今後の予定と憤り
「とりあえず…余計な横槍が入ったが今後どうするか決めるか。報告のため一度戻るか、討伐のために続行するか」
「「「…」」」
皆の息を呑む音が聞こえる。
そりゃそうだろう。
これは冒険者にとって“重要な決断”だからだ。
「…シャールはどう考える?」
エバンスが再度俺に問いかけてきた。
「…そうだな…正直なところ帰る方が賢明だろうな」
「理由は?」
「単純な話だ。もし、マグマタートスみたいになってるなら相応の道具と策を用意しなきゃならん……強めの毒なのは予想できてたから解毒剤もいいのを用意したが…まさか、瞬間的とはいえ溶解液に近い毒になってるなんてな……とにかく、溶解液ならちゃんと準備しないとまずい…こっちはマルチポイズンスライムの習性を全く知らないんだ…出会った瞬間やられるなんてあり得るぞ?」
「…シャールの言う通りかもね…」
話を聞いていたエバンスが賛同した。
「…相変わらずぅ、よく回る頭よねぇ」
「…マリーナ…それ褒めてる?」
「あら、もちろんよ。私もシャールの考えに賛成だもの…というか、此処にいる全員そうでしょうけれど」
とマリーナがエリナとリメルダの方を向けば、2人とも頷いていた。
治療場を直に見た彼女達は、シャールの考えに異論はなかった。
むしろ、正しい。
あの現場を見たからこそ、どれだけ厄介な相手なのかを2人は特に感じ取っていたからだ。
「…なら戻るか……と言いたいんだが…」
「…何か不安が?」
「…グラム達…へたに手を出して刺激しないだろうかってな…」
グラムは口は悪いが、それなりの腕がある冒険者だ。
弱い奴への偏見は認めたく無いが、その実力は認めてる。
だからこそ、命を捨ててしまう可能性がある戦いにはおいそれと手を出さないとは思うが…
「えぇ〜ほっといたらいいんじゃなぃ〜?。ウチのシャールを馬鹿にした報いってやつだしぃ」
「いやいや、そういうわけにもいかんでしょ…それに俺は気にして無いんだし」
「もぉ〜、シャールがそんなんだから何も知らない奴らがつけあがっちゃうのよ〜?」
「…手加減を知るべき」
マリーナだけでなく、リメルダも頷く。
どうやら、謙遜と優しさについて見直すべきだと言ってるようだ。
「いや、だから事実だし……んんっ…とりあえず、戻るで依存はないな?」
全員が頷くとひとまずギルドに戻る事となった。
もちろん、それ相応の対策をして戻ってくるつもりだが……何も起こらなければいいんだけど…
◇◇◇◇◇◇
「…と言うわけで、対策が必要だと言うのが私たちの見解だ」
エバンスはパーティーから離れると、1人でギルドの受付嬢に報告をしていた。
「…なるほど…そんなにですか…」
「あぁ、実際の姿を見たわけでは無いから何ともいえないが…恐らくは今の危険度より遥かに上な存在なのは間違いない」
「…出会った瞬間に溶かされちゃたまりませんしね…」
「……」
「…言いたいことあるんですね?」
受付嬢は難しい表情を浮かべるエバンスを見てそう告げる。
彼が大体こんな感じになる際は、大抵“あの人”絡みの事だからだ。
「……安全性を取るためにも、テイマー達に協力を要請…マルチポイズンスライムの習性に関して情報を集めてみてはどうかと……」
「…と、シャールさんが言ってたんですね…」
ふいっとバツが悪そうに頷く。
もちろん、エバンスはシャールが考えた内容を言いたく無いわけでは無い。
むしろ逆だ。
シャールが考えた案なのに、道化師の意見じゃ無視されるからエバンスの考えとして報告してほしいと言われていたからだ。
もちろん、エバンスは毎回シャールの考えとして広めたいと言うが、取り合わないシャール。
それもしかたなかったりする。
それが道化師という残念クラスの宿命。
要するに、信頼するにあたる要素が皆無なのだ。
たとえ正しいことを言っていたとしても、まともに扱われないか、ホラを吹いているといわれるがオチなのだ。
さらに厄介なのは、シャールの周りには上位クラスばかりなのもあったりする。
結論から言えば戦闘において、シャールは弱く無い。
現在のシャール達のパーティーのクラスはAクラス。
総合的な意味合いで決められているから、明確な数値などにはできないが、サポート特化に近いシャールも、それなりの戦闘力がある。
しかし、彼がモンスターを倒したとしても、周りにいる勇者や魔女が倒した、とどめを奪っただけと言われてしまうのだ。
もちろん、彼の強さを理解している人間は少なからず存在するがそれを遥かに上回る…有象無象が相手じゃ覆すのは無理難題でしかない。
「……本人がそうおっしゃるなら仕方ありませんね…」
「…何とかシャールの手柄にできないか?」
「…お気持ちは察しますが……やはり難しいかと……ギルドとしても、やはりシャールさん以外のメンバーか勇者パーティーからという扱いでないと…」
「…言いたいことは理解しているが…現に正確な情報を導き出しているのは毎回シャールだ…彼がいなければ、とんでもない結果になりかけた事例なんていくつもあるのにっ…」
「……ギルドマスターもシャールさんには感謝していますが…やはり、情報を伝達する手段も適したやり方でないと…」
「…っ…」
思わず手に力を込めて、カウンターを殴りつけたくなるエバンス。
仲間を大切にする彼からしてみれば、たかがクラスのせいで功績が認められないというのは怒りに身を任せたくなるほどの感情の高ぶりを生んでいた。
「…わかったっ……俺宛からという扱いで情報を扱ってくれ……」
「…はい…わかりました」
しかし、彼だって馬鹿では無い。
ちゃんとした情報であろうと、信じてもらえなければ意味がないということは重々承知している。
そういう意味ではギルドのやり方は正しいと言わざるを得ない。
…しかし…
“……馬鹿は死なねば治らないっと言うが…何十何百…いや、数え切れないくらいの生死を繰り返してきた今でさえ、これほど愚かであるなら……もはや、馬鹿は取り抜けない要素なのだろうな…人間にとって…”
人類の守護者と言われる勇者は心の中でそんな事を思わずにはいられなかった。