借金18、000G!
「シアさんにはぜひ当ギルドで働いて貰います!」
奴隷商にシアにうちのギルドで働いて貰います宣言をした!
シアの大きな金色の目は真ん丸になっているし、奴隷商の口も半開きの状態で止まってしまった。
さっきのシアの態度じゃ採用されるとは思わないよね。
でも最後の質問はしっかり、好きって答えてくれたし。
いや!勢いだけじゃないよ!ちゃんと考えがあるんだよ・・・。
奴隷商が衝撃から立ち直り、止まっていて時が動き出す。
「ありがとうございます、ラムザール様。私の目に狂いは有りませんでした!流石で御座います!」
え!?・・・流石て何が?
シアに向き直り、俺が出せる精一杯の優しい声で話し掛ける。
「シアの意見を聞かないで、勝手に決めてしまってごめん。シアにうちのギルドで働いて貰いたいんだ」
「・・・・・・・」
やはり、キツイ目線は変わらなかったけど、嫌だとは言われなかった。
さて、問題は支払いだな。
25、000Gかー、手持ちは7、000Gちょい・・・。
やっぱり、払えません!
・・・なんて言える雰囲気じゃないよね・・・。
「今日はお金を持って来ていないので、後日、改めて来ますのでそれまでシアに乱暴な事はしないで下さいね」
「勿論でございます。大切に扱いますので、ご心配なさらないで下さい」
なんか奴隷商のニタニタが止まらない。
もしかして、あえて娼館って言葉を使ったり、シアを泣かせてから俺の前に連れきたり、全てが同情を買う作戦だったのではと思ってしまう。
でも、奴隷商に誘導させられたとしても、後悔はしていない。
シアにしばしの別れを伝え、その日は奴隷商館を後にした。
次の日、リーザさんとトールさんに昨日の奴隷商館の話をする。
「いやー、いつも勢いのあるラム君には驚かせられるけど、今回も思いきったね。てっきり、話を聞きに行くだけかと思ってたよ」
「俺もそのつもりだったんですけど・・・」
「でも、ラムさん、お金どうするんですか?うちのギルドじゃそんな大金払えないですよ」
「俺の補佐に付ける予定なので、俺が払おうと思ってるんですけど、今のペースで仕事をすると一ヶ月位掛かってしまって、出来れば少しでも早く奴隷商館から出してあげたいで・・・」
チラチラ
何かを気付いたのか、トールさん、リーザさんが深刻な面持ちで俺の顔を見る。
「ラム君、ごめん!錬金術の研究費用であまり貯えがなくてね」
「私もギルドの赤字を補填したり、ちょっと今月、化粧品と服を買いすぎちゃって・・・ピンチなの」
俺もぜんぜんお金貯まらないけど、この二人も相当なもんだな。
「少しばかり、ギルドの資金を貸して貰えますかね?」
「僕はラム君の返済能力が有れば問題無いとは思うよ」
「えー、如何にラムさんでも駄目ですよー!私達が貯めた大切なお金ですから」
頬を膨らませながら、リーザさんに断られてしまう。
あれだけ苦労して貯めたお金だ、そりゃー簡単には貸せないよね。
誠心誠意お願いしてみよう!
「ギルドマスター代理は大変だなー」
「う・」
「うちのギルド赤字だから人雇って売り上げあげないとなー」
「うう・」
「プランさんの負担減らしてあげたいなー」
「ぐう・」
取り合えず小声でボソボソ呟く度に、リーザさんが一歩づつ後ろに下がって行くのは、なんでだろーう。
リーザさんをからかうのは其れ位にして、その後はちゃんとリーザさんにお願いした。
リーザさんと返済期日を決めて、借用書もしっかり書いてリーザさんにお渡ししました。
俺の資産はー18、000G!マイナスですよ!
おかしい・・・錬金術で稼いで金持ちになるはずが、赤字のギルドのマスターで、個人の借金ー18、000Gなんて・・・。
ポーションの買い取りが一個5Gだから・・・3、600個作るのか・・・。
すぐにシアを迎えに行ってあげたいけど、仕事があるんだ待っててね!
