自覚しない才能
「あっ、シャール!」
「すまんっ、遅れたっ…!」
必死に走ってようやく待ち合わせ場所につけば、すでにみんな集まっていた。
やっぱり待たせちまったか…悪い事をしたな…
「もぅ〜遅いわよぉ?」
マリーナはクスクス笑いながら、からかってきた。
「ごめんって、ちょっと話し込んじまってな…」
「ははは、構わないさ。シャールにはいつも迷惑をかけているからねっ、これくらいなんともないよっ」
なんともイケメンな勇者様だわ、ほんとっ
眩しすぎて涙が出そうっ…
「……ほんと悪りぃ…で、今日はどこに向かうんだ?」
反省しつつ、今日の予定を確認する。
基本、冒険者である俺たちはギルドでクエストを受注し、依頼をこなす。
クエストの選定に関しては、リーダーのエバンスに一任していた。
「今日はこのクエストを受けてみる予定だよ、珍しい内容だったからね」
と、我らがリーダーのエバンスが依頼書を見せてきた。
えぇと…なになに……
「…マルチポイズンスライムの討伐?」
ポイズンスライムは聞いたことあるけど…マルチ?
聞いたことない名前だな…
「どうやらポイズンスライムが進化した姿らしい…」
「…ほぅ…進化か……」
「…結構な被害が出てるのかしら?」
マリーナは被害度の内容を問うた。
被害度の内容は討伐クエストにおいてかなり重要だったりする。
何せ、人間より強い生き物であるモンスターを相手に取るんだからな…
相手の強さがどの程度なのかを把握するのは基本的な事だが疎かにしてはダメな部分だったりする。
「何でも、近くにあった中規模の村の作物や木造の家が全てダメになったらしいんです…」
…それはまた…
「…マルチポイズンスライムは1匹か?」
「はい…」
俺は考え込む。
このマルチポイズンスライムの脅威について…そして対策できるのかについてだ。
1匹とはいえ、中規模な村を壊滅状態に追い込める新種モンスター…
生態について情報が不足しているとはいえ、スライム種だからと安易に弱いと決めつけるのは間違いだ。
もちろん、この上位クラスパーティー(俺を除く)なら倒せるだろうな。
…スライムに負ける勇者とかみたくないし…
でも、致命的な傷を負う可能性はある。
聖女がいかに回復系統のスペシャリストだとしても、回復不可能なレベルでダメージを負えば回復はできない…
どうしてもという場合はあるだろうが…それは最後の最後まで取っておくべきだ。
それに、解せない部分が1つある。
「……質問てか、確認なんだが…ポイズンスライムは確かに毒を持っているが、そこまで恐ろしくないよな?」
「えぇ、微弱な毒しか保持できませんからね……1日中毒に浸ったりとかでなければ自然治癒で何とかなるレベルです」
「…だが、報告を見る限りじゃ…かなり強力な毒みたいだな…」
「そこが解せない点です…そもそも、スライム種が進化するなんて何十年ぶりですよっ…」
間違っても、俺たちが知っているポイズンスライムの毒レベルじゃ畑をダメにするどころか、獲物を狩るのすら難しい。
エリナが言う通り、そもそもスライム種は基本脆弱な部類に属しているため、モンスターの上下関係でも、狩る側というより狩られる側なのだ。
中には強力な個体もいるが…ポイズンスライムの1匹や2匹……たとえ10匹集まっても、進化するための経験値だって稼ぐのは至難のはず…
「…別原因で進化したか…あるいわ…」
「…誰かが進化させた…と見るべきか」
エバンスが俺の言葉に続いた。
確かに、そっちの方が可能性が高そうだな…
しかし何のために…?
「…現状、今の情報だなけじゃわからないな…」
「どうしようか、シャール…この依頼を受けれそうかい?」
それを俺に聞きます?
…勇者や聖女、それに魔女…ましてや特殊クラスまでいるんだからわざわざ俺に聞かなくてもいいだろうに…
「…とりあえず、様子を探ってみるか…俺たちの予想を超える存在ならギルドに報告して対策してもらう必要があるからな」
「わかった」
「…てか、こんな事俺に聞かなくても…エバンスなら判断つくだろ?」
「そんな事ないよ。僕より、シャールの方が適任さ」
「いやいやいやいや」
「そう否定しなくても……モンスターに関してシャールの方が詳しいんだから、意見を求めるのは当たり前さ」
「…詳しいったって、そんな変わらないと思うけど…」
「ポイズンスライムの毒に対抗するには?」
「はぁ?…微弱な毒だからな…とりあえず、低ランクの解毒薬を持ってくか…自然治癒を高める薬草を飲めば十分だな」
「ポイズンスライムの習性?」
「…普通のスライムと違って、周りにはポイズンスライムだけで行動する…あとは毒系統か毒に平気なモンスターが集まりやすい…あっ、これは習性ってもんじゃないな」
「ほらね?」
「…はぃ?」
どういう事?
「…はぁ…エバンス、それじゃわからないわよ……うちのサポーター様は鈍感なんだから」
「ど…鈍感とは失礼な…」
「…貴方を鈍感と言わなくて誰を鈍感と言えるのかしらね……私たちの中じゃ、モンスターに1番詳しいのは貴方なのよ、シャール。だから、私達で対処できるか確認してるの」
「…いや、だから詳しいって言っても…ギルドのモンスター図鑑を読めばわかる程度の内容だぞ?…多少脚色は入ってるけど…」
「…その内容をほとんど…さらには実体験を交えて補正した情報を覚えている貴方はすごいという事なのだけれど…」
「……そうかぁ?」
「百聞は一見にしかず……実際に感じなければ見えてこないこともある……それが本人の能力なら尚更…」
「…まぁそうかもしれないけどぉ……まぁいいわ。率直な意見を聞かせて、シャール。マルチポイズンスライムの対処を私たちができると思う?」
「……断言は出来ないけど、可能だとは思う…そもそも、勇者に聖女、魔女に特殊クラスまでいるパーティーだからな。攻撃特化じゃないとはいえ、バランス型…その中でも上位に位置するパーティーだし……むしろ、このメンツで対処できないなら国を動かす必要があるレベルだ」
「…ふむ…でも、断言できないってことは不安要素はあるんだね」
「ある…って言っても、情報が少なすぎるから…こっちも断言できないんだけど……」
「…マルチポイズンスライムがそれだけ強いかもってこと?」
「それもあるけど、もっと最悪なのはマルチポイズンスライムの周りに集まってくるモンスターについてかな……なんせ、“餌”のレベルが上がってるんだからな…つられてくるモンスターのレベルが上がっていてもおかしくはない」
「…なるほど…そこは盲点だったね…」
「見る人が見れば別種のモンスターだけど…全く知らない側からすれば、関係ないからな……まぁでも、マルチポイズンスライムは毒のレベルが上がったみたいだし、危険な存在なら他のモンスターたちは近づかないかもしれないけどな…」
「…可能性は捨てきれないか…」
全くない、限りなく低いというなら問題はないけど……
今回は可能性が高そうだからな…
「不確定要素が多すぎるからな…まぁ、あとはエバンスに判断は任せるけど」
とりあえず、最終決定権があるエバンスに投げつけた。
「……そうだね………わざわざ危険を犯す必要はないけど…放置も問題だからね……わかった、受けよう……ただし、討伐じゃなく調査に切り替えてもらえたらだけどね」
流石、我らが勇者様…危機管理はしっかりしてなさる…