第4話
馬車を降りたわたしは、目を疑った。そこに広がっているのは、森。奥の方が見えないほど、たくさんの木々や草が生えている。…けど、一つだけ徹底的に普通の森と違うところがある。それは……。
森全体が、光っていることだ。木々がほんわりと淡い光を放っている。けど、何で??光る植物なんてあったっけ?わたしはそこまで詳しく植物に詳しくないから全然分からないんだけど…。でも、それにしては全体が輝いている。それに、明るい。一方、呆然としているわたしを見て、ギルさんはどこか楽しそうに笑った。
「驚いただろう?この中に、魔法協会がある。この光は、魔法の力がこの森に溢れているからで、古い文献によると、ここに協会が出来た時から光り輝いているらしい。そしてこの光は、魔法を持っている人にしか見えない。だから、普通の人にとってはただの森なんだよ」
その話を聞きつつ、森の奥をじっと見た。ここに魔法協会があるようには全く思えない。だって、光っている以外は普通の森にしか見えないから…。けど、輝いているのはすごく綺麗。まるで、星が煌めいているような…、そんな感じがする。わたしが森の煌めきに魅入っていると、ギルさんが言った。
「じゃあ、中に入ろうか」
短くそう言ってすたすたと木に向かって歩いていく。え…!?待って、ぶつからないの、これ!?わたしは見ていてはらはらしていたのだが、何故かギルさんは木にぶつからなかった。ギルさんがそこを通ろうとした瞬間、一瞬だけその木の表面が波紋のようにゆらゆらと揺れ、ギルさんがその中へと入っていったのだ。わたしは慌ててその木に近寄った。しかし、中に入っていったはずのギルさんの姿が全く見えない。一体、どういうこと!?わたしが混乱していると、木の向こう側にいるギルさんがわたしの名前を呼んだ。そして何かを言う。森に入ってこい、と言っているようなそんな気がした。…ギルさんと同じようにすればいいのかな?わたしは恐る恐る、木に手を伸ばした。もし、ギルさんみたいに歩いていって木にぶつかってしまったら嫌だな、と思ったのだ。しかし、私がその木に触れようとしたその瞬間、木の幹がぐにゃりと歪んだ。そして、波紋を広げる。わたしはびっくりして手を引っ込めた。しかしそこで、またギルさんの声。…早くしないと置いていく?それは困る…っ!わたしはもう一回手を伸ばした。再び波紋が広がる。今度は思い切って、その中に飛び込んだ。すると、何か冷たいものが一瞬体に触れ、わたしは次の瞬間、森の中にいた。後ろを振り返ると、そこには木が…。そこから、うっすらとわたしがさっきまでいた場所が見える。この仕組み、すごすぎる…。わたしが心の中で感動していると、ギルさんがちょっと楽しそうに笑って言った。
「こうやって、中から外にいる人の観察をするのも面白いんだよなー」
何かさりげなく変なこと言ったよ、この人?わたしは若干ひきつつも、さっさと歩いていくギルさんの後を追った。しばらくしてから後ろを振り返ると、今まで通ってきた道が綺麗になくなっている。そこにはただ、森が広がっているだけ…。本当に不思議な仕組みだ。今度、どういう風になっているのか聞いてみたいな。
五分ほど道を歩いていると、突然開けた場所に出た。そして、そこから見えるものにびっくりした。そこにあったのは、建物。こんな深い森の中にこんなに大きい建物があったとは…。恐らく、それも魔法で隠されていたんだと思う。すごいな…。わたしがきょろきょろと見ていると、不意にどこかから視線を感じたような気がした。…?どこからだろう?わたしは建物の方をもう一回見た。外には、誰もいない。ただどこからか声が聞こえるので、もしかしたら中庭とかがあるのかもしれない。うーん、ということは、外じゃなくて建物の中のどこかから?そう思って建物の窓を一個一個丁寧に見ていると、ある窓に目が留まった。そこにいたのは、わたしと同じくらいの男の子。どこか大人びた表情をしている。綺麗な藍色の瞳が印象的で…。