メイソンが来る
良く寝た。
床で寝るのに違和感がなくなってきている。
馴れって凄い。
いつのも屋台で、パンとミルク粥を食べる。
これが優しい味で、朝にはちょうど良い。
いつもと同じ時間に出社すると、また全員集合してワイワイしている。
「おはようございます!朝から皆さんどうしたんですか?」
「それがですね、素材屋、冒険者ギルドで薬草が売り切れていて手に入らないんです」
リーザさんが真っ白な顔をしている。
「どうやら、メイソンギルドが買い占めを行った上に、冒険者ギルド、素材屋に追加注文も出していて、当面三、四日は薬草はメイソンギルドに優先的に流されるらしい」
「と言うことは素材が無くて、ポーションが作れないってことですか・・・」
「そうなるね」
悲痛な顔でトールさんが声を絞り出す。
その間リーザさんは青い顔で震えている。
「後、薬草はどれくらい必要なんですか?」
「足りないのは二百個分くらいかな」
「ミッツさんにお願いしてみたらどうですか?」
「そうだね、今、ノットさんともそれを相談していた所だよ。だけどミッツさんが引き受けてくれたとして、間に合うかどうか」
「うじうじしててもしょうがないだろう。私が冒険者ギルドに行ってくるよ」
プランさんが元気に笑顔で言って、リーザさんの肩をバシっと叩いてギルドを出ていく。
「プランさんの言う通り、僕たちも出来る事をやろう!まだギルドに残っている材料でポーションを作ろう」
トールさんに励まされてリーザさんも自室に戻って行く。
俺は自室の薬草の在庫が切れているので、薬草を分けてもらいにリーザさんの錬金術室に行く。
リーザさんが心配で様子を伺うのもある。
ノックをしたが返事が無いのでそっと開けてみる。
リーザさんがポーションを作っている。
こちらには気づいていないのでそのまま観察する。
ん!?あれ、明らかに分量間違えてるよな?!
あ!こぼした・・・
「リーザさん大丈夫ですか?」
「え!? ラムさん! どうしたんですか?」
「自室の薬草が切れてしまったので、分けてもらおうかと思って」
「そうだったんですね、そこにまだ一瓶有りますから持って行ってください」
瓶を受け取って部屋を出ようとしたが、リーザさんが心配で少し後ろで見せてもらうことにした。
やはり、先程ロビーで見たようにショックから、立ち直ってなくて危なっかしい。
「リーザさん、俺が成長したんで、ポーション作り見てくださいよ」
「え!?」
リーザさんと代わってポーションを作り始める。
昨日、三十個連続で作ったので、ポーション作りもだいぶ様になっているはずだ。
昨日と同様一個辺り五分、もしかしたらもっと早かったかもしれない。
一個、二個、三個とどんどんポーションを作っていく。
「早い・・・ラムさん早いです。私の倍以上のスピードで作ってます」
「そうでしょ、俺、成長したんですよ」
リーザさんに優しく笑いかける。
「だから、一人で抱えこまずに俺や、トールさん、ノットさんも居ますから、一緒に頑張りましょう」
リーザさんが目を見開いて少しの間、俺の顔を見ていた。
「そうですね!まだ諦めるのは早いですよね!元気でてきました!ありがとうございます!」
「よかった。元気な方がリーザさんらしいですよ!」
「ふふふ、新人のラムさんに励まされるなんて思いませんでした」
リーザさんにいつもの笑顔が戻ってきた。
「昨日だけで三十個作りましたよ!」
「!!私も負けてられませんね!」
リーザさんに元気が戻って良かった。
自分の錬金術室に戻ってポーション作りを開始する。
二時間ほどポーションを作っていると、プランさんが戻ってくる。
「プランさんどうでしたか?」
「それがね、ミッツさんは採取に行っていて戻ってくるのが明日になるそうなのよ。一応、ギルドで薬草採取の依頼を出してきたけど、どうやらあのくそじじいが、裏で手を回して、うちの依頼を請けないよう、冒険者に圧力をかけてるみたい」
「メイソンさんがそんな事もしてるんですか!」
リーザさんが悔しそうに唇を噛む。
カランカラン
誰かがギルドに入って来る。
当分、一般受付は中止している。
入って来たのは太ったおじさんと、見るからに悪そうな男4人組だ。
おじさんは顔が脂ぎっていて、旨い物食べて肥えました、て体型だ。
「メイソン!」
「やあ、リーザさん」
リーザさんが驚きの声をあげる。
確かメイソンはこの町にもう一つある錬金術ギルドで、リーザさんのギルドから引き抜きをしていて、敵対関係にあるギルドのはずだ。
「いやー、入札に負けてしまいましたよ。リーザさんは、なかなか強気な値段を付けたようですな。ヒヒヒ」
リーザさんは黙ってメイソンを睨みつける。
「勝てると思って発注した薬草が、無駄になってしまいましたね。残念、残念」
「何しにきたんですか!」
リーザさんがめっちゃ怒っている。
初めてみたリーザさんの怒った顔。
けっこう怖いな!!
