奴隷を会館に行く
奴隷会館の一室で待つことしばし、奴隷商が若い女性を五名程連れて戻ってくる。
三名が人族で二名が獣人族みたいだ。
「ラムザール様の年齢に近い女性を連れて参りました」
十五才くらいから二十歳前半くらいの女性が並んでいる。
皆、美人や可愛らしい子でこちらが緊張して固まってしまう。
ただ、この場はグッと気持ちを押さえて、冷静なふりをして話を進めていく。
「まず端から羊族のメーメ、次が兎族のラッピ、その次が人族でプラス王国出身のネイル、その隣がトット村出身のノン、最後がヒューガルデン出身のシアでございます」
やはり、二名が獣人で三名が人族か。
どの子も可愛いが最後のシアは金髪金目で特に美人だ。
リーザさんとはタイプが違うが、同じくらい可愛いい。
リーザさんがふんわり系の美人なら、シアはキリッと美人タイプだ。
でも兎メイドも捨てがたいし、羊メイドも良いよね。
一人じゃないと駄目ですかね?
「何かラムザール様のご希望はございますか?」
「そうですね、ギルドの仕事を手伝って貰いたいので、読み書き、計算が出来る。もしくは覚える事の出来る人が良いですね」
俺は何を真面目に答えてるんだよ!
猫耳メイドが良いですって正直に言えよ!
「それでしたら、一番端のシアは商人の娘で、読み書き計算も出来るので、ラムザール様の希望にピッタリかと思いますよ!」
シアに視線を向けると、めっちゃ睨まれる。
あれ!?俺なんか悪い事したか!?
ちょっと目が、いやらしかった可能性は否定出来ないが・・・
一度、目を逸らせて、もう一度シアを見るが、やはり睨まれてるよ。
それを察して奴隷商が直ぐにフォローに入ってくる。
「いやー、シアはここに来たばかりで緊張してるんですよ」
奴隷商がチラチラ、シアに目で合図を送っている。
「来たばかりじゃないし」
「ん?」
今、ボソッとシアが喋ったよね。
奴隷商がめっちゃシアの事を睨んでるし・・・
「そうだ、ノンなんていかがですか?村娘で本当に気立ての良い子ですよ!読み書きは出来ませんが、真面目な子で直ぐに覚えると思いますよ」
「羊の子や兎の子はどんな子ですか?」
「獣族はご存じの通り、体力がありますから、力仕事や農作業に向いていますが、もちろん本人達はやる気がやりますから、錬金術のお手伝いも大丈夫ですよ!」
奴隷商に聞くと何でもお薦めしてくるな。
これ決められないな・・・
羊族の子は髪が白くてパーマかけたみたいに、モワモワしていて触り心地が良さそうだし。
兎族の子はあのピンと立った耳を触ってみたいし、村人のノンはめちゃくちゃ良い子そうだし・・・
「ちょっと話しても良いですか?」
「勿論構いませんが、人数が多いので簡単な質問程度にして、気になる子が居ましたら、個別に時間を取りますので」
本人達は一言も喋って無いので、全く性格が掴めていない。
「じゃあ、好きな事を教えて下さい。一番端のメーメさんから順にお願いします」
順番に好きな事を聞きながら答えに対して、さらに質問して話を広げていく。
人間自分の好きな話題になると、基本饒舌になり、その人柄が見えやすくなる。
面接でも、その人の人柄を知りたい時や、緊張して話せ無い子に対して良く使う手でもある。
「じゃあ、最後にシアさん教えてもらえますか?」
「言いたくありません」
「ぇ・・・」
あれ!?やっぱり俺嫌われてる!?
