第47話
協会に着くと、何故かそこは異様に静まり返っていた。まるで、誰もいないように…。蔦が暴れているというので、もっと壊れる音とか聞こえてくるのかと思っていた。だが、いつもは聞こえるはずの人の声も全く聞こえない。本当にどうしたのかな…。まさか、中にいる人が全滅したとか言わないよね…。けれど、それ以外には何も異常がない。蔦は協会の外にも生えているのかと思ったら、いつも通りだし。周りに植えられている花もいつも通り、そよ風に吹かれて揺れている。…だが、わたしたちが協会の扉を開けようとしたその時だった。急に、足元に亀裂が走った。それと同時に蔦が天に上るような勢いで飛び出してきた。わたしよりも先に亀裂に気付いたゼンが咄嗟に引っ張ってくれなかったら、恐らくわたしは怪我をしていただろう…。わたしはお礼を言ったが、ゼンはそのことよりも蔦の方が気になっているようだった。珍しく、呆気にとられたような表情で上の方を見ている。何かと思えば、先ほど出てきた蔦は建物の高さを超えていた。何なの、この蔦…。おかしすぎる。成長速度が異常だし、そもそも人を攻撃するかのように生えてはこないと思う。だが、わたしたちが呆然としている間にも蔦はその亀裂からたくさん飛び出してきて、みるみるうちに扉を封印してしまった。本当にこの蔦、おかしすぎる!こんな風に中に入るのを妨害するなんて…、まるで蔦自身が意志でも持っているようだ。けど、ここでのんびり邪魔な蔦と対峙しているわけにもいかない。わたしは近くに植えられていた魔法の花を一本摘んだ。本当は勝手にとったら怒られるけど、今は緊急事態だから許してくれるはず!花を蔦にかざした瞬間、蔦が一気に燃え上がる。まあ、草だから燃えやすくて当然なのかもしれない。そのまま一気に炎は伝わっていき、まるで火柱のようになった。蔦は一気に灰となって、落ちていく。あっという間に扉を封じていた蔦はなくなってしまった。これで入れるかな?そう思ったのだが…、何故か扉が開かない。
「…もしかして、これ、中でも蔦が同じように扉を塞いでいるんじゃない?」
ゼンが扉をガチャガチャと押したり引いたりながら言った。…あり得そう。だってこの蔦、どう考えても性格が悪い。でも、さすがに扉を燃やしたら怒られるだろうし…。緊急事態であっても絶対に後で怒られる。わたしは少し考えた。どうすれば扉を開けられるか…。すると、ゼンが代案を出してきた。
「それか、こっちの窓から侵入しない?氷の矢で割れそうだし。それに、窓ガラスだったら後で修復魔法でもかければ元に戻るから怒られずに済むはずだよ」
わたしはその意見に賛成した。恐らく、扉を開けることはできない。そこで、近くにある窓から侵入することにした。確かここは、普通の教室だったはず。ゼンは魔法の花を使って、瞬時に氷の矢を作り出し、何のためらいもなくそれを窓ガラスへと投げた。何と言うか…、勢いが良い。…もうちょっとためらってもいいような気がする。まあ、取りあえず中に入れそうだし、いいのかな。いちいちそんなことを気にしていたらきりがないし。けれど、ゼンは何故か少し戸惑っているようだった。花を見て首をかしげている。
「おかしいな…、もう少し威力を発揮すると思っていたんだけど。気のせいかな?まあ、ガラスは壊せたしそこまで気にしなくてもいいのかもしれないけど…」
そうつぶやいた後で、暗い中に入る。何故か、協会内が薄暗く感じる。気のせいならいいんだけど…。そう思いつつわたしも中へと足を踏み入れた。
