第42話
今回も、残酷ではないですが、少し危険な場面があります。
念のため、ご注意ください。
もう一人魔法仕掛けに関わっている人がいるということは、その人のこともどうにかしなければならない。だが、先ほどの犯人は既に捕まっている。思いっきり罠を仕掛けて捕まえたから、恐らくもう一人の方はかなり警戒しているだろう。できるなら、協力者の方の名前を知りたかったのだが、残念なことに犯人はその名前は知らないようだった。一応、名前自体は言っていたようだが、最近知り合った人で、明らかに偽名だと分かるものだったという…。そんな人を信頼してよかったのかな、と思ってしまったが、それだけ彼は必死だったのだろう…。まあ、ともかくそんな感じなので、手掛かりはないに等しい。どうしようかな、と考えつつ、仕掛けておいた魔法を少しだけ発動させてみる。この辺り全体の魔法の痕跡が分かる便利な魔法だ。すると、この場所全体が蒼い色に染まる。どうやら、犯人は頻繁にここに出入りしている人物のようだ。まあ、宮廷の人に魔法仕掛けを渡せたのなら、当然かもしれないが…。
「…取りあえず魔法仕掛けは取り戻したし、一旦リオナ様のところに行かない?早く目覚めさせないと…」
そうゼンに言われたのでわたしはうなずいた。取りあえず、協力者のことは後で考えることにする。カノンさんのところに行って、例の鍵をもらい、リオナ様のところへ行った。この魔法仕掛けは、その対象の人のところで解除しなければならない。なので、そこで作業をする必要があるのだが…。わたしたちがそこに入ると、驚いたことに先客がいた。こちらがそれに気付いたのと同時に、向こうもわたしたちに気付いたようだ。ゆっくりとこちらを見る。その瞬間。何か、既視感のようなものを覚えた。実際、わたしはこの人と一回会ったことがある。わたしが初めてここに来た日、彼は、リオナ様が目覚めないことを祈っていて…。でも、それだけじゃない。それ以外に、何かがある。心のどこかで、誰かがそう告げている。すると、相手の人は微笑んで、わたしを見てこう告げた。
「あなたに会うのは、これで三回目ですね。今までの二回はどちらの時も突然あなたの姿が消えてしまって驚いたのですが…。こうして見えているということは、本物みたいですね」
三回目…?どうして…?だが、それと同時に一つの結論に行きついたような気がした。わたしは咄嗟に魔法の花を取り出した。それは、さっき使った、魔法の形跡をたどることができるもの。ほんの少しだけ、まだその効力が残っている。突然のわたしの行動にゼンは戸惑っているようだったが、構わない。そのまま魔法を使った。その瞬間、彼の服の一部が強く輝く。試しに魔法仕掛けもかざしてみると、その二つは全く同じ光を放っていた。やっぱり…。だから、既視感があったんだ…。それを見て、ゼンも察したようだった。それが指すのは、彼がこの魔法仕掛けを犯人に渡したということ。そして…
「あなたが、数日前にわたしのことを市井まで追ってきた人…、なんですね?」
そう尋ねると、彼はあっさりとうなずき、わたしの言葉を肯定した。ということは、この人が謎の危険人物…。あの時に感じた彼の気配が、既視感の元になっていたのだろう。そしてこの人は、魔法仕掛けを犯人に渡した黒幕でもある。わたしが魔法の花を下ろすと、蒼い光は消え、その場は一気に暗くなった。そんな中で、彼は微笑む。だが、その笑みは全く楽しそうなものではない。
「一回目は、一瞬だけ姿が見えていたので、少し気になったんです。なので、あの後で偶然あなたを見かけたとき、少しついて行ってみようかと…。結局撒かれましたが」
