第9話
その後、わたしは自分で魔法の練習をしてみて、幾つかの発見をした。それは、ゼンさんの言う通り、緊張していると炎が大きくなってしまうということだ。やっぱり、わたしの魔法は感情に左右されやすいみたい。逆に本気でそれに挑めば簡単に操れることも分かった。けど、わたしの集中力はそこまで続かない。気を抜くとすぐに失敗してしまう。この前なんて、花壇にあった花に引火してしまって全部燃やすところだった。その時はニーナが水の魔法で助けてくれたけど…。なかなか上手くいかないものだ。それに、結局あの後、ゼンさんには会えていないし…。色々と課題が多い。けど、一個一個解決していくしかないよね!とわたしが前向きにそう思っていると、時間を告げる鐘が鳴った。…まさかこの鐘って、授業開始まであと五分を示している鐘だったりする!?わたしは慌てて部屋の時計を見た。…やっぱり五分前。どうしよう、遅刻しちゃう!ニーナが、用事があるから先に行くって言ってたのを忘れていた。普段は時間になると、ニーナがわたしに声をかけてくれるから…。わたしは慌てて部屋を出て、ダッシュで教室を目指した。
そして、授業が始まる十秒ほど前に何とか教室にたどり着いた。ニーナはそんなわたしを見て心配そうな、それでいてわたしが間に合ったことに安堵しているような表情になった。うう…、酸素が足りない…。わたしはそのまま何とかニーナの隣の席についた。そして、そのまま机に突っ伏す。ちゃんと時間を見ておけば良かったな…、と反省した。すると、先生が入ってきて早速授業が始まった。パラパラといつものように教科書が自動で開くのかと思ったら、今日は何故か開かない。はて、一体どうしたんだろう?すると、先生が、
「今日は授業の前に、毎年恒例の魔法試合の説明と代表決めを行います。初めての人は特に、しっかりと聞いておくように。後からの質問は受けませんので」
…??魔法試合?って、一体…?聞いたことがないその単語にわたしは首をかしげた。一方、隣のニーナはそれが何なのか知っているらしく、非常に嫌そうな表情をしている。…?あのニーナが嫌がるって一体…。
「魔法試合とは、同学年の人たちで魔法を使って競い合う試合のことです。教室で二人ほど代表となる人たちを選出し、その人たちは実際にその試合に出てもらいます」
ざわざわ、と教室中の人たちがひそひそと話し始めた。どの人も少し嫌そう。…確かに選ばれたら結構大変だろうな…。まあ、でもわたしは選ばれないはず。この前来たばかりだし、そもそもどんな方法で選ぶにしたってわたしが選ばれる可能性は限りなく低いだろう。でも、一応説明はちゃんと聞いておくことにする。
「先に相手のつけている選手資格のリボンを魔法で燃やしたり外したりした方が勝利です。…それでは、代表を決めるために今からくじ引きをします。星のマークが描いてある紙を取った人が代表です」
その言葉にわらわらと教室中にいる人たちが前に行く。わ、わたし、行きたくないんだけど…。けど、ニーナが全く前に行こうとしないわたしを見てちょっと呆れたような表情になってわたしを前へとぐいぐい引っ張ったので、結局前に来てしまった。既に多くの人がくじを引き終えたらしく、ほっとしたような表情でしている。どうやら、まだ当たりを引いた人はいないみたい。ってことは、当たりを引く可能性が増えたかもしれない…。わたしは非常に憂鬱な気分になった。けど、引かなければならないので、仕方なくくじが入った箱の中から一枚、紙を取った。まあ、わたしが当たりを引くことはない…はず。普段、そこまでくじ運は悪くないはずだし。わたしはそう思いつつ、その紙を開いた。…えーと、確か、何もマークがついていなければ大丈夫なんだよね。……って。ちょっと待って。わたしがその場で固まっていると、隣にいるニーナが不思議そうに尋ねてきた。
「ジェシカ?何かありました?あ、もしかして……」
そう言ってニーナはわたしの持っている紙を覗き込んできた。そこに描いてある星のマークを見て、同情がこめられているような、そんな目をわたしに向けた。…ですよね。どう考えてもこれって代表に選ばれちゃったってことだよね。何度見ても、間違いなくそこに印があるんだもん…。
「……これって、辞退することってできないのかな。というか、そもそもわたし、ここに来たばかりだし…。そういうのって考慮されないのかな?!」
わたしのその言葉に、ニーナは容赦なくこう答えた。
「基本、ここにいる年数は全く考慮されないですよ。それと、一度選ばれたら辞退は不可能です。ジェシカ、頑張ってくださいね!観客席から応援してますから!というか、ジェシカくらいの力だったら一瞬で勝利できそうですけど…」
そういう問題じゃない…。だって、ただでさえ危険人物扱いされてるのに、大勢の人が見ている前でこの前みたいな炎を発生させちゃったら更に危険だとみなされそうで怖いんだけど!嫌だ、絶対に嫌だ…。出たくないよー!わたしは何とかこの事態を避けるため、ニーナに言った。
「じゃあ、急に魔法が使えなくなった、とかは!?そしたら魔法が使えないからどうにもならないよね」
「あのですね、ジェシカ…。絶対にその嘘、すぐにばれますから。特にあなただったら、魔法の花を持った瞬間に炎が出ますから、試しに持ってみて、って言われたらおしまいですよ?ほら、諦めてさっさと先生のところに行ってきて下さい」
そんなーーー!!わたしはそれでも渋っていたが、最終的にはニーナにぐいぐい背中を押されて前に出る羽目になってしまった…。そんなこんなでわたしは、代表に選ばれてしまったのだった…。こうなったら、わざと弱い力を使って負けようかな?…あ、でも、弱くしよう、って考えてたら逆に無理だし。それに、試合中は相手からも逃げないといけないから上手く集中できなさそうなんだよね。うーん、そこらへんはニーナに練習相手を頼もうかな?と考えているうちにその日の授業が終わってしまった。…あまり授業を聞いていなかった。と思っていたら、先生がこっちにやって来て一枚の紙を渡してくれた。…?何だろう。ニーナもその紙が気になったらしく、横から覗き込んだ。そこに書いてあったのは、競技の説明。わたしは最初から最後まで丁寧に読んだ。そこには、競技の目的、ルール、代表者の集まりの日程などが事細かに記されている。そして、最後に注意事項が書いてあった。それを読んだわたしは一瞬固まった。
『なお、この競技において、魔法による怪我をする可能性があります。怪我をしそうになった場合はその魔法を無効とする可能性がありますが、間に合わなかった場合は怪我をすることがあります』
…って!!怖いよ!不穏でしかない。い、今からでも参加を取りやめることってできないのかな?すると、ニーナがまるでわたしの心を読んだかのように、そしてそれをばっさりと切り捨てるように言った。
「一度参加が決まったら辞退はできませんからね。それと、心配しなくても周りの方々が間に合わないことはほぼないと思うので、大丈夫ですよ」
そういう問題じゃない…。ともう一回紙を見たところで気づいた。これ、裏にも何か書いてある。わたしは裏面も見てみることにした。そこには、参加者の名前が載っている。その中には、もちろんわたしの名前も。…というか、知っている人がいない。と思ったところで一人、知っている人の名前を見つけた。
「…ゼンさんもこれに出るんだ…」
ということは、もしかしたら話せる機会があるかもしれない。その時にちゃんとお礼を言えたらいいな…。会えたら、今度こそは…。わたしは改めてそう心に決めたのだった。
読んで下さり、ありがとうございました。