窓ガラスに修復魔法をかけながら教室を見ると、そこは荒れ放題だった。机はなぎ倒され、棚に置いてあった実験道具は粉々に割れている。床に散らばった本もボロボロに破れていた。しかし、肝心の蔦は見当たらない。もしかして、協会の中にいた人たちでこの辺りの蔦は駆除したのかな。そう思いつつ、修復魔法で完全に窓ガラスを直したわたしは、一足先に教室の外に出たゼンを追って廊下に出た。そちらにも色々と散らばっている。壁に使われている木とか、窓ガラスとか…。片付けるのが大変そう。所々に蔦の欠片が落ちているところを見ると、恐らくここでもそれが暴れていたことが分かる。わたしたちは再び蔦が生えてこないか、慎重に進んでいった。…だが、全く何も音がしない。そのおかげで、どこに誰がいるのか全く分からない。協会長さんが伝達魔法でメッセージを送ってくれたのだから、恐らく無事だと思うけど…。どこにいるのか分からないと、助けようがない。歩いているうちに分かれ道に来てしまい、ゼンとどちらに行くか相談していたその時だった。突然、無音だった協会に何かが割れるような激しい音が響き渡った。思わずそちらを見ると、再び何かが炸裂するような音と共に、誰かの叫ぶ声が聞こえてくる。どうやら、向こうに人がいるらしい。わたしたちはうなずき合い、そちらへと向かった。
音が聞こえた方向には、書庫や魔法の道具、魔法の研究室などが集まっている。そちらへ近付くにつれ、未だに動いている蔦を見ることが多くなってきた。恐らく、これらの蔦は問題ないと判断して放っておいたのだろうが…。何故か、それらの蔦はわたしを狙ってきた。足に引っかかって転ばせようとしている。それなのに、その蔦はゼンの方には全く寄って行かない。何を基準にしているのかは分からないけど、差別だと思う!!なので、仕方なく魔法の炎で蔦だけ燃やすという非常に細かい作業をしなければならなかった。時折ゼンに助けてもらいながら先に進むと、ようやく蔦が大量にあるところにたどり着いた。だが、それは想像を絶する光景だった。高い天井の一番上までたどり着くくらい高い蔦が壁に沿って床からびっしりと生えている。しかも、わたしたちが近付いたらその蔦は更に量を増やし、互いの蔓が絡み合い、あっという間に壁を作ってしまった。だが、そうなる前に一瞬、協会長さんやギルさんの姿が向こうに見えた。あそこまでどうにかして行かないと!
「ジェシカ、この蔦、一気に燃やすことって可能?」
「できると思うけど…、でも、この先にもずっと蔦があるから、一度燃やしてもまた生えてきそうじゃない?それをすると効率が悪いんだよね…」
わたしは少し考えた。壁の表面の部分は簡単に燃やすことができる。でも、奥にも蔦が存在しているから、そっちがどう動くのか分からない。そうしている間にも、壁は段々と分厚くなっていく。このままだと、一気に焼き尽くすことができるのかどうかも分からなくなりそうなので、取りあえずわたしは魔法の花を使って、炎を出すことにした。いつもよりも、三割増しくらいにしたけれど、加減しないと天井まで燃やすことになってしまうので注意する。わたしが蔦に炎をつけると、それは一気に燃え上がった。ぐにゃぐにゃと、まるで炎から逃れようとしているかのように蔦が動いたので、わたしたちは慌てて後ろに下がった。段々と炎は移っていったが、その度に動く蔦が増えていく。更に距離をおく必要があった。
「…これって、成功したってことでいいのかな?」
「…まあ、いいんじゃないかな?取りあえず向こう側に行くことが僕たちの目的だし」
言葉の前の沈黙が少し気になったが、取りあえず蔦は取り除くことができた。だが、依然として壁に生えた蔦が残っている。それらが再び動こうとした、その時。蔦の道の向こうで協会長さんが何かを蔦へと投げた。その瞬間、蔦は動きを止めた。急にどうしたのかと面食らっていると、向こう側の協会長さんが、
「それは時を止める魔法仕掛けです。ですが、長くは持たないので急いでこちらに…!!」
そう言われたので、わたしたちは慌てて蔦の道を走って…、何とか、蔦が再び動きだす前に向こう側にたどり着くことができた。
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