第77話
次にわたしが目覚めると、そこは自分の部屋だった。けれど、気を失う前のことをはっきり覚えていたので特に混乱することはなかった。…ゼンとイジュアさんに迷惑かけちゃったかな…。そう考えつつ起き上がった。まだ少しだるいかもしれない。かなり限界まで力を使ったせいだろう。…と、そこでわたしは思わず固まってしまった。静かだからわたし以外誰もいないと思っていたのに…。何でここにこの人が…。だが、驚くわたしとは対照的に、落ち着いた様子で本を読んでいた彼は、わたしが起きたことに気付いてゆっくりと顔を上げ、微笑みを浮かべて言った。
「あ、おはよう。…ああ、でも、ある意味正しい表現ではないかな。あれからもう三日も経っているからね。調子はどう?」
本を閉じ、ゼンはこちらに近付いてきた。…三日も寝ていたんだ、わたし。さりげなく言われたその言葉に驚いたが、取りあえずうなずく。
「まだ少しだるい、かも。ずっと寝ていたからっていうのもあると思うけど…。たぶん平気」
ゼンは一つうなずいて、協会長に報告すると言って出て行った。その直後、今度はニーナがやって来た。すぐそこでゼンに会ってわたしが起きたことを聞き、急いで来てくれたらしい。安心したように微笑んでいる。そして、わたしが倒れた後の詳細を話してくれた。それによると、どうやらラトスさんはまだ目覚めていないらしい。けれど、イジュアさんの処置が良かったらしく、何もしないよりはましな状態だと言う。そこまで聞いたところで、肝心の「竜」がどうなったのか、非常に気になった。ニーナに聞くと、
「取りあえず、地下迷宮にそれが封じられた球を保管するらしいですよ。あそこが一番安全だということで…。というか、私も『竜』と戦いたかったです!仕組みが気になるし、ジェシカに怪我させたのが許せないです!!」
「後者に関しては僕も同感。もう少し小さかったら、氷漬けにして『竜』の頭を冷やせたんだけどね」
いつの間にかゼンが帰ってきていて、そんなことを言った。その手に飲み物があるけれど…、内容が怖い。かなり本気らしく、口元は笑っているが目が全く笑っていない。ものすごく怖い。しかし、既に終わってしまった出来事なので、二人ともそこでその話を止めてくれた。そのことにほっとする。もしこのままこの話が続いていたら、具体的な方法にまで発展しただろう…。ゼンに水が入ったコップを渡されたので、少しずつ飲む。ひんやりとしたその温度が心地よい。すると、ゼンが思い出したように言った。
「あ、そうだ、それと協会長がもう少し落ち着いたら来てほしいって。今回のことについて、色々と話したいらしい。もちろん、体調が悪いなら明日でもいいとも言っていたけど。どうする?行けそう?」
わたしは少し考えたが、うなずいた。詳細を聞きたいというのも理由の一つ。それに、久しぶりに起きたのだし、部屋の外に出たい。その答えに、ゼンは少しだけ心配そうな表情をしたけれど、「まあ大丈夫かな」とつぶやいて、一旦外に出てくれた。恐らく、準備をする時間をくれたのだろう。わたしはなるべく早く支度を終わらせ、部屋の外に出た。呼ばれていないはずなのに、何故かニーナまで一緒。一人で歩かせるのが心配だから、と言うけれど…。何だか子ども扱いされているみたいで複雑…。
そんな感じで歩いているうちに協会長さんの部屋に着いた。ノックしてから扉を開ける。中には、この部屋の主である協会長さん以外に、ユリアとイジュアさんもいた。三人とも、わたしを見て安心したようだ。…相当心配をかけてしまったみたいで、非常に申し訳ない。中でもイジュアさんは、特に心配していたようで、わたしの傍に近寄り、脈をとったり熱を確認したりしていた…。なので、しばらくわたしはイジュアさんのされるがままになっていた。ユリアがイジュアさんとわたしを見て苦笑している。案外、イジュアさんには過保護なところがあるようだ。そんなことを思っていると、協会長さんが言った。