くすくすと笑う。その口調はそこまで怖くないが、かなり怖いことを言われたような気がする。もしわたしがあの時気づいていなかったらどうなっていたのだろう…。それを想像すると、少し怖い。だが、しばらく笑っていた真犯人は不意に表情を冷たいものへと変化させた。
「さて、そこまで知られているなら、…さっさと実行しないといけないですね。邪魔される前に」
そう言って取り出したのは、わずかな光でもしっかりと銀色に光る、何か。その煌めきの正体にいち早く気づいたわたしは、魔法で炎を灯した。そしてそれを、彼の目の前へ飛ばす。ゼンはそれを見て、すぐにわたしのしたいことに気づいたようだ。ゼンはわたしが炎を投げた方向に勢いよく氷を飛ばした。黒幕の持つ、冷たく輝く小刀の前で炎と氷はぶつかり、その場に蒸気が立ち上った。それは、まるで霧のように濃い。そのことは魔法試合の時に実証済みだ。恐らく、あそこにいる黒幕は目の前にいるリオナ様のことすら見えていないだろう。これで、多少の時間は稼げるはず…!すると、ゼンがその蒸気が消えないうちに素早く黒幕に近付いた。そして、その動きを魔法で止めながらわたしに言った。
「ジェシカ!僕がこっちを止めている間にその魔法仕掛け、壊して!!」
「っ、了解!なるべく早く終わらせるから!」
これが終われば、わたしも加勢できる。だから、それまでどうか、ゼンが持ちこたえられますように。いや、そもそもわたしが早く終わらせないといけないのだ。わたしは魔法仕掛けを手に、リオナ様に近付く。…ただ、これ、どうやって壊せば…?確か、魔法仕掛けの本には、「希望を見せること」と書いてあったけど…、難しくない!?わたしも夢の中に入るわけにはいかないし、ここでできる何かを考えなければ。何か、リオナ様が好きそうなものとか…。それを使って何かする…?と辺りを見渡して、気付いた。そういえば、この部屋はとても暗い。物理的にも、雰囲気的にも…。それに気付いたわたしは口元に笑みを浮かべた。それなら、わたしの出番だ。炎の明かりは、夜の暗闇も照らす。そして、周りだけでなく、人々の心を明るくする。それも、ある意味希望と言えるはずだ。わたしは魔法の花をまた一本取り出した。そして、優しくて明るい炎を灯す。時に炎は暴れ狂うが、こうして温かい存在にもなる。わたしは魔法仕掛けを持った手を、リオナ様の真上に差し出した。その装飾のガラスに、小さくわたしの姿が映りこんでいる。その中のわたしの瞳は、緋色だった。自分でこの色を確認するのは初めてだったので少し驚いたけれど、取りあえずそれは放っておく。炎を灯した魔法の花を、魔法仕掛けの上に乗せる。その瞬間、わたしの手の上で魔法仕掛けは緋色の炎に囲まれた。手の上で起きている現象なのに、熱さを全く感じない。炎はそのまま魔法仕掛けに含まれている魔法の力を優しく包むように燃やし、やがて消えていった。魔法仕掛けはその力を失う。最後に、緋色の光がきらきらと辺りに舞った。それは、リオナ様の体へと落ちていき、体に触れると吸い込まれるようにして消えていった。その瞬間、部屋の謎の重苦しい雰囲気が、まるで風に吹き飛ばされたかのようになくなった。…やっぱり、魔法仕掛けのせいだったのかな?わたしはぼんやりと辺りを見渡した。気のせいか、物理的にも部屋が明るくなったような…?だが、取りあえず魔法仕掛けの処理が終わったことを報告しなければならない。わたしは、念のため魔法仕掛けをポケットの中にしまった。正直、この魔法仕掛けについは謎のことが多い。なので、再び黒幕の手に渡ったらどうなるのか、よく分からないのだ。気をつけるに越したことはない。その後で、黒幕の動きを封じているゼンに声をかけた。
「ゼン!終わった、終わったよ!魔法仕掛け、ちゃんと壊せた!」
わたしのその言葉にゼンは、こちらを振り向き、微笑んだ。
読んで下さり、ありがとうございました。




