第46話
4章スタートです。
わたしが皇国に行った日から、またしばらく経ったある日のこと。その日、わたしは、こっそりと協会の森を抜けだして、近くの町に遊びに行っていた。ここ最近、こうして日々を過ごすことが多い。何となく、外に行かなければならないような気がしている。ここにいてはいけないような…。自分でもよく分からないこの感覚。そもそもどこに行けばいいのかよく分からない。なので、取りあえず町に行っている。でも、意外と簡単に抜け出せることに最近気付いて、こうして外に出ている。もちろん、外に出ている時間は本当に短い。大体が早朝だ。近くの町には時計台があるので、そこから綺麗な朝の空を見ることができるので、お気に入りだ。それに、最近協会では少し不思議な現象が起こっている。建物の中に、どこからか蔦が生えてくるのだ。見つけたらすぐうに切るように言われているけれど、次々と生えてきて全くきりがない。その作業に専念させられることも多い。でも、わたしはそれに関わってはいけないような…、そんな気がしていた。理由はよく分からないけど。それも、わたしがこうして外に出ている理由の一つだった。不思議な理由だと、自分でも思う。
ともかくわたしは、そんな感じで外でゆったりと過ごしている。…さぼりと言い換えることもできるけど。まあ、蔦の駆除は強制じゃないからいいよね!と適当に理由づけて勝手に外に出ている。そもそも、その行為自体認められているものではないのだけど…。わたしは朝の町の中、どこへ行こうかと考えた。まず、時計台に行こうかな。その後で市場でも見物して…。お金を持っていないので何も買えないけど。でも、見るだけでも楽しい。この町は比較的大きな町で、色々な物が揃っている。朝の静かな町並みの中を歩いていると、不意に後ろから足音が聞こえてきた。あれ、この時間に人がいるなんて珍しい。今はまだ、かなり早い時間のはずだ。そう思って後ろを振り返ると、そこには予想外の人物がいた。…というか、何故ここに。逃げるべきなのか、開き直るべきなのか…、わたしが二つの選択肢の間で迷っていると、相手は、
「ジェシカ、何で外に出てるの?そもそも、ここ最近朝からどこかに出かけてるよね?」
と言ってきた。うわ、ばれてる。どうやら、結構前からわたしの行動を知っていたみたい。しかも、わたしの中で逃げるという選択肢が存在していることを察しているらしく、腕を掴まれている。魔法の花を持っていないし、転移はできない。…逃亡することは不可能だ。しかも、この感じだと言い逃れもできなさそうだし。わたしはこの状況をどうにかすることを諦めることにした。
「まあ、そうね…。ここ最近、ずっとここら辺を散歩してる。でも、ゼンこそよく気付いたよね?わたし、誰にも気付かれないようにそっと出てたんだけど。大体、ここにいても大丈夫なの?」
わたしがそう尋ねると、ゼンはあっさりとうなずいて答えた。
「怒られるかもしれないけど、その時はジェシカを追っていたらいつの間に外に出ていた…、って説明するから大丈夫。少なくとも、ジェシカよりは怒られずに済むはずじゃないかな」
…確かに。微妙にひどいけど、何も言い返せない。でも、見つかったってことは、朝の散歩も今日で終わりかなー…。ちょっと残念。時計台、行きたかったな…。でも、このまますぐに協会へ帰ることになるかと思ったら、ゼンは珍しく、どこかいたずらっぽい笑みを浮かべて、
「少し遠回りして帰る?ちょっとだけなら、まあ大丈夫じゃない?」
と提案してきた。ゼンにしては珍しいけど、その誘い自体はとても嬉しいものだったので、わたしはうなずいた。遠回りついでに時計台に行きたい。どうせこの近くだし。一応、遠回りの範囲内だと思う。取りあえず、時計台への道を歩きながら、わたしたちはぽつぽつと話をした。それによると、協会長さんもこうしてわたしが抜け出していることを知っているらしい。何でだろう。わたしの行動、分かりやすいのかな?でも、おかしい気がする。だって、知っているなら既にわたしは怒られていたはずだ。それなのに、何も言われていない。呼び出しすらされていない。どうしてだろう…?あえて何も言っていないってこと?釈然としない。そう考えていると、ゼンが質問してきた。
「で、どうしてジェシカはこうやって抜け出しているの?抜け出しているのがばれたら絶対に怒られるってジェシカだって知ってるはずなのに。何か気になることでもある?」
そう聞かれたが…、どう答えればいいのか自分でもよく分からない。ただ、あの場所にいてはいけないような、そんな気がしただけだ。自分でも意味の分からない感情。だったら別に気にしなくてもいいはずだと、自分でもそう思うのに、わたしは結局いつも外へと出ている。もはや自分の感情ではないような気さえする。まるで、誰かわたしではない別の人の感じていることのような…。でも、ゼンには話してみてもいいかもしれない。ほかの人に言ったら意味不明だと言われそうだけど、ゼンは何だかんだ人の言うことを馬鹿にするようなことはないと思う。
「…自分でもよく分からないけど、今のあの場所にいてはいけないような気がして。わたしがいたら、取り返しのつかない事態が起きるような、そんな予感がする。その衝動で外に出たって感じかな」
言い表してみたが、非常に曖昧な表現になってしまった。でも、ゼンはわたしの言った言葉を真面目に考えてくれている。そういう風にあり得ないような話でも真剣にそれを考えてくれるところは、本当にゼンのいいところだと思う。ゼンは何かを集中して考えているようだったので、わたしは黙っていることにした。だが、その間に時計台に着いてしまった。歩いている間、ほとんどずっと話していたせいか、いつもよりも早く感じる。そこでようやく再びゼンが口を開いた。
「その感覚って今もする?それとも、特定の場所や時間になると急に感じる?」
時計台の階段を上りながらわたしは答えた。
「今は全く。でも、協会にいる時ずっと感じるってわけじゃないから…。それと時間には規則性がないと思う。時々、思い出したように突然って感じかな。耐えることもできるけどかなり疲れるから、朝だけは諦めてこうして出てる」
そう言い終えた直後、時計台の窓にたどり着いた。心地よい風が吹きわたっている。涼しい。のんびりと外を見ていると、不意に視界の端に鳥が現れた。それは、段々とこちらに近づいてきた…!かと思うと、ぶつかる直前で一枚の羽根の形に変わり、ふわりとゼンのところに落ちた。そこでようやく、これが魔法だということに気づいた。この羽根は、届けたい相手が触ると手紙に変わると聞いたことがある。だが、それを読んだゼンは表情を変えた。何度も同じ部分を読んでいるのが分かる。
「…協会長からだ。中で、大量の蔦が現れたらしい。蔦が協会中を覆っていて飲み込まれそうだって…。絶対にジェシカを見つけてから帰ってこい、って書かれてる。理由は分からないけど…、戻った方がいいみたい」
だが、それを聞いた瞬間、わたしの中で誰かがこう叫んだような気がした。
『戻るな!!』
戻るな、って…。でも、戻らないと協会が大変なことになってしまうかもしれない。再び不思議な予感がしたような気がしたが、知らないふりをする。恐らく、わたしの炎の魔法なら蔦をどうにかできるはずだ。わたしとゼンは、時計台を下り、急いで協会へと戻った。とても、嫌な予感がする。
読んでくださり、ありがとうございました。