「大体のことは、既にイジュアさんたちから聞きました。本当にご苦労様でした」
イジュアさんもよくやった、と言うようにわたしの頭を少し雑に撫でた。せっかく髪を整えたのに、ぐしゃぐしゃになりそう…。それに、褒め方が微妙に子ども扱い…?再び複雑な気持ちになっていると、扉が叩かれてギルさんが入ってきた。何だか久しぶりに感じてしまうが…。それはギルさんも同じだったようで、わたしを見て少し笑い、
「ようやく起きたか。その感じだともう大丈夫そうだな。良かったよ」
と言っていた。だが、本題は別のことだったようで、すぐに協会長さんの方に向き直った。そして、ずっと眠ったままだったラトスさんが目覚めたことを告げた。イジュアさんは少し驚いたようだ。意外と起きるのが早かったからかもしれない。協会長さんは再び安堵の表情を浮かべ、立ち上がる。どうやら早速訪ねてみるらしい。…かと思えば、部屋を出る直前に振り返り、何故かわたしに向かって尋ねた。
「あなたも一緒に来て頂けますか?」
何でだろう、と疑問に思ったが、断る理由もないのでうなずいた。すると、何故かゼンも一緒に行くと言ってきた。…??そんなにわたし、体調が悪そうに見えるのかな?協会長さんは少し不思議そうな表情でうなずいたが、何故かユリアたちは笑っていた。更にわけが分からない。帰ってきた時にニーナに聞いてみよう、と思いつつ、外に出た。
三日ぶりに会ったラトスさんは、案外調子が良さそうだった。ギルさんや他の人たちの質問にしっかりと受け答えしている。しかし、まだ歩くことができないらしい。座っている分には平気らしいけど…。やっぱり、それだけ力を消耗したのだろう…。協会長さんの後ろでしばらく様子を伺っていると、不意にラトスさんがこちらに気付いた。少し申し訳なさそうな表情になる。けれど、何故かゼンは警戒態勢を解かない。「竜」はもういなくなったはずなのに…?その後、「竜」に関する話や、この三日間のことについて話したのだが、話が一段落したところで、早く帰ろうとゼンが急かしてきた。心配性だな…、と思いつつ、仕方ないので立ち上がる。その様子をラトスさんは何故かじっと見ていたが…。彼はしばらくここで療養するらしいので、また会う機会はあるだろう。…と、そこで突然ラトスさんがゼンに質問した。
「ところで、あなた方お二人はどういったご関係で?あなたは随分、彼女のことを気に懸けているようですが?」
その言葉に、ゼンはぴたりとその場に立ち止まった。何で突然そんなことを聞いてきたのか、とても不思議だけど…、この質問にゼンは何て答えるのだろう。いつも面倒ごとを持ってくる人、とか答えられたら落ち込むな…、と考える。まあ、事実と言えば事実だけど…。なんて考えていたのだが、ゼンが紡いだのは、予想外の言葉だった。
「…今のところ、幼なじみみたいな、仲間みたいな感じかな。…こっちが一方的に想っているだけで」
…はい???それは、一体…。その言葉に、その場にいた人たちも唖然としている。ラトスさんは何故か楽しそうな笑みを浮かべていたが…。けれど、恐らく、この中で一番混乱していたのはわたしだった。呆然としている間にゼンに手を引かれ、部屋の外に出ていた。そのまま、何事もなかったかのようにゼンは先に立って歩いているけど…。い、今のは一体…。わたしのただの妄想?まだ夢の中??それか、ただの冗談だったのかもしれない。そう思ったわたしは、ゼンに尋ねた。
「あ、あの、ゼン、さっきの言葉って…、どういう意味?」
「どういう、って…、そのままの意味だけど」
非常に反応に困る回答が返ってきた。わたしは困惑したまま、何もそれに返すことができなかった。
読んで下さり、ありがとうございました。




