第80話
「単刀直入に聞きますね。どうしてラトスさんはあの時、あの質問をしたんですか…?」
わたしはラトスさんにそう尋ねた。あの質問はとても唐突なものだった。何の脈絡もなくて…。だからこそ、疑問に思っていた。何故そんな質問をしたのか。他にも聞きたいことは色々とあったはずなのに。その中で敢えてその質問をしたということは、何か意図があってのことだろう。もしかして、彼はその時からこうなることを予想していたのだろうか…?すると、ラトスさんは少し笑って、衝撃的な事実を教えてくれた。
「実はですね、魔法仕掛けに精神支配されている間も、一応、あなたたちの姿はちゃんと見ていたんですよ。その時の記憶もかなり残っています」
ということは、つまり、わたしたちとの会話なども全て知っていて、それを覚えているということ…?そういうものなんだ…、と驚いてしまった。だからこそ、色々と分かることがあったのかもしれない。
「そういうわけで、何となくお二人の関係も分かったので、魔法仕掛けから助けてくれたお礼に、少しだけ彼を焚き付けてみました。成功して良かったです。あの後、どうなりました?」
どうなりました?って聞かれても!!まだ何も返事をしていない。それに、ゼンの方もそのことについては何も言ってこない。そのせいで、そのままになってしまっている。というか、別にお礼をしてもらわなくて良かったのに…。非常に複雑な気持ちになる。わたしは、恐る恐るラトスさんに質問した。
「もう一つ聞いてもいいですか?その…、わたしとゼンの関係とか、相手に対する心情とか、他人の目から見て、分かりやすかったですか?というか、他人でも分かるものなんでしょうか?」
その問いに彼はあっさりとうなずいた。ニーナやユリア、イジュアさんにも肯定されてしまっているし、どうやら本当にそうらしい。けれど、何で気付かなかったのかな…。自分たちでは分からないようなものなのだろうか?でも、質問したおかげで色々と分かった。要するに、ラトスさんは、今回の件を通して色々と知って、魔法仕掛けを解いたお礼に、と彼なりの策を実行してくれたというわけだろう。けれど、ゼンってそういうのに全く興味がなさそうだったし。いつも淡々としているし。感情が大きく動くことってあまりなさそうだし…。やはり、あの言葉の意味がはっきりとしない。わたしは再び非常に複雑な気分になった。その感情に任せて、思わずぽつりとつぶやいてしまった。
「その言葉が本当だったら嬉しいですけど、本当とは限らないじゃないですか…。それが嘘だった、とか言われたらさすがに落ち込むんですけど…。だからと言って確かめるのも怖いんですよね」
「少し強引に話を進めすぎましたか…。確かに唐突すぎましたよね。まあ、でも、彼の伝え方にも問題があったのかもしれないですよ?」
最後の言葉は、わたしじゃない誰かに向けられたものだった。ラトスさんは明らかにわたしの後ろを見ている。それに釣られて振り返ってみると、何故か真後ろにゼンの姿が。何でここに?というか、どうしてわたし、気付かなかったんだろう?!わたしは思わず立ち上がった。ラトスさんが非常に楽しそうに笑っているので、ゼンがそこにいることは最初から分かっていたのだろう。一方、ゼンは非常に不機嫌そうだ。氷みたいな冷たいオーラを放っている。…というか、さっきの会話、絶対に聞かれていたよね…?!そう考えて内心青ざめていると、ゼンが言った。
「ここに来てからかなり時間が経ったし、そろそろ帰った方がいい。さすがにギルに怒られる。行くよ」
そして、わたしをぐいぐいと引っ張った。まだ、椅子を片付けていないんだけど…?!でも、ゼンの方が力が強いので、結局椅子を片付けられずに終わってしまった。
