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煌めきの森 魔法の花  作者: 立花柚月
5章 光華の魔法とお伽話
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第72話

その後、わたしはイジュアさんと共に魔法の花を使わないで炎の魔法を扱う練習をひたすら行った。予想通り、それは非常に困難で、体力を使う。それに、コントロールが難しい。イジュアさんは普通に使いこなせていたと言うが…。彼女によると、それは慣れらしい。つまり、ひたすら練習して花がない状態に慣れろということ。それはそれでかなり辛い気もするけれど、暴走させて他の人に怪我をさせるわけにはいかない。そのためにも、わたしはひたすら練習していた。時々、ゼンも研究の息抜きにやって来て、練習に付き合ってくれた。たまに勢いをつけすぎて、怪我をさせかけることもあったが…。そういう時はイジュアさんが上手くコントロールしてくれて、大事には至らなかった。それでも、ゼンはかなり根気強く練習に付き合ってくれた。本当に感謝しかないし、申し訳ないとも思う。これが終わったら何かお礼をしないと…。けれど、何でゼンがわざわざ練習に付き合ってくれるのか…。疑問でしかない。今回も結局、迷惑をおかけすることになりそうだし。いざという時に「竜」からの攻撃を防ぐなんて、とても危険な役目だ。しかも、その「竜」が狙っている人物、つまりわたしを…。でも、それを尋ねてもゼンは話を逸らしてしまうので、結局まだちゃんとした理由を聞いていない。非常に不思議だが、それについて深く考えるような余裕もなく、時は過ぎていった。


その日、わたしはユリアと一緒に協会内で話をしていた。ちなみにイジュアさんは、この前のようにわたしの影の中で待機している。ここは廊下なので、人が通る可能性が高いからだ。人に見られると、色々厄介なことになるのは目に見えている。それに、「竜」がいつ現れるかは誰にも分からない。イジュアさん曰く、「竜」はかなり強い力を持っているので、簡単に転移することができるそうだ。次の瞬間、この場に現れる可能性もある。

「そういえば、最近あなた、よく資料室で何か調べていたけれど、一体何をしていたの?」

ユリアにそう尋ねられた。まるで、わたしが資料室にいるのがとても珍しい、とでも言いたそうな口調だ。微妙に傷つく…。一応、調べ物がある時は毎回資料室に行って、気になるところを徹底的に調べているんだけど。他の人から見たわたしって、一体どういう印象なのか非常に気になってしまう。確かに魔法の実践の方が楽しいし好きだけど、だからと言って勉強が大嫌いというわけでもない。普通だと思う。ユリアのわたしに対するイメージを訂正したいな、と思いつつわたしは答えた。

「炎の魔法の研究。オリジナルの魔法を考えたかったから、何か参考になりそうなものを探していただけ。ものすごくはかどったよ」

皇国で使った炎の檻も、資料を参考に作ったものだ。なので、今回も同じように資料を参考にして何か良さそうな魔法を編み出そうと考えたのだ。幸い、完璧なものを見つけられた。…ただ、問題は、わたしが竜と同じくらいの大きさの魔法を展開できるかということ。そもそも、檻の時と同じように、まだ一度も試していない。試す対象がいなかったし、正確さを増すためにぎりぎりまで時間を使っていたため、その余裕がなかった。もし、今日、「竜」が現れなかったとしても、この後実験できるほどの時間があるかは分からない。

「本当は、もう少し効率的なものにしたかったんだけど、時間がなくて、仕方がないから――」

だが、そこまで話したその時。急に、その場の空気が変わった。まるで、突然雲が現れて太陽の光を遮ってしまったように…。実際には、そんなことは起こっておらず、等間隔に設けられた窓からは明るい光が差し込んでいる。それなのに、この場所だけが異質な空間に…、暗い雰囲気へと変化した。濁った、禍々しい気配を感じる。とても恐ろしい何かが迫っている。それを感じるのと同時に、影の中のイジュアさんが鋭い声でつぶやいた。