朝にやるマスターの仕事を片付け、プランさんに今日、一日の優先依頼を確認して早速、作業に取りかかる。
優先依頼を終わらせ、プランさんに聞いた高額依頼を片付けていく。
プランさんの話だと、溜まっていた高額依頼は今日で消化しきってしまうそうだ。
明日から収入が減ってしまうーー!!
昼飯は食べず、今日の依頼を全て消化し急いで昨日の奴隷会館に向かう。
呼び鈴を鳴らすと昨日の奴隷商が笑顔で出迎えてくれる。
「ようこそ、お待ちしておりました。ラムザール様。さあこちらへどうぞ」
案内された部屋は昨日より小さいが、高そうな壺や絵が飾ってある。
「それでは先に手続きを致しましょう」
奴隷商から説明を受け書類にサインをして手続きが終了する。
「それではシアを連れて参ります」
奴隷商と一緒に入って来たシアは目の下に隈を作って、顔色も悪かった。
それでも、俺に向ける視線は変わらずにきつい。
「お待たせ致しました。シアにも奴隷ルールをしっかり教えておりますのでご安心下さい。こちらがシアが付けている奴隷の腕輪の鍵で御座います。この腕輪が付いている者は町を一人で出たり入ったり出来ません。信頼がおける場合には外して頂いて構いません。ラムザール様がシアの主人で在ることは、この証文が証明が証明してくれます」
鍵を受けとり、シアの不安を少しでも取れる様に優しく話し掛ける。
「改めてだけど、ラムザールです。今日から宜しくね」
「・・・」
やっぱり、シアは何も答えないで、俺を睨つけていた。
自分の運命を握っている相手が、どんな人間か分からず、シアは凄く不安だと思う。
シアと一緒に奴隷商館を出ると、外は夕日で真っ赤に染まっていた。
朝ごはん以降、食事をしていないので空腹が限界だ。
「シア、お腹空いてる?」
「・・・」
下を向いたまま何も答えないけど、構わず会話を続ける。
「もう、お腹ペコペコなんだよね、今日はその辺りでご飯にしよっか?」
ギルド宿舎に戻りがてら適当な食堂に入る。
「いらっしゃいませ!」
ちらっとシアの腕輪を見てから席数を聞いてくる。
「席はいくつ利用されますか?」
「二人でお願いします」
向かい合わせのテーブル席に案内され、メニューを渡される。
「今日の魚定食はライオンフィッシュのソテー、お肉の定食はワイルドボアのステーキとなっております。その他、マッドフィッシュのオイル掛けもお薦めで御座います」
メニューはアラカルトも載っているが、メニュー名を見ても想像出来なかったので、コースを注文する。
「シアは肉と魚どっちが好き?」
その言葉にうつ向いていた顔を上げ、俺をじっと見つめたまま長い沈黙の後ボソッと呟く。
「・・・肉」
「じゃあ、肉のコース二つお願いします」
「畏まりました。お飲み物は如何致しますか?」
「俺はワインで。シアはお酒飲める?」
「・・・」
また俺を見つめたまま止まってしまう。
答えないので水とワインの両方を注文しておく。
シアが飲まなければ、俺が飲めば良いだけだしね。
「じゃあ、シアの当ギルドの就職を祝って乾杯しよっか!ほらお酒が好きじゃないなら、水でも良いからグラス持って」
シアが少し手が震えながらワインのグラスに手を伸ばす。
「あ!ちょっと待って!」
俺の言葉にビックと体を揺らし、俺の顔を恐る恐る覗く。
「乾杯の前に腕出して」
しばらくの沈黙の後、ギュッと目を瞑って、ゆっくりと俺の前に付き出す。
「ガチャ」
鍵の解除音と共に細く白い腕に似つかわしくない、鉄の輪がテーブルの上に転がる。
閉じていた目がゆっくり開き、金色の目は自分の腕と俺の顔を行ったり来たり、忙しなく動いている。
「これで腕も軽くなったでしょ!さあ改めて乾杯しよう!ほらシア、グラス持って!それではシアの当ギルドの就職を祝ってかんぱーい!」
シアの戸惑いの表情を楽しみながらワインを口に含んだ。