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煌めきの森 魔法の花  作者: 立花柚月
登場人物・短編
84/90

短編 ユリアの追憶 その3

ルヴィスが助けてくれたお礼をしたい、と言うので、何か甘いものを買ってもらうことにした。元々食べたいと思っていたので、ちょうど良い。何がいいかな、と考えつつ道を歩いていたら、久しぶりに色々な人と会った。あたしは普段ここにはあまり来ないので、会うと絶対に声をかけてくれる…、優しい人たちだ。なので、ちょくちょくその人たちに手を振りつつ先に進む。そんなあたしを見て、何故かルヴィスは複雑そうな様子だったが…。ちょうどその時、クレープの屋台を見つけた。ふんわり、甘い香りがする。ものすごくおいしそうなので、迷わずそれにした。比較的安いし、ちょうど良い感じのサイズ。

「これにするのか。こんな甘そうなもの、よく食べられるな…。ある意味すごいと思う」

少し呆れたようにそう言ったが、何だかんだ買ってくれた。…でも、微妙に子ども扱いされている?確かに、コーヒーとか苦い食べ物や飲み物は苦手だけど!別に、苦いものはなくても困らないし。甘いものがあれば別にいいもん。ルヴィスが会計をしている間、あたしは少しいじけていた。でも、ルヴィスがクレープを渡してくれた瞬間、その気持ちは吹き飛んだ。クリームが一杯でおいしそう、早く食べたい。

そう思ったのだが、ルヴィスに何故か止められてしまった。何なのかと思えば、ちゃんと座って食べろ、とのこと。立ち食いは行儀が悪いって。何かあたし、本当に子どもだと思われているような…?こんな小言、初めて言われた気がする。あたしの知り合いである他の魔法使いは、全然そういうことを気にしなかった。集まって遊んだ時とか、立ったまま食べていても特に何も言われなかったし…。まあ、本当はルヴィスの言う通り、座って食べた方がいいんだろうけど。…でも、おかしいな、あたしが碧の魔女だということは信じてくれたと思ったはずなのに…。何で相変わらず子ども扱いされているのかな?変だなー、と思いつつも、大人しく近くのベンチまで移動することにした。ここで拒否したらずっと食べられないような気がしたのだ。あたしはそこに座り、早速、「いただきます」と言って一口食べた。今度は何も言われなかった。なので、存分に味わうことができそう。…おいしい。甘い。やっぱり、魔法を使った後は甘いものが一番だと思う。非常に満足。ルヴィスはもぐもぐと夢中で食べ進めるあたしをじっと見ていたが…、不意に、こう問いかけた。

「なあ、ユリア、君は碧の魔女なんだろう?それなら、一つ質問してもいいか?」

何故か非常に真剣な言葉と表情。あたしはそれを少し怪訝に思ったが、取りあえずうなずいた。ルヴィスなら、返答に困るような質問はしないだろう。むしろ、この世界の歴史とか、そういう真面目なものについて質問してきそう。確かにあたしは、そう言った歴史をずっと見てきたから。でも、話し始めると長くなりそうでもある。まあ、クレープはそろそろ食べ終わるので、別にいいかな。そう思ったのだが、彼からの質問はあたしが考えていたようなことではなかった。

「君は…、寂しくないのか?強い力や異質な力は、時に人を孤立させる。周囲の人間に恐れられることだって…。でも、君はそんな中でも長い時を生きている。…どうして普通に人と関わっていられるんだ?」

その問いにあたしは思わず沈黙した。クレープはまだ少し残っていたけど、一旦食べ進めるのを中断する。それと同時に、ルヴィスのそう多くはない言葉の中から過去を察した。きっと彼は、その魔法の力のせいで人々から遠ざけられていたのだろう。魔法を迫害する国なら、特に…。そういったこと自体はあたしにも覚えがある。正体がばれた時に向けられた、恐怖の瞳。ずっとずっと前のことなのに未だに思い出してしまう。…彼の言う通りだ。強大な力は、自分たちとは違うものと判断され、排除されることが多い。その状況が寂しくないと言えば嘘になる。けれど、寂しいのかと聞かれたら、あたしは――。

