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煌めきの森 魔法の花  作者: 立花柚月
3章 皇国の魔法使い
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第45話

ぎりぎり間に合った水上車の中で、わたしはのんびりと外を眺めていた。段々、皇国の綺麗に揃った街並みが遠くなっていく。何だか、あっという間に終わってしまったような気がする。でも、取りあえず無事に終わって良かった。カノンさんやリオナ様みたいな、素敵な人と出会うこともできた。楽しかったな。今回の件で、皇国が魔法に関する理解を少しは深めてくれればいいんだけど。そんなことを考えていると、車内販売が気になる、と言ってどこかに出かけていたゼンが戻って来た。水上車自体は何回か乗ったことがあるみたいだけど、その列車によって販売は行っていたりいなかったりする。この列車は販売しているようで、ゼンは乗った時から興味津々だった。いつもは落ち着いているのに、この時ばかりはずっとそわそわしていたので、「行ってきたら?」と言ったら嬉しそうにうなずいていた。すごく可愛いな、と思った。でも、前にそれを言ったら不満そうな表情をしたのを思い出したので、結局何も言わなかったけど…。その間、わたしはずっと外の景色を眺めつつ荷物番をしていたのだが、帰ってきたゼンは、飲み物を持っていた。しかも、何故か二つ。どうしたのかと思っていたら、そのうちの一つを渡してくれた。くれるとは思っていなかったので、少し戸惑う。

「…これ、くれるの?本当の本当に?やっぱりあげない、とか後から言わないよね?」

わたしの疑い深いその質問に、ゼンは非常に怪訝そうな表情をする。確かに、いつものわたしだったら、ほとんど何も気にせずに受け取っているだろう。だが、ゼンは無理やりわたしの手に飲み物を押し付けて言った。

「…僕、そんなに酷い性格じゃないと思うんだけど?それに、何でそんなに疑われるのか全然分からないし…。そもそも、あげたくなかったら最初から二つも買ってきてないよ」

そう言われたわたしは、ようやくそれを受け取った。一言お礼を言った後で早速一口飲むと、それがハーブティーだということが分かった。いい香り。ここ最近ずっと緊張していたせいか、すごく癒される。

「売り場のところで色々売ってたよ。軽食とか、お菓子とか。でも、そこまで長く乗るわけじゃないから結局これにした。それに、食べ物の方は混んでいるみたいでなかなか運ばれてこないみたいだし」

とゼンに説明された。心なしか、少し残念そう。もっと色々と頼んでみたかったのかな?やっぱり、こういうところは可愛いなー。年相応、という感じで…。いつもとは違う印象だから、余計にそう感じるのかもしれない。だが、それを口に出していないはずなのに、ゼンはわたしの心を読んだかのように、一瞬じとーっとした目で見られた。魔法の花は使われていないはずなのに…、おかしいな。それとも、わたしに気づかれないように使っているとか?でも、わたしがそこまで必要じゃないことに魔法の花を使おうとするといつもゼンに怒られるし…。そんなゼンがこんなことで花を使う訳がないだろう。…よく分からない。けど、ゼンはそのことについてそれほど気にしていないらしく、そのまま言葉を続けた。

「それに、ジェシカの好きなものってあまりよく知らないし。ただ、皇国のあれこれで色々と疲れたかな、って思ってそれを選んだんだけど。一応、お礼みたいな感じかな。たぶん、ジェシカがいなかったらあの状況を一人でどうにかできなかったと思ったから」

初めて買ったもので味が全然分からないから、美味しくなかったらどうしよう…、なんて今更言っている。でも、嬉しかった。たぶん、たとえ美味しくなかったとしても、そこまで気にしなかったと思う。わたしが少しはゼンの役に立てたということを示しているようで…。わたしはもう一回、小さくお礼を言って、また一口お茶を飲んだ。


