第78話
部屋に戻った後、わたしは椅子に座ってぼーっと先ほどのことを考えていた。ゼンが、言っていた言葉について…。そのままの意味だと言っていたけれど…。それって、つまり?というか、どうして急に?何で??考えれば考えるほど混乱する。もやもやとした気持ちが心の中に広がっている…。わたしは机に突っ伏した。本当に、さっきの言葉は一体…。答えの存在しない質問をされているようだ。それに、たった一つの言葉だけでこんなに動揺している自分に嫌気がさす。…と、そこで不意に部屋の扉が開いた。
「あれ、ジェシカ、もう帰ってきていたんですか?…というか、どうしたんです?」
机に突っ伏したままの状態で全く動かず、反応も返さないわたしにニーナは非常に戸惑ったようだ。まあ、当然と言えば当然の反応。一人で考えていても全く分かりそうにないし、ニーナにも意見を聞こうかな、と起き上がると、彼女は少し驚いた。わたしが寝ていると思ったのかな。けど、それを気にしている余裕が今のわたしには全くない。早速ニーナに相談することにした。
「ニーナ、ちょっと質問していい?というのも、自分でもどういうことかよく分かっていなくて!言われた意味はちゃんと理解できているんだけど、やっぱり謎の言葉すぎて!!」
「…矛盾している発言をされたような気がするのですが、取りあえずどうぞ。あと、少し落ち着いた方がいいですよ。いつものジェシカらしくなくてちょっと怖いです」
そう言われたわたしは少しの間黙って、話すことを整理した。頭の中がぐちゃぐちゃになっていたので、ちょうど良い。そして、深呼吸してから、先ほどラトスさんのところに行った時の会話と、ここに戻ってくるまでの間にゼンに言われたことについてニーナに相談したのだが…。話が終わると、何故かニーナはものすごく楽しそうな謎の笑みを浮かべていた。そして、あっさりと答えを出した。
「そのままの意味ってことは、つまりそういうことなのでは?良かったですね、両想いになって」
…はい??後半の言葉がよく分からず、わたしはきょとんとした。意味は分かるけど、何でそうなった?そもそもわたしはそれに対して何も返事していないし。それに、誰かに自分の想いを話したことなんて一度もなかったんだけど。何でニーナが知っているんだろう?この時点で、わたしの頭の中は再び混乱していた。
「恐らく、かなり前から、私も含めて皆さん気付いていましたよ。あなたたち二人が思い合っていたことを。結構、分かりやすい方だと思いましたけどね。案外、本人たちは気付かないものなのでしょうか?」
ニーナは不思議そうに少し首をかしげてそんなことを言っていたが、わたしは予想外のその言葉に固まっていた。き、気付いていたって、どうして…。しかも、かなり前からって…。そんなに分かりやすかった?無意識に態度に現れていたのかな…。分かりやすい、と言われたことはあるけど。でも、わたしはともかく、ゼンはあまり自分の気持ちを態度に出さない。いつも淡々としている気がする。それでもそういうのって分かるものなのかな?わたしが気付いていなかっただけ?そう考えて今までの会話などを思い返してみたけど…、全く心当たりがない。わたしが首をかしげていると、ニーナが更に補足する。
「前にジェシカはゼンさんを慕っていた方々によく視線の攻撃を受けていましたよね?でも、最近はそんなことないでしょう?それも、ほとんどの方が二人の気持ちを察したからだと思います」
そういえば、確かに最近、そういうことがかなり少なくなっていた。非常にありがたいと思いつつも、理由が分かっていなかった。予想外すぎる理由を、今になって知ってしまった気がする。でも、そこまで聞いてもよく分からない。正直、あり得ないと思ってしまう。だって、わたしっていつも面倒ごとしか持ってこないし。毎回、色々なことに巻き込んでいる気がするし、迷惑しかかけていないと思う。非常に面倒な人だと思われていそうだな、とずっと考えていた。だから、わたしのゼンに対する気持ちは、一方的なものなんだと思っていて…。
だからこそ、あの言葉の意味がよく分からない。本当は別の意味を指している、とか、その可能性の方が高そうな気が…。そんな感じでぐるぐると考え込んでいたが、ニーナはそんなわたしの様子に少し呆れたようだった。
「何だか、ジェシカらしくないですね。そんなに気になるなら、もう一回、ゼンさんにその言葉の意味についてちゃんと聞いてくればいかがです?私に聞くよりも確実だと思いますけど」
あっさりとそう言うけれど…、それはそれで何だか怖い。だって、本当はただの冗談だった、とかそういう話になったらやっぱり悲しいし!…もしも、あの表現がわたしの想像と同じ意味だとしたら、とても嬉しいけど…。そんな感じで結局一人で悶々と考えていると、不意に部屋の扉が開いてユリアとイジュアさんが入ってきた。だが、いつもとは明らかに違うわたしの様子を見て非常に困惑したようだ。お互いの顔を見合わせている。そして、しばらくしてから恐る恐るといった様子で、ユリアがニーナに質問した。
「…これ、一体どういう状況?ジェシカがいつになく深刻そうな表情で思い詰めているんだけど。もしかして、ラトスとかいう人のところに行った時、何かあったのかな?」
「私が帰ってきた時からこんな調子で…。どうやら、ゼンさんに告白と思われる発言をされたようです」
そして、わたしが先ほどまでニーナに話していたことを二人に説明する。話が終わると、しばらく沈黙した後で、二人は悲鳴をあげていた。けど、その後で、何故かわたしの方をにこにこと笑いながら見る。何なんだろう、一体…。生温かい目を向けられているような…?非常に居心地が悪い…。あ、でも、ニーナ以外の人が来たからちょうど良い。さっきのニーナの発言について、幾つか気になることがあったのでそれについて二人にも質問してみることにした。
「ニーナが、協会の人たちは皆、わたしたちが、…思い合っていたことに気付いていたって話をしていたけど、本当?」
その問いにユリアはうなずいた。そして、懐かしそうにどこか遠くに目をやりながら言った。
「だって、地下迷宮に来た時なんて、正にそんな感じだったじゃない?あたしがジェシカを連れ去った後、ゼンは必死であなたを捜していたようだし。あと、あたしの攻撃から庇っていたじゃない。その時点で、何となく分かっていたわ。その頃からあなたの影にいたイジュアも気付いていたと思うけど」
そう言って、ユリアはイジュアさんに話題を振った。すると、彼女も肯定するように深くうなずいた。わたしが未だに納得していないことを察しているようで、更に実例を挙げた。
『今回だって、ラトスのことを相当警戒していたし。まあ、ラトスが君の存在に少し興味を持っていたのは事実だが。だからゼンは危機感を抱いたのだろう。その発言も、半分はけん制の意味があったと思う』
最後の方は冷静な見解になっていた。確かに、非常に警戒している様子だったけど…。そういう意味だったのかな…。でも、その後は随分と落ち着いた様子だった…。まるで、その発言について全く気にしていないように。ということは、やっぱり冗談だったのかな。…でも、ゼンが冗談を言うところって一度も聞いたことないけど。そんな風に悩むわたしを見て、イジュアさんは、本人に聞くのが一番だ、とニーナと同じことを言ったが…。わたしは再び机の上に突っ伏した。今夜は眠れないような気がする。
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