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煌めきの森 魔法の花  作者: 立花柚月
登場人物・短編
87/90

短編 魔法使いと花の日 その3

わたしはニーナのための薬をもらいに行くため、協会長さんの部屋へと向かった。この協会の中で何か病気や怪我をした場合、真っ先に思い付くのはやはり協会長さんだろう。様々な薬や症状に精通し、過去にはどこかの国の偉い人の病気をいとも簡単に治してしまったという噂もある。しかもそれは、ほとんどの人が治ることのない難病だったらしく…。そんな出来事があった後、協会長さんは色々な人から一目置かれる存在になった…らしい。噂が本当なのかは分からないけれど、魔法使いの間ではかなり有名である。わたしはそんなことを思い出しつつ、協会長さんの部屋の扉を叩いた。……が、全く出てくる気配がない。もしかして、どこかに出かけているのかな?そう思いつつ、その扉を前をうろちょろしていると、ギルさんがやって来た。手に大量の資料を持っている。…大変そう。

「あれ、ジェシカちゃん、どうかしたのか?協会長なら今、どこか遠い国に出かけているはずだが。何でも、重い病気にかかっている高貴な人がいるらしくてな。しばらく帰ってこないはずだ」

「そうなんですか?協会長さんも大変なんですね…。あ、そうだ、ギルさん、疲労回復に効果のある薬草とかってありません?ニーナがすごく疲れているみたいで」

ニーナの症状について話すと、ギルさんは少し何かを考えた後でうなずいた。そして、身振りでついてくるように言うと、歩き出した。わたしもその後をちょこちょこと付いて行く。そうして着いたのは、ギルさんがよく使っている研究室だ。ギルさんは一旦その中に入ると、すぐにまた出てきた。そして、わたしの手に何かを落とす。それは透明な瓶で、中で薄い緑色の液体が揺れていた。どうやらこの薬は協会長さんが作って、予備として保管しているものらしい。すごいな…。わたしも一回こう言った薬を作ったことがあるけれど、どうやらわたしにはその才能がないようで、おかしな効能を生み出してしまったっけ…。

「…ああ、そうだ、またユリアに大量の花を使われてしまってな…。後で買ってきてくれないか?」

別れ際、ギルさんにそう頼まれた。買って来るお花の種類が書かれたメモまで渡される。わたし、まだ何も返事をしていないんだけど…。そう思いつつも、わたしは紙を受け取った。…割と大量。荷物が重いのは嫌かもしれない…。魔法で運べば重量はあまり関係ないけど、気分的に…。

わたしは気が重くなるのを感じつつ部屋に戻ろうとしたのだが…、今度は何故かゼンに遭遇した。…お花を置いた後のせいか、微妙に緊張する。話しかけてほしいような無視してほしいような矛盾した気分でいると、ゼンは無視することなく、まっすぐこちらに向かってきた。何故かいつにも増して真剣な表情をしている。…??何かあったのかな。

「ジェシカ!一つ質問なんだけど、君、僕の部屋に花を置いた?というか、絶対そうだよね」

質問しつつもそうであることを確信しているような言葉。しかも、ものすごく必死そうなので、取りあえず何度もうなずいてそれを肯定した。というか、本当にどうしたんだろう??

「…ジェシカ、その花に何か魔法をかけた?それか、魔法仕掛けでも使った?何かすごく奇妙なことになってるんだけど…。取りあえず来て」

そう言ってゼンはわたしの答えも聞かずにわたしの手を引っ張って、彼の研究場所へと向かった。しかし、奇妙なことと言われても何も心当たりがない。全くなくて、反応に困っているのが今の状況。けれど、その部屋にたどり着き、その光景を見たわたしは更に何も反応できなくなった。予想よりもすごいことになっている…。しばらくその光景を見た後で、ようやく言えた。

「…何これ。部屋の中が…、いつの間にか花畑になった??」

「そんなわけないよ。花畑になったんじゃなくて、花に埋め尽くされているだけ。たぶん、ジェシカが置いていった花が何らかの原因で増えてこうなったんだと思うけど」

ゼンに冷静にそう言い返された。それを聞きつつ、わたしは部屋の中へと足を踏み入れた。整然としていたはずの部屋のテーブルや床が全て、お花畑のように花で埋め尽くされていた。何でこうなったんだろう?とわたしは思わず考え込んだ。その間にも花は少しずつ増えていく。入り口ぎりぎりまで花に埋まっているし。…と、花の状態を確認しようと下を見た時、ギルさんに渡されて手に持ったままのメモが目に入った。

