は疲れている。
「じゃあ、そのお嬢ちゃんのサイズの服持って来るから待ってな」
服屋のおやじが五着程、持って来てくれる。
「ほら、気に入るのがあると良いんだけどな」
持って来てもらった服を一着ずつシアに合わせていく。
最初は淡い黄色に服。
「どう?」
シアの金髪と同じ系統の色で悪くない。
次に茶色い服。
これも悪くない。
緑の服
濃い色もシアの金髪を引き立たせて良いね。
青い服
シアの金髪と相性良いね、結構好きかも。
最後に赤い服
赤も似合うけど、結構目立つな。
それは俺の日本人的感覚なのかな?
日本じゃ黒、白、茶、紺なんて地味な色が主流だったけど、この異世界は赤や青、紫など明るい色の服を着ているは多い。
どの色もシアの金髪に合っていた。
美人は何を着ても似合って良いよね。
「シアはどの服が気にいった?」
「・・・こんな高い服要らない、ボロ着でいい」
「全部、買って挙げたいけど今日は一着だけね」
「要らないって」
強情だなー。シアがなんて言おうと絶対買うけどね!
だって可愛い服着たシアが横にいた方が、絶対、錬金術頑張れるもんね!
本当はメイド服とか、露出のある服を着せたいけど、そんな服を着せたらリーザさんとシアの目線が怖すぎて出来ない・・・。
「シアが選ばないなら勝手に決めちゃうよ」
「・・・」
俺の趣味で青いワンピースにした。
お金が貯まったら他の服も買いにこよっと。
「おじちゃん、この青い服にするよ。後、毛布て扱ってる?」
「あるにはあるが種類は少ないぞ」
毛布も取り扱いが有ったので、青い服と毛布で300G支払う。
後、下着類を買わなくちゃいけないが、シアと一緒にはさすがに恥ずかしくて行けない。
「シア、なんだ、あれだ、他に必要な物があると思うんだ」
シアの眉間にシワがよって首を傾げる。
「ちょっと、俺は恥ずかしくて一緒に行けないから、100G渡すから一人で買って来てくれ」
「え・・・」
シアが口を半開きにして目を見開いて、しばらく放心していたが。
「はぁ?バカなの!私が逃げると思わないの?腕輪も無いのよ!」
「でも、下着は一緒に買いに行けないよ・・・」
「な!何言ってるのよ!」
シアが顔を真っ赤にして、口をパクパクさせる。
「他に必要な物があれば買っていいからね。俺はここで待ってるから」
シアに100G渡して送り出す。
しばらく経ってもシアが帰って来ません。
さらに待ちましたが帰って来ません。
もう辺りが暗くなり始めたけど帰って来ません。
シア逃亡!!!