第7話
最初の授業から数日が経ったある日。わたしは魔法の検査をすることになり、そのための部屋に行くことになった。…けど、非常にやる気がない。何故かというと、ここ数日、魔法の特訓とか練習試合とかで自分でもびっくりするほど強い力を使ってしまっているからだ。 ―弱く弱く― って心の中で唱えているのに、何故か魔法は言うことを聞いてくれない。そのせいで、わたしは周りの人たちから「ここに来たばっかりなのに強い力を発揮している怖い人」という風に認識されてしまっている…。しかも、そのせいで友達ができない!ニーナしか話し相手がいないってけっこう辛い…。だって、ニーナに何か予定があったら一人ぼっちになっちゃうんだもん!それが本当に嫌だ…。もし、この検査ですごい結果が出ちゃったら、わたしに対する認識が更に固定されてしまいそうで怖いんだよね…。わたしは非常に憂鬱な気分でのろのろと検査の部屋へ。ちなみに、ニーナは用事があって一緒ではない。誰かと一緒にいたら少しは気が紛れそうだったんだけど…。そう思いつつ部屋に入ると、水晶の傍に立っている女性がわたしに手招きした。
「遅くなってしまってごめんなさいね。水晶が割れてしまった影響でなかなか検査ができなくて…。そろそろ試合の時期だから、間に合って良かったわ」
…試合?聞いたことがない。けど、女性はそのことに関してはそれ以上何も言わず、検査の仕方を説明してくれた。この検査では、ただ水晶に手を触れればいいらしい。触れると、その人の得意な魔法を示してくれるらしい。例えば、光だったら水晶から強い光が出てくるらしい。そして、その人の魔力数は水晶の中に浮かび上がるだという。…たぶん、わたしの得意魔法って炎だから、炎が出てくるんだろうけど…。大丈夫かな?火災とかになったらどうしよう…。だが、女性はわたしに水晶に触れるよう促してきた。なので、わたしは心の中でいつものように、 ―弱くなれ……― とつぶやきながら手をかざした。…その瞬間。
その場が眩しい光に包まれ、緋色の炎が水晶から飛び出した。
その勢いに、女性は後ずさる。…どうしよう、止めないと。そう思ってわたしは手を離したが、何故か炎は止まらない。緋色の炎はその勢いのままに辺りへとその勢力を拡大していく。惨状に気付いたのか、部屋の扉から複数の人たちが中へ入ってきた。そして、わたしと炎を見て驚いたようにその場で立ち尽くす。だが、部屋に入ってきた人たちの中の一人であるギルさんがわたしに何事かを言った。けど、すぐ近くでぱちぱちと何かが音を立てていて、聞こえない。……聞こえない?わたしが慌てて目の前を見ると、すぐそこにまで炎が迫ってきていた。視界が、一面緋色に染まっている。これは死ぬな、とわたしはどこか客観的に思った。…けど、その時だった。急に隣に人が現れた。驚いてそっちを見ると、そこにいたのはゼンさんだった。まさか、こんな場面で再会するとは…。…って、そんなことを言ってる場合じゃない!このままだと、ゼンさんにも危険が及んでしまう。けど、ゼンさんはただ短く言った。
「大丈夫。絶対に大丈夫だから」
その言葉は、確信に満ちている。ゼンさんは水晶のある方向へ手をかざした。もう片方の手には、魔法の花。軽くその花が光った瞬間、水晶が氷漬けにされていた。そして次の瞬間、水晶は高い音と共にその場で粉々になった。…まるで、この前の針のように。そして、水晶が割れた瞬間に炎も消え去った。わたしが呆然と立ち尽くしていると、ゼンさんは一旦わたしの方を向いて一言言った。
「君、魔法を使おうとする時、余計な力が入ってると思う。もしかして、強い力を出すのが怖い?」
怒られるかな、とか思ってたのにまったく違う言葉を言われてわたしは一瞬ぽかんとした。だが、慌ててこくこくうなずいた。ゼンさんの言っていたことは当たっていたから。
「そっか。…君の場合はもっとリラックスして力を使った方がいいと思う。たぶん、その方が魔法もそこまで強い威力にならないんじゃないかな。…でも、君くらい強い力を持ってる人ってなかなかいないから、それはそれで勿体ないというか…。まあいいか。じゃあ、僕はこれで」
そう言ってゼンさんはその場から姿を消してしまった。…そして、その後で気付いた。前回の針の件も含めて、ゼンさんに全くお礼を言えてない!!と…。ああもう、何やってるんだろう、わたし…。いい機会だったのにな。だが、そこで部屋の入り口を見た瞬間、気付いた。さっき部屋に入ってきた人たちが呆然とした表情でわたしを見ている。わたしは水晶があった方向に目を向けた。粉々になった水晶。原型をとどめていない。水晶が乗っていた机は炎で茶色い焦げ跡ができている。わたしはそれを見てぞっとした。改めて自分の力の怖さを突きつけられたような、そんな気がして…。その近くでは検査を担当している女性も怯えたような表情でその場に座り込んでいた。それを見たら、わたしはどうしていいのか分からなくなってきた。やっぱり、わたしの力はいつか人を傷付けてしまうんだ。ただ、その場に出くわしただけの人でも…。そのことが、怖くて怖くて仕方がなかった。
「ジェシカちゃん、怪我は……」
ギルさんがわたしにそっと声をかけてきた。わたしは黙って首を振る。わたしなんて、どうでもいい。こんなことを引き起こした元凶だから。わたしよりも心配なのは、その場で座り込んだままの女性。わたしはその女性の前に座り、頭を下げた。女性が少し戸惑ったように「あの…?」と言ったが、わたしはそれを気にせずに女性に謝った。
「ごめんなさい。危険な目に遭わせてしまって本当にごめんなさい…っ!わたしがちゃんと力をコントロールできないせいで……」
「そんな…、気にしないでちょうだい!結果的には誰にも怪我はないもの。あなたにも何もなかったし」
だが、それでもわたしは女性や巻き込みかけてしまった人に申し訳ないと思っていた。わたしは…、このままここにいて大丈夫なのかな…。でも、どこか別の場所に逃げたとしてもこの力からは逃げられない。わたしは何も言えず、ただその場でうつむいていたのだった。
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一方、その部屋に突然現れ、すぐにどこかへ消えてしまった少年、ゼンは自分の教室に戻っていた。本当は教室で彼の友達と話していたのだが、何か予感を感じて一旦その場を抜け出していたのだ。戻ってきたゼンを見て、その友達は不思議そうに尋ねてきた。
「おい?どこに行ってたんだよ?突然どこかに消えたから心配した。何か緊急事態でも起こってたのか」
友達は冗談交じりにそれを言ったが、何故かゼンは真面目な表情で少し考え、うなずいた。その反応に彼は驚いた。そして、詳しく聞きたがったのでゼンは少しだけ説明することにした。
「すごい魔法の持ち主の子を見つけたんだ。その子が水晶に触った瞬間、綺麗な赤い炎が飛び出してきてびっくりした。まあ、あのままだと火事になりそうだったから水晶を壊してきたけど…」
「…要するに、お前くらい強い力を持ってるってことか?確か、お前も検査の時に大量の氷を出してその部屋にあったもの全てを凍らせてただろう?」
そのことを思い出したゼンは苦笑した。あの後、それを基に戻すのが非常に大変だったのだ。そして先ほどの名前も知らない少女と、水晶から燃え上がる緋色の炎を思い出してつぶやいた。
「何か、面白いことになりそうだなあ…」
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