「…あ!そうだ、あの花、ユリアの物を増やす魔法の実験で使われてたんだっけ」

わたしはようやくそのことを思い出した。ユリアは失敗したと言っていたけど、実は成功していて、時間さで発動するようになっていたのだろう。てっきり魔法は失敗したと思っていたから…。

「ごめん、ゼン。すぐに片付けるから。というわけで今から……」

「資料とか実験器具まで燃やさないなら自由にやっていいよ」

全部言わなくても、ゼンはさすがにわたしのことをよく分かっている。すぐにわたしの意図を察してくれたらしく、そう言って一歩後ろに下がった。特定のものだけ燃やさないのってなかなか難しいんだけど…。そう思いつつ、わたしは魔法の花で炎を作り出した。そして、慎重に慎重に炎を進めていく。いつもよりも時間をかけて少しずつ増えすぎたお花を燃やしていった。…と、その作業がようやく半分ほど終わった辺りでゼンが提案してきた。

「そうだ、少しだけ残しておいた方がいいかも。ギルがさっき、ユリアに花を使われたって言って嘆いていたから。何かの役に立つかもしれない」

そう言われたので、三分の一だけ残して後は綺麗に燃やしておいた。元々机に置いてあった紙や実験道具たちが姿を現している。どうやら燃えずに済んだらしい。床に置いてあった大量の箱も全部無事だ。良かった。それに、これでもうお花畑ができることはないはず…!わたしは火を消し、残った花を回収することにした。三分の一まで減らしたはずなのに、それでもかなり多い…。すると、ゼンがその作業を手伝いつつ尋ねてきた。

「ジェシカがこの花を持って来たって分かったのは、僕の友人の証言があったからなんだけど、何で急にこの花を…?しかも、直接じゃなくて間接的に。ジェシカが持って来たことが分からなかったかもしれないのに…」

やっぱり来たか、その質問…。わたしはごまかすべきか、それともちゃんと事実を言うかしばらく迷った。けど、絶対に適当にごまかすとばれる。そんな気がする。なので、正直に「花の日」について話すことにした。…けど、話ながらもゼンの反応がものすごく怖い…。誰かに説明を代わってもらいたいな、と思ったけれど、残念なことにこの部屋にはわたしたち以外に誰もいない。

「…要するに、今日は花の日だから、せっかくならその花を僕に渡したかった、ってこと?」

わたしが全部話し終わった後、ゼンは簡単に話をまとめた。その通りだとわたしはうなずいた。

「そっか。でも、それなら直接渡してくれる方が嬉しいかも」

いつもと同じ調子で紡がれた言葉に、わたしは一瞬お花を集める手を止め、思わずゼンの方を見た。彼もまた、わたしの方を見ている。それを見たら、何だか自分がぐるぐると迷っていたことがおかしくなってきた。だったら、最初からちゃんと直接渡せば良かったな…。

「そ、それなら、今渡す!渡すから、ちょっと待って」

そう言って、集めていた花の一部を一旦机の上に置いた。こんなにお花があるのだから、少しくらい多めに使っても問題はないはずだ。わたしは魔法を使って、自分の部屋にあるリボンを手元に呼び寄せた。それに魔法をかけ、わたしのイメージ通りの花束を作り上げる。こういう時に本当に魔法は便利だと思う。一分も経たずに花束が完成した。しかし、何となく気恥ずかしくて、微妙にゼンから視線を逸らしてしまった。

「はい、どうぞ。……気に入らなかったら捨てていいよ」

「何で?捨てるなんて、そんな勿体ないことしないよ。せっかくジェシカがくれた物なのに…。ありがとう、部屋に飾っておく」

予想外の言葉に思わず顔を上げると、ゼンはこちらが驚くほど嬉しそうに笑っている。そんな表情のゼンはあまり見たことがなかったから、わたしは思わずぽかんとゼンを見つめた。当の本人は作業を中断してじっと花束を眺めている。そんなゼンに、わたしはそっと質問した。

「あの…、ゼン、来年もまた渡していい?」

「……いや、来年は僕がジェシカにあげるよ。もらってばかりだと申し訳ないし。約束する」

さらっとそんな言葉を返すゼン。けど、その言葉はとてもとても嬉しくて…。わたしはゼンに笑みを返した。

次回からニーナのお話に入ろうかな、と思っています。

読んで下さり、ありがとうございました。

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