誰だろう、と思ってそっちを見ていたが、男の子は不意に姿を消してしまった。…まあ、この建物の中にいればいずれ会う機会はあると思う。わたしはさっきの男の子のことを少し気にしつつ、ギルさんと一緒に建物の中に入った。建物の中は、何だか豪華。装飾とかがたくさんある。…と、そこでわたしは気付いた。何か、黒い石のようなボタンのようなものが壁にはまっている。気になったわたしはそこで立ち止まり、その黒い物に手を伸ばした。そして、軽く触れる。すると、黒い物体はそれに反応したのか、軽く光った。…と、そこでギルさんが立ち止まってわたしに言った。
「ジェシカちゃん、そこに黒い物があるけど、それには絶対に触らないように。危険な物だから」
「…え?うそ、ギルさんごめんなさい。もう触っちゃったんだけど」
そう言った、その時だった。どこかで、ガチャリと何か音がした。…??何だろう?わたしが不思議に思ったその時だった。急にギルさんがわたしに近付いたかと思うとぐいっと手を引っ張った。…!?しかし、その瞬間、今までわたしがいたところに、無数の針が…!!え、何これ?何が起きたの?!そう思ってギルさんを見ると、彼はほっとしたような表情をしていた。けど、急に怖い顔になって言った。
「いいか、この魔法協会は建物自体が罠になっているようなものだ。今のボタンみたいに、罠が発動する仕掛けがたくさんある。むやみにそういうのを触っちゃダメだ、…死にたくなければ」
わたしは慌ててこくこくうなずいた。ギルさんの顔は、ものすごく真剣そうだった。ついでに、他にはどのような罠があるのか聞いてみると、「落とし穴」と言う不思議な回答が返ってきた。どうやら、この建物の地下には迷宮があるらしく、落とし穴はそこに繋がっているらしい。地下迷宮って…。何でそんなものがこんなところに?意味不明すぎる…。わたしは怖いな…、と思いつつ慎重に歩いた。一歩のギルさんはさっさと歩いていく。待って、速すぎない!?何でそんなに余裕なんだろう?すごいな…、と思いつつわたしは後を追いかけた。しかし、その途中で今度は何かを踏んだ。カチッという、何かのスイッチのような音が鳴った。それと同時に、ギルさんが勢いよく振り返った。そして、
「おい!?今度は何を押したんだ?そもそも、何でわざわざスイッチを押すんだ!」
「え?わたしにも分からないんだけど…。そもそも、こんなところにスイッチなんてなかったはずなんだけど…」
そう言って下を見ると、そこにはさっきみたいな黒いボタンが…。嘘でしょ!?というか、また針が降って来たら困るんだけど!しかし、その瞬間、さっきよりもびっくりするほど巨大な針が降ってきた。……っ!視界の端で、ギルさんがわたしに向かって手を伸ばしているのが分かった。でも、たぶん間に合わない…。その時だった。
不意に、どこからか氷のような透明な何かがわたしの頭上に現れた。わたしが驚いていると、針はその氷にぶつかった。そして、次の瞬間。針が凍り、割れた。その破片が、辺りに飛び散る。
「…何、これ?今の、一体…」
わたしはそうつぶやいて、辺りを見渡した。そこには、ギルさんとわたし以外にももう一人、いつの間にか人がいた。その人物を見て、わたしは目を見開いた。だって、そこにいたのは、さっき窓からこっちを見ていた、男の子だったからだ。夜の始まりのような、落ち着いた藍色の瞳が印象的な…。その男の子を見てギルさんがつぶやいた。
「ああ…、ゼンだったのか。助かったよ、ありがとう」
その言葉に、ゼンと呼ばれたその人は黙ってうなずくとさっさと行ってしまった。…誰だろう?しかし、ギルさんはそれ以上何も言わずに再び歩きだしてしまった。ちょっと気になったけど、取りあえず追いかけることにした。またいつか、会うだろうし。
その時のわたしは、その人とわたしが大きく関わることになるなんて想像もしていなかった。
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