お互い黙ったままの状態で、廊下を歩く。き、気まずい…。この状況をどうにかしたいが、何を話せばいいのか分からない。ゼンも何も言わないので、話題が全く出てこない。しばらく歩いてたどり着いたのは、中庭だった。誰もいない。そして、そこまできてようやく本題に入った。
「この前の話についてなんだけど。…あの人の言う通り、言い方が悪くてちゃんと君に意味が伝わっていなかったような気がするから訂正するね」
ゼンの言葉にわたしは反応に困り、「…」と黙った。て、訂正とは?どういう風に??つまり、わたしが考えていたのとは違う意味だったということ?よく分からない…。何て言われるのか少し怖かったが、この状況の中逃げるわけにもいかず、わたしはうなずいて先を促した。だが、ゼンは何かを迷っているようだった。しばらく考え込んだ後で息をつく。
「…って言っても、ごめん、自分でも驚くほど上手い表現が全く見つからないんだけど…。単純に、直接的な表現で言うと、僕は、君に恋愛感情を抱いている、ということを伝えたかったんだ」
本人の申告通り、非常にストレートな表現。それなのに、言っている本人はいつもと変わらず淡々とした声と表情…。言われたこちらの方が非常に動揺してしまった。もう少し婉曲的な表現にしてほしかった…。と贅沢なことを考えてしまう。まあ、そういう言葉の方がゼンらしいと言えばゼンらしいかな、とも思うけど…。直接的な方が誤解も少ないと思うし。…というか、わたしはどう反応すれば??この前の言葉の意味が分かったのはいいけど、返答に困る…。告白をし返すのがいいのかな?それとも、そうなんだー、って平坦な感じで言葉を返せばいいの?そんなことを考えていたら、ゼンが驚くほど真剣な表情で尋ねてきた。藍色の瞳がまっすぐわたしを見ている。
「それで?さっきの言葉は本当?『その言葉が本当だったら嬉しいけど…』みたいな発言」
一瞬きょとんとしたが、すぐに思い出した。ラトスさんとの会話で、確かにわたしはそう言った。というか、まさかそれを聞いていて、しかもちゃんと覚えているなんて…。けど、それを肯定するのにものすごく勇気がいる…。もうちょっと待ってほしい…、とわたしは少し話題を逸らした。
「何か…、今日のゼン、いつもと違うよ?そういうの、全く興味がなさそうだったのに。というか、そんな発言する人だったっけ?」
「…いや、正直、直接的な言葉は言うのにはかなり勇気がいる。やっぱり、もっと婉曲的かつ、意味が伝わる言葉をちゃんと考えておけば良かったな…。ちょっと反省した」
と、ゼンが少し照れたような表情をする。可愛いかも…。まあ、それを言ったら怒られそうだけど。
「でも、ストレートな表現の方がゼンらしいし、そういう方がわたしは好きだけど?」
わたしの何気ない言葉にゼンは表情を一変させた。急に嬉しそうな表情に変わる。何だか、今日のゼンは表情が変わりやすい。そのことにちょっと驚いた。
「それ本当?つまり、ジェシカも同じ思いでいる、って解釈していいってこと?」
また、端的な言葉を使われた…。
「……っ、どうぞご自由に!好きな解釈をして下さい!!」
わたしはゼンのようにいつものような調子で直接的な告白はできそうにないし、素直に肯定することも無理なので、どうにかそう言った。本当に、何でゼンは淡々とそういう言葉を言えるのか…。再び疑問に思ってしまった。当のゼンはわたしの言葉に何故か虚を突かれたような表情をした。そう返されたのが意外だったのかもしれない。だが、すぐにまた笑って、
「そう?言質はとったからね?」
と言った。何だか、この調子のゼンといると、自分のペースが崩れそう…。けれど、意外な一面でもあるような気がする。きっと、これからも、色々と新たな発見をしていくことになるのだろう。そんな予感を覚えつつ、わたしはゼンと笑い合った。
〈了〉
最後までお付き合い下さり、本当にありがとうございました!




