表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/112

引き継がれる夢(1)


愛する家族たちへ

 きっとこれは、私の最後の言葉になると思う。

 最愛の妻、ローサ。幸せな時も、つらい時も、いつも静かにそばにいて支えてくれて、本当にありがとう。そしてこのような形で最後を迎えてしまうことを、どうか許してほしい。

 この先、息子と二人で、きっと苦労することだろう。貴女はどうも一人で頑張りすぎてしまう気概(きがい)がある。どうか私のようにならないことを祈る。今後は友人のカーティスを頼るといい。彼ならきっと、二人を助けてくれるだろう。

 ロイ、愛する息子へ。きっとこれから大変な日々になるだろう。どうか母さんを助けてあげてほしい。君ならきっとできる。なんといっても父さんの立派な一人息子だからな。そしてどうか、自分の生きたい道を進んで行ってほしい。父さんとの約束だ。

 これで最後になってしまうが、私はいつまでも、君たちを愛している。








「こんにちは」


 カランコロン、とドア鈴が小気味の良い音をたて、それに続いて声が響いた。開いた扉からは光が漏れ、少し暗い店の奥を照らす。


 私は読んでいた本を机に置き、眼鏡をはずして店の奥から顔をのぞかせる。そしてドアの前に立つ人物を一目見た。



「どうも、何かお探しですか?」


 私は奥の部屋から出ると、その男性に声をかけた。彼は少し驚いたような、困惑した表情を浮かべながら、辺りを見回している。



「いえ、外から覗いてみると、聞いてた話とは随分違って見えたもので、いや、そうじゃないな……どうも、挨拶が送れてすみません。ロイ・レナードといいます。アンブローズさんから紹介を受けまして……なんでもおかしな事件を扱ってらっしゃるとか」


 彼はそう言うと、大きなショルダーバッグから名刺ケースを取り出し一枚差し出してきた。私はそれをひと目確認する。なんでも大学院の研究生らしい。若いながらも、その顔はやつれ、疲れが滲み、数歳は老けてみえた。



「もし良ければ相談をと思いまして、イヴ・ハーヴァーさんという方はいらっしゃるでしょうか?」


「あぁ、それでしたら」


 と、私が言い終える前に、ドタドタ、と奥の部屋から足音が聞こえてくる。その直後、一人の少女が飛び込んできた。



「先生っ! 今おかしな事件、って聞こえたんですが、もしかしてお客様ですか!!」


 輝く金髪を弾ませ、人より長い耳をちらりと覗かせながら、彼女は嬉しそうに傍に駆け寄ってくる。



「フィー、仕事の邪魔はしないっていっていたよな、お客の前では大声を出さないでくれ」


 私は軽くため息をついた。フィーと呼ばれたその少女、ミラ・エルフィムは大きな瞳をさらに開け、あっ、と一声漏らす。


「す、すみません……事件って聞こえたものですから、つい」


 そう言い彼女は、悪びれもせず片方の目を閉じて見せた。そんな彼女を見て、私は仕方ない、と彼の方に向き直る。



「すみません、紹介が遅れてしまいましたが、私がイヴ・ハーヴァーです。レナードさん」


 私が自己紹介をすると、彼はいっそう目を見開き驚いた顔をした。



「あなたがハーヴァーさん……!? ご高齢の方だと伺っていたのですが……」


「……彼は冗談が好きですからね、あまり気にしないでください」


 私はそう言うと、机に置いてあるケースから名刺を取り出し彼に渡す。


「それにしても、おかしな事件……ですか。いやしかし、私は見ての通り魔道具店を営んでいるしがない魔道具技師です。探偵などではありませんよ」


 私はショーウィンドウに目を移す。色とりどりの硝子で出来たランプや、小さな細工箱など、少し変わった家具や道具を見回してから、少し困った顔をしてみせる。


 名刺を見てもわかる通り、確かに私はただの技師だ。


 魔道具店の店主であり、普段は店の裏に籠っては、新しい魔道具のアイディアを練り、試作品を作っては取引先に売る。そして趣味で作ったものを自分の店に出している、そんな人間だった。



「そんな……ど、どうにかお話だけでも、もうここが最後の頼みの綱なんです」


「流石に、頼って来てくださった方を追い返すようなことはしませんよ。私で良ければ、お話をお聞きします。私の出来ることであれば協力しましょう」


 彼の言葉に、私は軽く笑ってそう返事をする。


 困っている人間を無下に追い返すほど、時間にも心にも余裕がない訳ではなかったし、それ以上に、友人であり、取引相手でもあるアンブローズからの紹介と言われてしまったら、断るわけにもいかない。


 だが、私に出来ることなどあるのだろうか、と少し不安になりつつも、依頼を受けた私の気を知ってか知らずか、静かに部屋の隅で話を聞いていたエルフィムがここぞとばかりに声を上げた。



「大丈夫ですよレナードさん! あっ、ご紹介が遅れました、私、イヴ先生の助手をしています、ミラ・エルフィムと申します。一応記者もしているのですが……それはさておき、ご安心下さい! 先生は凄い方なんです、きっと魔術の事なら世界一……! はちょっと嘘っぽいですかね? でもそれくらい詳しくて、今までも沢山の事件を解決してきたんですから!」


 捲し立てるようにそう語るエルフィムに、もう来店してから驚きの表情が変わることのないレナードがさらに呆気に取られる。私は今日二度目のため息を吐きながら、彼を奥の部屋へ案内するよう彼女に伝える。



「すみません、あの子は少しばかり元気すぎるところがあって。立ち話もなんですから、どうぞ奥へ」


 店の扉の前に置いてある看板をOPENからCLOSEに変え、店の中へと戻る。私の家でもあり、取引の際などにお客を通すリビングへと向かった。


 エルフィムに出してもらったお茶とお菓子に軽く手を付けている彼の向かい側に座ると、私は紅茶に口をつける。そうしているうちにレナードはぽつりと話し始めた。




「どこから話せばいいか……悪夢を、見るんです。それも毎日のように。最初にその夢を見たのは、1ヶ月ほど前でした」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