「そうね…。人間は、自分の許容範囲の中に入らないものを排除しがちだとは思うわ。自分と違うものと関わるのを避けようとする。けれどね、あたしはそれでも人を見ているのが好きなの」

目の前を大勢の人が行きかっている。どの人の命も、あたしより短い。あたしからすれば、普通の人の寿命なんてほんの短い時間だ。一瞬で過ぎてしまう。でも、だからこそ、彼らは懸命に生きているのだと思う。そんな懸命さが好きだった。あたしは、長い生に飽きているし、人から隠れて生きている。そんな生活をしているから、かもしれない。それは、誰にも分かち合えない気持ちだ。それを言うと、ルヴィスは複雑な面持ちをした。…というか、この話、あまり参考になっていないような気が…。好き勝手に色々と語ってしまったような気がする。けれど、これは紛れもなく本心だし、いいのかな。

「…そういうことだから、寂しくないと言えば嘘になるけど、寂しいわけでもないわ」

そう話を締めくくった。ルヴィスはまだ少し複雑そう。別に、自分の話ではないはずなのに。そういうところから彼の優しさが伝わってくる。まだ知り合って少ししか経っていないけど、意外といい人なのかもしれない、と思う。ルヴィスが何も言わないので、取りあえず残りのクレープを食べてしまうことにした。最後の一口までおいしかった。またここに来た時、買おうかな。そう決めて、クレープの紙を折りたたんだ。そして、誰も見ていないのを確認して魔法の炎で燃やす。ルヴィスはぎょっとしていたけれど…。一応、それなりに蔦以外の魔法も使える。こういうところは、魔法って本当に便利だと思っている。あたしは立ち上がり、ルヴィスの方を振り返った。

「それで、あなたはこれからどうするつもり?一応、あの人たちの記憶は消しておいたからどうにかなると思うけど、あなたの話から察するに、かなりの人が捜しに来ているんでしょう?」

ルヴィスは黙り込んだ。恐らく、彼もどうするか考えていないのだろう。誰かに追われているという状況は、かなり辛いものだと思う。…そこであたしは、とある提案をした。それは、後々、あたしの運命を大きく変えることになる言葉。今から思えば、何だかんだ、その時のあたしは寂しかったのかもしれない。

「それか、あの森にでも来る?小さな部屋くらい簡単にできるけど?それに、あの場所なら人もほとんど来ないから、たぶん追手も来ないと思うわよ。来たとしても、あたしの魔法がかかっているし」

恐らく、あたしの知っている中で一番安全なのが、あの森だと思う。それに、人が一人増えるくらいは大したことないはずだ。相手はあたしより年下とは言え、十分大人だし。手間がかかることはないと思う。ルヴィスはしばらく黙って考えていたが、最後にはうなずいた。

「……そうさせてもらってもいいか。ユリアが、迷惑だと思わないなら。なるべく手伝いはする」

「迷惑だと思ったら、最初から提案していないわよ。じゃあ、早速戻らないと。一人で住んでいるから結構家の中、ごちゃごちゃしていて…。片付けないと。帰ろう、ルヴィス!」

あたしが碧の魔女だと分かっても、こうして普通に接してくれている。こういう人もいるということを、あたしは初めて知ったような気がする。それが、とても嬉しかった。ルヴィスは少し笑って立ち上がったが、ほんの数歩だけ歩いたところで何故か立ち止まった。

「…そうだ、ユリア、疲れていないか?さっき魔法を使っていたし。背負って帰ろうか?」

……どうやら、あたしを子ども扱いするところも変わらないようだ。

「全然疲れてない!そもそも、さっきから言ってるけど、あたしはあなたより年上だから!そういうこと言われても困る!」

けれど、ルヴィスは全く気にしていない様子であたしと手を繋ぐ。絶対分かってないよね、これ。けれど、悪くないかな、とも思ってしまう。――そんな気分になったのも、初めてだった。


あたしとルヴィスのどこか不思議な関係は、ここから始まる。

そして、彼が後の初代協会長になることなど…、この時のあたしは知るはずもなかった。

読んで下さり、ありがとうございました。

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