第二話 それぞれの苦悩
不定期ですが書きたいことは書けてます!
「あっ、先生...。」
「む、お前かヴァーサ。」
僕であることを確認すると先生は大きくため息をついた。
またお前かと、何度迷惑をかけたら気が済むのかと、そういう顔に見えた。
「まったく...余計な騒動を起こさないでくれ。」
先生にとって自分のクラスの生徒が問題を起こせば自分の評価に関わる。それだけは絶対に避けたいのか常日頃から問題だけは起こすなとクラス全員に言っていた。
「こんなところで何をしているんだ?まさか...自殺しようとしたんじゃないだろうな!?」
語気を強めて言った。
正直僕はこの人が苦手だ。優秀な生徒や不良の生徒には下手に出て、才能が無かったり成績が悪かったり、気の弱い生徒にはとても当たりが強い。
どうせ今から死ぬんだ。この際強気に言ってやろうと思い僕も語気を強めた。
「...そうですよ、もう疲れたんです。僕は...
僕はもう生きるのが辛いんです!!」
そう言うと先生は怖い顔をして僕に平手打ちをした。結構な強さだったため僕は少しよろけた。
「お前...自分が何を言っているのかわかっているのか!!」
わかっている、自分が何を言っているかくらい。確かに僕が言っていることは他人から見れば最低かもしれない。親から貰った命を、一つしかない大切な命を自ら捨てようとしているのだから。
でもそれ以上に、
「死ぬな!生きろ!」
僕の事を知らない、いや、知ろうともしなかった人に偉そうに命令されたくなかった。
貴方に何がわかるんだ。貴方が僕に何をしてくれたと言うんだ。何度も相談した。だけど一度だって真面目に聞いてくれたことはない。寧ろ「お前に問題がある」や「彼らがそんなことをするはずがない」の僕を否定する言葉ばかり。
怒り、悲しみ、不信感、嫌悪感。
心の中で色々な感情がぐちゃぐちゃになった。
心配されたいとは思っていない。
でもひょっとしたら、この一件をきっかけに先生が少しでも変わってくれるかもしれないと思った。
自分のクラスの生徒が目の前で自殺しようとするくらい悩んでいる。僕だけじゃない、他のクラスメイトの中にも悩んでいる人がいる。
一先生として少しでも生徒と向き合ってくれるかもしれない、そう思った。
でもそんな淡い期待はすぐに打ち砕かれた。
先生は少し俯いて手で口元を隠しながら
「もし...この学院で自殺者なんて出たら...歴史ある我が学院の名に傷が...。」
「!!」
少し汗を流しながら心配そうに言った。
正直わかっていた。先生が僕の事じゃなくて学院の名に傷が付く事を心配してたことを。
わかっていたけど、いざ面と向かってはっきり言われるととても悲しい。
どうして死ぬ時にまでここまで言われなければならないのか、
目にたくさん涙がたまっている。
震えながらも必死に泣くのを我慢した。
その様子を先生は引きながら見ていた。
「おっ、おい泣くなよ...。泣かれてもこっちが困るんだが...。」
すると
「黙って聞いてりゃ好き勝手言ってくれんじゃん、センセー。」
ルーフが口を開いた。
しかし先程までの優しい口調ではなく少し怒りを感じた。
「何だお前は...見たところ生徒じゃないみたいだな、部外者は立ち入り禁止だ!出て行け!」
「あーはいはい、わっーてるよ。ただしこの子との話が終わってからな。」
「駄目だ!今すぐ出て行け!さもなくば...。」
先生は右の掌に魔法陣を浮かべ戦闘態勢に入ろうとしていた。しかしルーフは涼しい顔をして
「許可を得ず学院内での魔法の使用は生徒教員問わず禁止、じゃないのかい?センセー。」
そう言い放った。
「っ!?何故貴様がそれを...。」
「まっどっーだっていいじゃん、そんなこと。それより」
「ヴァーサッ!!貴様まさか」
「テメェは今俺と喋ってんだろ?話逸してんじゃねぇぞ。」
僕は少しビクッとした。
さっきまで僕に優しい言葉をかけてくれたルーフが別人のような顔で先生を睨みつけながらそう言ったのだから。
「ぐっ...。」
ルーフの気迫に臆したのか先生は少したじろいでいた。
「俺は少しでいいからフリィと話したいだけだ、話が済んだら出て行く。もちろん大ごとも起こさない。」
「とにかくすぐに終わらせるからさ、頼むよ。」
「駄目だ、さっさと出て行け。」
ルーフが笑顔になって話した途端先生は強気な態度になった。
さっきまで臆していたのに、またいつもの強気になる。そういった面ではこの先生もある意味凄いのかもしれない。
「そっか...仕方ない、手荒な真似はしたくなかったんだが...。」
そう言うとルーフはローブから左腕を出し先生に向かって突き出した。
僕と先生は突き出した物を見て驚いた。
左腕にはクロスボウが装備されていた。
おもちゃではく本物の、人を殺せる武器だ。
「なっ、なんの真似だ!今すぐそれを下げろ!」
まさか本物の武器を出してくるとは
予想もしていない事態に先生も焦っていた。
「センセーが邪魔しないんなら下げるよ。もし邪魔するなら...その顔目掛けて撃つよ。」
「フッ、フン...どうせ子供が親の護身武器を勝手に持ち出して調子に乗っているだけだろう?」
そう言った瞬間ルーフの左腕から矢が放たれた。矢は先生の顔スレスレを通り、かなりのスピードで遠くの壁に刺さった。
「俺はマジだぜ?」
ルーフの目に光は無く、ただ目の前の「獲物」を狙うハンターのように鋭く冷たい目をしていた。
「わっ、わかったわかった!ただしほんの少しだぞ!話が済んだら消えろよ!」
捨て台詞を吐くと先生は足早に屋上をあとにした。
魔法が使えない以上武器がない。それに相手は本気で自分を殺そうとしている。
さすがの先生も恐怖を感じたのだろう。
「ありがとうねー!」
ルーフはさっきとは打って変わって笑顔で叫んでいた。
しかしすぐにため息をつくと、
「やっぱ...わからねぇか。」
「悲しいなぁ、優しい奴ほど裏で苦しんでるってのがよ。」
と小さく呟いた。
その時のルーフの横顔は笑顔の中に悲しそうな気持ちが見えた。
感想待ってますm(._.)m