第40話
数日後。その日は、朝から宮廷中が大騒ぎだった。なぜなら、その日、この国にはあってはならない力が使われるという噂が流れていたからだ。そのため、宮廷の人々は、仕事の間も祭祀の祈祷中もそれに集中できないくらい戸惑っていた。そんな中で、とある宮廷人が人目がつかない場所で、こっそりととある道具を取り出した。彼が持っているそれは、リオナに夢を見させている魔法仕掛けだ。その美しい外見とは裏腹に、悪夢を見せるという恐ろしい魔法が込められている。最初は、その人物も魔法など信じていなかった。そもそもそれは、彼の知り合いから貰ったもので、その効果を聞いても本当にそんなことが起こるのだろうか、と疑っていた。だが、その魔法仕掛けを試しに使ってみて、魔法が本当であるということが分かった。しかも、この国では魔法の存在を信じていない人物が多い。だから、これを使ったとしても、「原因不明の病」で終わらせることができると思ったのだが…、予想通りにはいかなかった。魔法使いがここに来てしまったからだ。もしかしたら、魔法使いはリオナの状態が魔法によるものだと気付いているかもしれない。そして、それを踏まえて何かしようとしているのかもしれない…。だが、自分の予想が当たっているのかを確認する術はない。一体どうすれば良いだろう、とため息をつくと、不意に誰かが近寄ってくる音がした。彼は慌てて魔法仕掛けを隠したが、やって来たのは、その道具を元々持っていた協力者だった。協力者は、彼を見るなり挨拶もせずに、
「その道具、誰にも見つかっていないですよね?…ああ、でも、これからばれる可能性がありますが…」
その言葉に、彼はぎょっとした。見つかってしまえば、全てが明らかになってしまう。そうすれば、厳罰は免れない。しかし、協力者の言っている言葉がどういうことなのか、全く分からない。何故その可能性が出てきたのだろうか。そこで彼は、協力者に詳しい説明を求めた。すると、協力者はこんな状況であるにも関わらず、淡々と落ち着いた口調で、宮廷で流れている魔法に関する情報を教えてくれた。
「どうやら、魔法って案外便利みたいですよ。下手すると、この国の力よりも。何でも、魔法の形跡を探しだして、そこから誰が怪しいのか特定するようで…。かなりまずい状況かもしれないですね?」
非常に他人事のような口調だったが、彼はそれを気にしている場合ではない。やはり、彼らは魔法に気付いている。やはり、もうこれで終わりなのだろうか…。そう考えていると、彼を怖いほど静かな瞳で眺めていた協力者がにこりと温度のない笑みを浮かべた。そして、誘惑のような言葉を告げる。
「でも、一つだけ、この状況をどうにかできる方法がありますよ。聞きたいですか?」
その言葉に、彼は弾かれたように顔を上げる。協力者は、冷たい笑みを浮かべたままでその方法をそっと教えた。
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わたしがとある目的のために宮廷を歩いていると、ひそひそとあちこちから会話が聞こえてきた。それらのほとんどが、わたしたちがあえて流した噂話に関することだ。その噂話とは、今日、この宮廷で魔法が使われるという情報。実際にこの後で魔法は使うのだが、わざと大げさに広めておいた。もし、普通の状態でこの噂を流せば魔法を使うのを妨害される可能性があったけど、今回の場合は帝が直接許可を出していらっしゃるので、誰も邪魔することはできない。…でも、魔法を承認していない国で魔法の使用を一時的だが許可したことはすごいと思う。それだけ、リオナ様のことが大事なのだろう。そんなことを考えていると、ゼンに遭遇した。お互い、噂話がどれくらい広がっているか調べる、という目的を果たし、しかも予定通りに噂話が拡散されていることを確信したわたしたちは笑い合った。上手く情報が流れていて良かった。ちゃんと流れてないと意味がないのだ。まあ、この後が本番だけど…。
カノンさんが提案し、わたしたちが更に具体化させた作戦は至ってシンプルなものだ。まず、宮廷で魔法が使われるという噂を大々的に流す。その時に使う魔法のことも、若干流しておく。そうすれば、魔法仕掛けを持っていることを知られたくない犯人が、何かしらの形でこちらに接触してくるはずだ。それを、捕まえる。もし、その後で知らないふりをされたとしても、魔法を使えば一発で分かってしまう…、そんな作戦だ。わたしとゼンが、その魔法をどこで使うか、その場所について最終確認のために話し合いをしているとカノンさんがやって来た。今回の作戦で、カノンさんは噂を流すのに大きく協力してくれた。というか、やらせてほしいと頼まれた。その理由を尋ねると、カノンさんはいたずらっぽい笑みを浮かべて、
「たまにはそういう、スパイみたいなことをしてみたいから」
と答えられた。…理由はともかく、カノンさんは信頼できるので、お願いすることにしたのだった。そんなことを思い返していると、カノンさんに質問された。
「そういえば、ジェシカさん。あれから追いかけてくる人とか怪しい人とかいない?」
一瞬「?」と思ったが、思い出した。そういえば、ここに来た日、謎の人に追いかけられたんだっけ。でも、最近はゼンが一緒にいてくれるおかげか、全く姿を現していない。やっぱり、誰かといるというのは、非常に大きい効果があるみたい。それを言うと安心したようにカノンさんは笑った。だが、
「もしかしたら相手は、今日出てくるかもしれないわ。あなたが魔法使いだということを知っている人は限りなく少ないけれど、向こうが知っている可能性だってあるもの」
そう警告した。…あの人、本当に誰だったんだろう?出てこないのが一番いいけれど、誰なのか分からないまま協会に帰るのも、それはそれで後味が悪い。それに、そもそもあの人の目的が全く分かっていないし。うーん…、出てきてほしいような、ほしくないような。微妙な気分だ。と考えていると、ゼンまで真剣な表情で、
「特にジェシカは気をつけた方がいいと思う。この国の人じゃないから、向こうは逆に狙いやすいんじゃないかな」
あー、確かに。この国の人にあまり知られていない人の方が、いなくなっても周りの人は違和感を覚えないだろう。この前わたしの後をつけてきた人も、それを狙っていたのかな。ということは、向こうはわたしの正体を知っている…?けど、わたしはこの国に一度も来たことがなかったし、ゼンと一緒にいる時間は多いけど、だからと言って魔法使いだと判断するには根拠が薄すぎるだろうし。それか、わたしが最初ここに来た時、突然現れたところを見られていたとか…?それが一番あり得る話だけど…。色々と考えたが、考えるほどごちゃごちゃとしてきたので、取りあえずそのことについては放っておくことにした。念のため、そのための対策はしておこう。そうしよう。「備えあれば憂いなし」ってよく言うし。
「なるべく周りにも気をつけるね。でも、ゼンも注意しておいた方がいいんじゃない?逆にゼンの方が顔を知られているだろうし、犯人も見つけやすいと思うよ」
「そうかな?まあ、でも何にしてもどちらかにやってくる可能性は高いし、お互いに気をつけるってことで」
そこまで話したちょうどその時、正午を示す鐘が鳴った。いよいよ、作戦開始だ。わたしたちは作戦を実行するために、それぞれの持ち場へと向かった。
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