『…とうとうお出ましか。しかも、この前の時よりも強いとは。…本当に厄介だ』

ユリアもそれに気付いたらしい。先ほどまでののんびりとした雰囲気が、一気に鋭いものへと変わっる。そしてわたしが肩から下げているポシェットを指差した。そこには魔法の花が入れてある。取りあえず、何か起こった時にはゼンと協会長さんに連絡するよう言われているので、わたしはすぐにそれを取り出し、連絡魔法を使おうとした……のだが。外に花を出した瞬間。それは音もなく燃え始めた。今までに見たことのない、真っ白な炎が花を包み、次の瞬間には跡形もなくそれは消えてしまっていた。しかも、全て。つまり、連絡手段がなくなってしまったのだ。突然のことに、わたしもユリアも絶句した。イジュアさんでさえ、何も言葉を発さない。恐らく彼女も驚いているのだろう。しかし、わたしたちが呆然としている間にも状況は更に悪化して行く。不意に、恐ろしいほど冷ややかな声が廊下に響いた。

「――やっと見つけた。…ここまで本当に長かったけれど、ようやく、この日が来た」

見ると、そこにはラトスさんの姿が。けれど、彼はラトスさんではなかった。彼の姿をした、もっと違う何か。その背後に、ぼんやりと竜の姿が浮かび上がる。その瞳は、ぞっとするほど冷たい青色。冬の厳しい冷たさを表すような…、そんなイメージ。その色自体はゼンの瞳の藍色に似ているけれど、それが持つ温度と感情は彼とは明らかに違う。目の前にいるこの人物が持っているのは、冷たさと、憎しみ。じっと見ていたら飲みこまれてしまいそうだ。しかし、そんな中でユリアが果敢にこう尋ねた。

「あなたが、『竜』の魔法仕掛けなの?」

「ああ、そうだ。…だが、君には用はない。というか、光華の魔術師以外は、何も関係ない」

その言葉と同時に、彼の手がこちらに向けられる。何か、魔法を使われる。そう分かったが、逃げる余裕は全くなかった。それに対抗するための時間すら…。

そのままわたしは、真っ暗な空間に放り込まれた。

だが、真っ暗だったのは一瞬で、すぐに視界が明るくなった。けれど、目の前に広がっていたのは、先ほどとは明らかに違う場所…。わたし以外、誰の姿もない。「竜」でさえも、ここにはいない。

「…何、ここ…。というか、協会は?ユリアは?」

『恐らく、わたしたちだけ移動させられた。ここは、普段あなたが住んでいる場所とは別の空間だ。怖いくらいに何もないが…。本当によく分からない場所だ』

そう言って姿を現したのはイジュアさんだった。だが、その表情はいつになく厳しいものだ。…けれど、何か違和感がする。そう思ってイジュアさんを見たが、何も分からなかった。…気のせい…?よく分からなかったので、取りあえずわたしは改めて周囲を確認してみることにした。今までに見たことのないくらいの広さの部屋に、わたしたちはいる。天井や壁は真っ白で何の装飾もない。調度品なども特にない。怖いくらいに特徴がない、そんな場所。というか、そもそも「竜」はどこに行ったんだろう?

『面倒な事態になったな。取りあえず、元の場所に戻る方法を探さなければ。あなたの仲間も心配しているだろうし…』

そう言って、イジュアさんはこちらをしっかりと見た。再び、違和感を覚えて…。そこでようやくわたしは、その正体に気付いた。こちらに向かって差し出された手を躱し、慌てて距離をとる。

「…あなた、イジュアさんじゃないよね。イジュアさんの二人称は『君』。けれど、さっき、あなたはわたしを『あなた』と呼んだ」

その正体を何となく察しつつそう告げるのと同時に、真っ白い空間にひびが入る。そして、その世界があっという間に壊れた。

読んで下さり、ありがとうございました。

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