短編 魔法使いと花の日 その1
久しぶりすぎて設定が所々おかしくなっているかもしれませんが、よろしくお願いします。
ヴェリエ国には、一年に一回、花の日と呼ばれる日がある。その日は街中にお花が飾られて、お花を贈り合う風習がある。魔法協会も一応、ヴェリエ国内にあるけれど、ここには色々な場所から人が来ているため、知らない人の方が圧倒的に多い。つまり、花の日でも誰かに花を渡すことはない。なのでわたしもすっかりその習慣を忘れていた。が、その存在を思い出させてくれたのはニーナの一言だった。
「そういえば、ジェシカ、ゼンさんにお花あげないんですか?今日って確か、花の日ですよね?」
今日は特に用事がないので部屋でごろごろしていたわたしに、ニーナがそう話しかけてきた。徹夜で魔法仕掛けに関するレポートを書いていたらしく、ものすごく眠そうな表情と声だけど…。さっきから時々うとうとしては机に額をぶつけて飛び起きる、という行為を繰り返している。少しくらい寝ればいいのに、とわたしは思うけれど、今はその書き上げたレポートを同じチームの仲間に確認してもらっている最中でいつ返ってくるか分からないから、という理由で起きているのだそう。その後ですぐに協会長さんにそれを提出に行きたいらしく…。ニーナはずっと自分の研究に全力を注いでいたから、きっと、その成果を早く披露したいのだろう。
というか、ニーナが花の日を知っているってちょっと意外かもしれない。ニーナはここに来るまであちこちの国を回っていて、どこか一つの場所に長く住んだことがない、って聞いていたから…。だが、徹夜していてもその勘の鋭さは衰えないらしい。わたしの疑問を読み取ったかのようにニーナは付け加えた。
「実は、花の日には私にとってとても大切な思い出があって。…まあ、けっこう昔の話で、ここに来る前のことなんですけどね。それで覚えているんですよ」
「へー、そうなの?どんな話?すごく気になるんだけど!もしかして、誰かにお花を渡されたとか?」
わたしは興味津々にそう尋ねたけれど、ニーナは詳しい内容を語ろうとしない。非常に気になる。わたしは逆に、どちらかというと、昔はそういうのが苦手だったからな…。お花を渡してくれる人とかもいなかったし。だからこそ、そういうエピソードを聞きたかったんだけど…、残念。すると、ニーナがどうするのかと再び尋ねてきた。わたしはようやく起き上がって考え込んだ。ゼンにお花、か…。うーん…、受け取ってくれるかな。一応、花の色によってその意味が変わってくるからそれも考慮する必要があるけれど…。何色にするべきかで迷う。あげるとしたら、ピンクか白かな?前者は「愛」とか「恋」で、白は「友情」や「感謝」の意味を持っている。どっちがいいかなあ…。それか、どっちも渡すのもありかもしれない。しかし、それをニーナに相談するとこう即答された。
「それなら当然、ピンクじゃないんですか?それ以外に選択肢はないと思いますけど。だって、二人って付き合っているんでしょう?」
何を当たり前のことを…、というような表情。けれど、わたしはその言葉に思わず黙り込んだ。一応、告白はした、けど。でも、それ以降で何か変化があったのかと聞かれたらちょっと…。何だか前と変わっていないような気がする。そこでわたしは今度はニーナにそれを質問してみることにした。
「ねえニーナ。わたし、付き合うって何なのかよく分からないんだけど…。そもそも、今のわたしとゼンの関係性って昔とあまり変わってない気がするんだけど…」
「って、私に言われても。そんな相手いませんし、私だってよく分からないです。んー、でも、確かに二人っていつも通りに接していますよね。他人からすると、あまり変わっていないように見えるかもしれません」