「後で私の方からシアにはキツく言っておきますので、申し訳ありません」
奴隷商が笑顔で俺に謝ってくるが、目が笑ってないよ・・・
「いや!怒らないであげて下さい!俺の質問も良くなかったので!」
後で怒られると、可哀想なので必死に弁解しておく。
ここで一旦、女性達は部屋から出て行き、奴隷商と二人になる。
「どうでしょう、さらにお話になりたい子は居りましたか?」
「そうですね、やはり読み書きが出来て、計算が出来るシアさんが一番良いのですが、俺、嫌われてますかね?」
苦笑いでそう奴隷商に答えると、奴隷商は困り顔で話始める。
「申し訳ありません。実は全てのお客様に対してあのような態度でして、キツく叱ってはいるのですが、一向に改善されず困っております。一度は貴族の方を大変怒らせてしまいまして、収めるに苦労致しました」
「俺が特に嫌われてるんじゃなくて良かったですよ」
「さすがに私も前回、あれほどの事を起こして、厳しく指導したつもりでしたが、今回も改善されず、この機会を活かせずに、ラムザール様に買って戴けない様でしたら、もはや娼館にやってしまおうと思っております」
ん!?
なに、この人さらっと言っちゃてんの!
俺が選らばなかったら、なんか悪い人になっちゃうじゃないの!
「それではシアを呼んで参りますので、お待ち下さい」
「あ!その前に先程の奴隷契約ルールについて教えて貰えますか?」
「畏まりました。それでは簡単にご説明させていただきます。」
主人側のルール
1、衣服を与えなければならない。下着や裸は駄目。
2、一日一度、十分な食事を与えなければならない。
3、屋根、壁がある住居を与えなければならない。
4、四肢が欠損する様な、体罰をしてはならない。
5、犯罪行為を命令してはならない。
奴隷側のルール
1、主人に危害を加えてはならない。
2、主人の財を侵害してはならない。
3、知り得た情報を漏らしてはならない。
4、主人の許可無く移動してはならない。
5、主人の不利益になる行動をしてはならない。
「と言うルールが御座います。これに違反した場合は、王国法に基づき厳罰に処されます。まー、主人の場合は罰金刑が多いですが、奴隷の場合は死罪、もしくは炭鉱送りになりますので、奴隷達もルールを厳守します。しかし、あまり酷い主人ですと、奴隷達も死罪覚悟で主人を殺すなんて事件も起きます」
ルールの内容はあくまで一般的な内容だな。
「ところで、もし先程の子達に当ギルドに働きに来て貰う場合は、どのくらい払えばいいんですか?」
「当館では見た目も美しい女性を揃えておりますので、25、000Gになっております」
「おおまかには分かったので、シアさんと話してもいいですか?」
「勿論ですとも、今呼んでまいりますね」
しばらくして奴隷商に連れられてシアがやって来る。
俺の前に座ってシアの目を見ると、目が赤く、涙ぐんでいる。
すごく話し辛いんですけど・・・
「シアさん、始めまして、ラムザールと申します。私は錬金術ギルドでギルドマスター代理をやっているのですが、当ギルドで働いて頂ける方を探しています。シアさんは錬金術に興味はありますか?」
「・・・無いです」
目に涙を溜めながら歯を食いしばって、俺を睨みつけながら答える。
「文字の読み書き、計算は出来ますか?」
「・・・出来ると思います」
「じゃあ、俺の事は好きですか?」
「・・・嫌いです」
「ここ、奴隷商館は好きですか?」
「・・・大嫌い」
「じゃあ、最後に商売は好きですか?」
下唇を噛みながら、俺を睨みつけたまま、その大きな金色の瞳から涙が出て、頬を伝っていく。
「・・・好きです」
「ありがとうございます。質問は以上です」
奴隷商は怒りの余りこめかみがピクピクしている。
たぶん俺の前に連れてくる時に、相当キツくシアに注意したんだろう、シアが涙目になっていたから、暴力を振るったのかも知れない。
それでもシアは態度を変える事無く、無愛想な態度を貫いたんもんだから、奴隷商としては許せないのだろう。
だけど、俺の気持ちはもう決まっている。
奴隷商向かってに宣言する。
「シアさんにはぜひ当ギルドで働いて働いてもらいたいと思います!」