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煌めきの森 魔法の花  作者: 立花柚月
登場人物・短編
82/90

短編 ユリアの追憶 その1

ずっと前のユリアのお話です。全三話の予定です。

あの人との出会いは、本当に突然だった。何もなかった世界に、天からいきなり、何かが降ってきたような…。後から思い返してみると、そういう表現しか浮かんでこない。でも、何だかんだ、その人との生活は楽しかったと思う。あたしを子ども扱いする癖は最後まで直っていなかったけれども…。でも、いい人だった。

それは、今はもう、この世にいない、あたしの大切な人との大切な記憶。あれからもう、数百年も経っているなんて、あたしは未だに信じられない。それと同時に、ふと思ってしまう。時が、彼と出会ったあの日まで戻れば良いのに、と。これは、そんなあたしの、ずっとずっと昔の追憶だ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


当時、あたしは深い深い森の中に住んでいた。一人で、ひっそりと。あまりに暗いその森は人を全く寄せ付けない。仲間の一人である「宵闇の魔術師」も、どこかの森の奥で生活していると知って、少し憧れたのだ。当時はまだ、この世界には魔法が当たり前に存在していて、そこかしこに魔法使いが存在していた。

けれど、あたしたちはその中でも極めて異質な存在だった。まず、年を取らない。要するに、外見が全く変化しない。理由はこちらにもよく分からないけれど、実際にあたしも十歳くらいの子どもの姿のまま、何百年も生きている。小さい方が森を動き回るのには非常に便利なのだ。ただ、そのせいで町に行った時は子ども扱いをされてしまうが…。そして、もう一つ。魔法使いの中でも特に力が強いということ。まあ、この世界の基盤を創ったくらいの力を持っているのだから、当たり前と言えば当たり前の話なのかもしれない。けれど…。大きな力は時に人々を恐れさせる。そして、利用しようとする。それが面倒なので、基本的にあたしたちは人の前に姿を現さない。現したとしても、決して自分が魔法使いであることを明かさない。それはある意味、あたしたちの間では暗黙の了解だった。

「…とは言っても、最近町に出ていないし…。ちょっと遊びに行こうかな?お菓子とか、買いたい…」

基本的にこの森の中で自給自足の生活ができているし、魔法が使えるので困ったことはあまり起こらない。でも、甘いものはやっぱり、自分で作るよりもお店の方が美味しい。それに、あたし、そこまで料理が得意ってわけじゃないし…。しかも、外見が子どもなので、背が低い。そのせいで非常に料理をしづらいのだ。不便…。そうだ、せっかく町に行くならば、他のものも買おうかな。町に行く機会はとても少ないので、つい色々と買いたくなってしまう。

あたしは買うものを考えながら、早速準備を始めた。まず、もしどこかに落としたり誰かに盗られたりしても絶対に自分のところに戻ってくるような特別なかばんを取り出した。これは、ずっと前に光華の魔術師が作り、魔法をかけてくれたもの。少し雑なところがある彼女らしく、所々縫い目がずれているけれど…。ちょっと可愛らしいな、と思ってしまう。でも、そんな彼女ももうこの世にはいない。最後は、魔法を捨て、人として生き、死んだという話を、風の噂で聞いた。もしかしたら、そのうち、あたしを含めた六人の魔法使いは全員いなくなってしまうのかもしれない。まあ、でも、それは当分先のことだろう。

「…さて、行こうかな。……って、ちょっと待って、何かがおかしい!」

異変に気付いたのは、ちょうどその時だった。

あたしが住んでいるこの家は、蔦に覆われているため、よっぽど注意して見なければ、ここに家があることなんて誰も気づかない。まあ、そもそもこの森の中に入ってくる人なんてなかなかいないけれど…。それに、目くらましの魔法をかけてあるし、誰か知らない人が来たら入れないようにしてある。…それなのに、人の気配を感じる。それはまだ家の外…、でも、すぐ近くから。あたしの魔法を打ち破る、って…、相当危険な人物では?!そもそも、何でこんな森の奥に、人が…。思いがけない出来事にあわあわしていると、玄関の扉が叩かれた。うわ、開けたくない…。怖いよ、この状況!まあ、いざとなれば蔦の魔法でどうにかしよう。そうしよう。若干雑な結論に行きついたあたしは、勢いよく扉を開けた。そこにいたのは……。

「……あれ、案外普通の人だった。でも、かなり魔法の力は強いみたいだね」

思わずつぶやいてしまった。あたしの魔法を侵食できるくらいだから、恐ろしい人物なのかと思ったけれど…。そこにいたのは、普通の青年だった。ただ、他の人からすれば普通ではない点が一つ。珍しく、大きな魔法の力を持っている。まあ、そうは言っても、最初の魔法使いたちに比べればそこまでではないのだけど。そして、背が高い。年齢から考えたら絶対にあたしの方が年上だけど、何せあたしは子どもの外見をしているので、自然とその人を見上げるような形になってしまう。一方、青年の方も驚いたようにじっとあたしを見ている。何かを考えていたが、しばらくしてつぶやいた。

「何で森の奥に、こんなに小さな女の子が…?あ、この家に不可視の魔法がかかっていたということは…、もしかして、誰かに連れ去られてここに来たのか?!」

全く違う予想に行き着いてしまっている…。あー、こういう時にもこの小さな姿って不便…。絶対にあたしの方が年上だというのに…。取りあえず、訂正を試みる。

「違うわよ。あたしはここに住んでいるの。誘拐されたとかじゃないから。それにこう見えてもあたしは長い時間を生きているから、簡単に連れ去られることはないわ」

しかし、青年は全くあたしの話を聞いていない様子。面倒なので蔦の魔法でどこかに追い出してもいいけど、適当に森のどこかに移動させて、動物に食べられたら絶対に嫌だし…。とか考えていたら、急にふわりと浮いたような感覚があり、いつもよりも目線が高くなっていた。気付くと、何故か青年に抱えられている。え、何で。どうしてこうなった?!あたしは戸惑って、逆に固まってしまった。

「ちょ…っと、何?!下ろしてよ。それとも何、あなた、誘拐犯?」

「違う。ここを出ようと思っただけだ。あんた一人じゃ、家まで帰れないだろう」

「いや、だから、ここがあたしの家なんだってば!そもそもあたし、あなたより年上だから!!」

色々と面倒な方向に話が進んでいる気がする。しかし、彼はやはり全く話を聞いていない。…まあ、自分よりもすごく小さい人から、あたしの方が年上だ!って言われても、絶対に信じられないだろうな…。やっぱり、蔦の魔法でどこかに飛ばしてしまいたい…。けど、この状態だとあたしも一緒にその場所に飛ばされそうなので、諦めた。……これは、この青年の誤解が解けるか、適当にごまかすかするまで帰れないような気がしてきた。…確かにあたしは町に行こうと思っていたけれど、こんな形は全く望んでいなかった…。帰ったら、結界を強化しよう、そうしよう。

「…そういえば、あなた、名前は何て言うの?ちなみに、あたしはユリア」

「………ルヴィスと呼んでくれればいい」

何となく引っかかる表現だったが、特に詮索せず、うなずいた。どうせ、もう二度と会わない人物だろうし。余計なことを聞いても無駄だろう。別に、仮の名前でも分かれば何でも良かった。この人を絶対に家の敷地に入れないような結界を作るためには、名前が必要だったのだ。名前はかなり重要。これで、最強の結界ができそうだとあたしは満足したのだった。

読んで下さり、ありがとうございました。

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