何となくそんな答えが返ってくるのは分かっていたけど、こうして聞くとぐさっと心に突き刺さる…。わたしは思わず机に突っ伏した。…と、ちょうどそこでニーナが待っていたレポートの確認が終わったらしく、仲間の一人がそれを持って来た。ニーナが少し心配そうな表情をしつつ、部屋の玄関に向かう。そこで二言三言何か言葉を交わし合った後で、パタンと扉が閉まる音がした。見ると、ニーナが分厚い紙束を手に戻ってくるところだった。…もしかして、この量を夜、一人で全部書き上げたのかな…?わたしは素直にすごいと思ったけど、ニーナは少し複雑そうだ。
「誤字が多いって言われてしまいました…。まあ、眠い中書いたから当然ですね。でも、チームメイトが直してくれたようなので、大丈夫そうです。では、出しに行ってきますね」
どうやら部屋の外で同じグループの人が待っているらしい。わたしは行ってらっしゃい、と手を振った。ニーナもうっすら疲れを感じさせる表情で手を振り返してくれた。…途中で倒れないか少し心配。まあ、一緒に人がいるみたいだし、大丈夫かな?扉が閉じられ、わたしは一人になった。…暇だ。何をしようかな、と思いつつも自然とカレンダーの方に目を向けてしまう。確かにニーナの言う通り、今日は「花の日」。一応、この日に贈る花は協会内にも置いてあるから、わざわざ買ってこなくてもいいんだけど。取りあえず、ギルさんの所にでも行って、お花を見てこようかな。わたしはゆっくりと立ち上がり、外に出ることにした。ずっと寝転がっていたせいか頭がぼんやりしている。
「あ、ジェシカ!ちょうど良かった!ちょっとあたしが考案した魔法の手伝いをしてくれない?」
部屋を出た直後にユリアに見つかってしまった。最近ユリアは新しい魔法を作るのにはまっているようで、片っ端から色々と試している。…けれど、一つ大きな問題点がある。それは、作った魔法のほとんどが不発だったり、予想していたものとは違う効果を発揮したりすることだ。その度にわたしや協会長さんが後始末に追われる羽目になり、いつも大変な思いをさせられる。
「…ユリア、ちなみに今度は何の魔法を開発したの?」
「ええとね、一つの物を複製して増やす魔法、かな。成功したらかなり便利じゃない?」
ユリアはにこにこ笑ってそう言うと、早速一輪の花を取り出した。どうやら、それを試しに増やしてみるらしいけど…。その花を見てすぐに、それが「花の日」のためのお花であることに気付いた。その色は奇しくもピンク色。それを見て複雑な気持ちになりかけたが、一旦それを考えないことにした。ユリアの気が済むまで付き合ってあげることにする。まあ、あまりにも増えてしまったらその時はその時だ。わたしはユリアと一緒に中庭まで行くことにした。そこならば、多少魔法が失敗してしまっても被害が最小限に抑えられる。そこに着くと、ユリアはわくわくしたような様子で、早速ピンク色の花を地面に置いた。そして、その上に手をかざす。彼女は碧の魔女だから、こういう時も魔法の花を使わずに簡単に魔法を行使することができるのだ。それを羨ましく思いつつ、わたしは魔法の花を一輪取り出し、中庭に透明な壁をつくった。こうすれば、魔法の影響が別の場所に行かずに済む。……しかし、数秒経っても何も起こらない。ユリアはしばらく手をかざしたままでいたが、やはり変わらない。
「ユリア、もしかしてこれ失敗したんじゃない?全く反応しないよ」
「あれれ、おかしいなあ…。今度は絶対に成功すると思ったんだけど。最初からやり直しかな」
ユリアはぶつぶつとつぶやいて、手を下ろした。何がおかしかったのか、と考えこんでいる。わたしは取りあえず魔法の壁を消し、地面に置いていた花を拾った。そうしてユリアに返そうとしたのだが…。
「あ、いいよ別に。ジェシカにあげる。実験を手伝ってくれたから、そのお礼に」
ユリアはそう言って、わたしの返事も聞かずにさっさと行ってしまった。あげる、って言われても…。わたしは困って、ピンク色の花を見遣ったのだった。
読んでくださり、ありがとうございました。