魔法協会の最寄りの駅に着いたのは、その日の夕方だった。行くときは魔法のおかげですぐに着いたけど、実際はこんなに遠かったんだ…。そのことに驚いた。そこから協会まで歩いて戻る。いつものようにきらきらと輝く森の中に入ると、協会長さんがそこにいた。どうやら、わたしたちが戻ってくることを分かっていたらしい。ついでに、ギルさんも一緒にいる。協会長さんはにこやかに言った。

「二人とも、お疲れ様でした。時々魔法でお二人の様子を伺っていたのですが、どうにかなったようで良かったです。…あ、魔法仕掛けを頂けますか?」

そう言われたので、かばんにしまってあった魔法仕掛けを取り出した。そこで、端っこが少し焦げてしまっていることに気付いた。どうやら、わたしがこれを使って魔法を使った時に燃えてしまったようだ。もうちょっと加減すれば良かったかな?と今さら考えつつ、それを渡す。協会長さんはそれを丁寧に受け取ったが、すぐに焦げていることに気付いたらしく、首をかしげた。

「この焦げ目は一体…?ここだけ変色していますが…。何かの拍子に火でも当たりましたか?」

どうやら、その部分は見ていなかったようだ。なので、説明した。

「事件の黒幕が刃物を使おうとしていたので、それを止めようと思ったら花がなくて…。代わりにそれを使って炎を発生させました。それで、その時に焦げました」

そう言うと、何故か協会長さんは一瞬真顔になった。その隣のギルさんも、目を見開いている。…??もしかして、魔法仕掛けを使ったらダメだった…?すると、ゼンがわたしの言葉に補足した。

「魔法の花の時と同じくらいの威力でしたよ。おかげで助かりました」

しかし、その言葉にも協会長さんは反応しない。しばらく何かを考えた後で、いつも通りの微笑みを浮かべた。

「そうですか。とにかくご苦労様でした。今日はゆっくり休んで下さい」

そう言われたので、取りあえず部屋に戻ることにした。ニーナにも、戻ってきたことを伝えないと。…でも、さっきの謎の沈黙は何だったのかな?怒られなかったから良かったけれど…。そのことが妙に引っかかった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ジェシカとゼンが去って行った後。二人が完全に視界から見えなくなった後で、

「…協会長。やっぱり、何かがおかしいのでは?…もちろん、悪い意味ではないですが。でも、さすがにこれほどの力は…」

そう、ギルがつぶやくように言った。協会長は何も答えず、静かに端が焦げた魔法仕掛けを見つめている。魔法使いの間でもあまり知られていないことだが、本来、魔法仕掛けは効力を失えば、それだけではなく、中に入っていた魔法もほとんどなくなってしまう。恐らく、その魔法を使って通常通りに魔法を使える人物は少ないだろう。そもそも、魔法を使えるかどうかも分からない。恐らく、協会長にもギルにもできない技だ。そんなすごいことを、ジェシカはやってのけた。隣にいたゼンが「いつも通り」と言ったのだから、間違いない。…だが、どうして、彼女にはそれができたのだろうか。協会長には一つ、推測があった。それは、ジェシカがこの場所に来た時に感じたことから導いた推測だ。自分の勘が正しいのか分からないので、確信はないが…。そもそも、その推測が合っていれば非常に厄介になることは目に見えている。なので、協会長は何も言わない。だが、これほどの力を何度も使えば、いずれ、協会長のようにそのことに勘付く人も出てくるかもしれない。それが、当面の心配だ。

「…取りあえずこれは、預かっておきます。それと、この件については誰にも言わないように」

協会長は取りあえずギルにそう命じた。彼はうなずき、了解の意を示した。ギルが去って行った後、協会長は森の更に向こうを見るかのように遠くへ目をやった。向いた方向は、南。その方角にあるとある国に、協会長は思いをはせた。

「かつて光華の魔術師がいた国について、少し調べる必要があるかもしれませんね…」

これにて、3章完結です。

読んで下さり、ありがとうございました。

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