「入札に勝った人が、負けた相手を怒らないでくださいよ。ヒヒヒ」
ニヤニヤ、リーザさんが怒っているのを楽しそうに見ている。
初対面だが嫌悪感が半端ない。
俺と目が合う。
「ん?初めての顔がありますねー。新人さんですかね?」
「はい、最近入ったラムザールです」
「そうですか、そうですか、どうですか?私も錬金術ギルドをやっている者です。ここより良い給与を出しますよ、移籍しませんか?」
リーザさんのギルド内で引き抜きの話をするなんて、完全にこちらを舐めている。
「ちょっとメイソンさん!止めてください!」
リーザさんが更に怖い顔でメイソンを睨みつける。
「ヒヒヒ、なに私は錬金術師の皆さんに、より良い環境で働いてもらいたいだけですよ」
「俺はリーザさん、トールさんにお世話になっているので、このギルドを離れるつもりはありません!」
「ラムさん!」
リーザさんが嬉しそうにこちらを見る。
「気が変わったらいつでもどうぞ、お持ちしています。ヒヒヒ」
メイソンとゴロツキ四人組は帰っていった。
「あの口ぶりだとわざと、入札に負けた様な感じだったね」
「トール、ごめんなさい。私、あいつの挑発に乗って予定した金額より下げてしまったの」
「仕方ないけど、入札金額が低いと、冒険者への直接依頼の経費も抑えたい所だね」
「ごめんない・・・」
「良いんだ、リーザ、気にしないで。君にばかり任せて僕らも悪いと思っている」
なんかリーザさんとトールさん良い感じだな・・・もしかして二人って・・・
「そこで薬草採取なんだけど、僕が行こうと思う」
「駄目!!!危険すぎる、、、貴方まで居なくなっら、、、」
「危険なのは分かっている、だけど僕の職業は採取師だ。効率良く薬草を集められる」
「でも・・・お父さんと同じになったら私・・・」
「このまま、期日迄に納品出来なければ、このギルドを失ってしまう。僕にとってもこの思いでのギルドを潰したくない」
いつも優しいトールさんが、今日は強い意思で引かない目をしている。
「俺もその薬草採取に一緒に行きますよ」
「ラム君に危ない事はさせられないよ。前回と違い、短時間で多くの薬草を採取するから、森の奥まで入って行く必要がある」
「だったら尚更、俺を連れて行って下さい!狩人の職業スキルでモンスターの位置が分かりますから!」
しばし思案するトールさん
「分かった。狩人のラム君がいた方が危険度は下がるし、薬草も量が多いだけに一人では厳しい。必ずお礼はする、頼めるかい?」
「はい!任せてください!」
「流石に夜は採取出来ない。前回と同様に日の出と共に出発しよう」
「ラムさん無理はしないで、絶対生きて帰ってきてくださいね!」
「はい!リーザさんはポーション作りの準備をして、待っていてくだい!」
これで薬草が採れればリーザさん、トールさんに恩を返せそうだ。
午後残りの材料を全てポーションにして、防具を買いに行く。
今回は森の奥まで入って行くため、危険なモンスターに遇う確率が格段に上がる。
もちろん戦うつもりは無いが備えて置いた方が良い。
冒険者ギルドの近くに防具屋もあった。
看板には定番の鎧のマークが書かれている。
「すみませーん、防具が欲しいんですが」
「いらーしゃい」
防具屋の女性店員は赤い服に黄色い耳の狐の獣人だ。
目も黄色でちょっとつり目で全体に狐顔だ。
猫の獣人はチラホラみたが狐は初めてだ。
じーと耳を見ていると、耳がピクピク動く。
さらにピクピク動く。
狐獣人の店員さんがニヤっとしながら
「お兄さん、そんなに、見たら恥ずかしいですよー」
「あ・・・、すいません、初めて見たので、つい。ごめんなさい」
「そうですよねー。この辺りは猫人の縄張りなんで、他の獣人は少ないですよねー」
「縄張りなんてあるんですか?」
「ありますよー。この港が一番、猫島に近いんで、他の獣人はこの町は敬遠してますねー。ところで今日はどの様な品をお探しですかー」
「森に薬草採りに行くので最低限装備が欲しいんです」
「畏まりましたー。予算は以下ほどですかー」
「300Gくらいですかね」
狐獣人のお姉さんは店内でいくつか見繕って持って来てくれる。
「森で怖いのがウルフですかねー。ウルフは複数で狩りをするんで囲まれたら、キャー怖い!てな訳で、限られた予算で大事な所から買っていきましょう。まず皮の靴、皮の籠手」
見せてくれたのは靴とゆうよりブーツで膝したまで長さがある。
皮の籠手は手の甲から肘の下までをカバーしている。
「ウルフはまず手や足に噛みついて、引き倒してから喉をガッブとしてくるので、手、足は守った方がいいですよー。手と足は致命傷になりずらいですけどー、結構怪我しやすいので、おすすめです。あと上半身も守りたいですけど予算的に、ここまでですねー」
お金がないので今回はここまでにして、順次装備を増やしていこう。
狐のお姉さんのおすすめの二品を購入して帰った。