第一話 孤独な者に吹く一陣の風
はじめまして、心導 波来と申します。
小説を書くのは初めてなので温かい目で見ていただけると幸いです。
自分が体験したこと、描きたいこと、伝えたいことを詰め込んだ物語を書きたいと思っています。
「...もう...疲れた。」
僕は今、学院の屋上の端に立っている。
下を見ると足がすくむ。いざ死ぬとなると恐怖で冷や汗が出た。ふと庭を見ると、溜まって笑顔で話している他の生徒がいる。それを見て少し怒りを覚えた。
でも今は恐怖や怒りよりも早く楽になりたいという気持ちの方が強い。
クラスメイトからいじめを受け、居心地の悪い家に帰り、先の見えない日々を過ごす。
そしてなにより、努力しても成長しない無能な自分への失望。
来世ではきっと有能な人間になれる。
そう信じて飛び降りる覚悟を決め目を閉じた瞬間、
「よう、ぼうや。疲れたのかい?」
ハッとなり声のする方を振り向くと、屋根の上に白いローブに身を包んだ白髪の少年が座っていた。
僕と目が合うとニヤっと笑った。
「なっ、危ないよ!そんなところに座ってると!」
僕は咄嗟に思ったことを口にした。
これから自分が死のうとしているのに他人の心配をして自分の中で少しおかしな気持ちになった。
「...プッ」
「ハッーハッハッハ!!これから死のうとしてるのに他人の心配か?まったくお人好しもいいところだぜ!」
彼は僕のおかしな言動に爆笑していた。
それもそうだ、口では他人の心配をし体は自身を殺そうとしてるのだから。
「それより...よっと」
彼は屋根の上から飛び降り僕の方に歩み寄ってきた。
「最後に少し話をしてくれよ!それが済んだら飛び降りるなり生きるなりアンタの好きにしてくれていい!」
大きな声でそう言った。
「そんじゃあまず、お前の名前を教えてくれ。」
「...フリィ。フリィ・ヴァーサ。」
「フリィか、よし覚えたぜ。」
「俺はルーフ。ルーフ・ヴェルカーだ。よろしくな。」
彼は自分の名を名乗ると手を差し出して握手を求めてきた。
「よろしく、ルーフ。」
僕たちは握手を交わした。
「おう、早速だが質問するぜ。」
「フリィ、お前は自分が何の為に産まれたかわかるかい?」
「え...?」
答えが思い浮かばなかった、そんなこと考えたこともなかった。僕は苦し紛れに口を開いた。
「・・・水の魔法を習得するため。」
「何のためにだ?」
「僕のお父さんは偉大な魔法使いだ。その息子である僕は父以上に優れた魔法使いにならなければならない。」
「何故だ?」
「何故って、それは...僕が成長しないと両親がガッカリするから...。」
「ふーん...それってつまり」
「親の顔色を伺うために魔法を勉強してるってことか?」
「っ!?」
図星だった。教わったことができないと両親はため息をついたり、苦笑いしたり、僕を叱ったりした。だから「魔法を使えるようになりたい」と言うより「怒られたくない」という気持ちで日々努力していた。大好きだった魔法が自身を守るための手段となっていくのが悲しくて悔しかった。
だけど、
「そんなんじゃない!確かに両親の顔色は伺っていたさ。だけどそれだけのために魔法を学んでいるんじゃない!」
死ぬ時まで自分の全てを否定されてたまるか。
そう思って僕は語気を強めて言った。
「あ、ごっ、ごめん...。熱くなりすぎた...。」
けれどすぐに冷静になって謝った。取り乱したり熱くなるのは嫌いだからだ。
「オイオイ、なんで謝るんだよ。お前は何も間違ったこと言ってないだろ。」
自分より年が下の子供が怒ったところで怖くないからなのか、余裕の表情に見えた。
きっとルーフだって僕のことを馬鹿にしている、そうに違いない。そう思っていたが、どうせ今から死ぬのだから本音で話して馬鹿にされてもどうでもいいやと思って僕は口を開いた。
「でも...正直何のために産まれたか、ハッキリとはわからない。僕は...何のために産まれたんだろう。」
きっと今の僕はとても暗い顔をしているだろう。
それでもルーフは笑顔を崩すことなく話を進めた。
「お前は魔法学は好きか?」
魔法学とは文字通り魔法を学ぶ事だ。
僕が在籍する学院「フィアエレメント魔法学院」は世界の物質の元である「四元素」を基に作られた魔法を学ぶ学校だ。
四元素は火・水・土・風の4つの元素のことを指す。僕が在籍する中学部には13歳から15歳までの生徒達がそれぞれ火のクラスや水のクラスなど分かれて魔法を学んでいる。
「好きだよ、だから毎日勉強してるんだけど中々みんなに追いつけなくて。
「諦めないで頑張ったんだけど結局ダメなんだ、僕は。」
「おまけにドジだからいじめられてさ、はは...。」
半ばヤケになって話した。
乾いた笑いをすると、ルーフは真っ直ぐな目で僕を見てこう言った。
「凄いな、毎日頑張ったんだな。周りに追いつけなくても諦めなかったんだな。」
「え...?」
馬鹿にされると思っていた、否定されると思っていた。
だけどルーフはそのどちらでもなかった。
僕のこれまでを、今会ったばかりの子供のことを褒めてくれた。
見たところ僕と2つか3つぐらいしか変わらない少年なのに、今の僕には大人に見えた。
「お前は今死ぬべき人間じゃない。まだまだ成長できる。俺にはわかる。」
これまで気持ちの無い励ましや慰めはほんの少しあった。
だけどこんなに真剣な眼差し、気持ちのこもった言葉は初めてだった。
「前向きな気持ちの角度が1度でもあれば、たとえ一歩ずつでも必ず上にいける。」
彼はどんな人生を送ってきたのだろうか。
どうしてここまで真剣になれるのか。
何故僕をからかったりしないのか。
色々な疑問が湧いた。
「さて...ここからが本題だ。フリィは何のために産まれたのかわからないと言っていたな。」
「うん...わからない。」
「フフッ、安心しろ。俺は答えを知っている。「人がなんのために産まれたのか」その答えを。」
僕とそんなに年の変わらない少年がその答えを知っているのか、半信半疑だ。
それでも少しワクワクした。
答え次第ではまた前を向けるかもしれない
まだ生きることができるかもしれない
そう思ったからだ。
「教えてやろう、それは」
ルーフがその答えを言おうとした直後、
「おいっ、お前たち!そこで何をしている!屋上は立ち入り禁止だぞ!」
「あっ、先生...。」
先生と言う名の邪魔が入った。
感想待ってます...m(._.)m