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煌めきの森 魔法の花  作者: 立花柚月
3章 皇国の魔法使い
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第36話

カノンさんはしばらくきょとんとしていたが、微笑ましいものを見ているような、そんな笑みを浮かべた。そういうのでは、ないはずなんだけど。というか、好ましいとは一体…。分からない。本当に分からない。それに、絶対にありえない。わたしにとって、ゼンはいたずら相手で、魔法に関しての友達みたいなもので…。それに向こうだって、わたしのことを迷惑な人だと思っているだろうし。そういう自覚がある。そもそも、カノンさんにだって、わたしに関して謎の説明をしていたみたいだし…。考えれば考えるほど、ありえないような気がしてきた。だけど、その言葉にかなり動揺していたのも事実で……。だから、不意にこの部屋に、

「姉さん、失礼します。ゼンです。少し話を聞いてもらってもいいですか?」

そんな声が響いた時、わたしは驚きで思わず立ち上がった。この声は、絶対にゼンだ。そんな自信がある。そもそも、名乗ってたし。振り返るとやはりそこには予想通りの人がいた。一方のゼンは、急に立ち上がったわたしに逆に驚いたらしく、その場で固まっていた。何かが入っている、重そうなかばんを肩にかけたまま…。カノンさんはカノンさんで、わたしの様子を見て楽しそうに笑っているし…。この後、どうすればいいのか分からなくなった。そんな状態で、しばらく無言の時間が続いたが、その沈黙を破ったのはカノンさんだった。ふわり、と優雅に立ち上がると、微笑んだ。

「ええ、もちろんよ、ゼン。ちょうど今、ジェシカさんと一緒にあなたのことを色々とお話していたの。あなたの協会での様子を聞くことができて、本当に良かったわ。上手くやれているようね」

しかし、カノンさんが安心したように笑ったのにも関わらず、何故かゼンはじーっとわたしを見た。何なんだろう…、と思っていると、疑わし気にこう尋ねてきた。

「…ジェシカ、姉さんに何て話したの?何かおかしいこととか言ってないよね?」

微妙に圧力を感じる…。というか、そんなこと言うわけないんだけど。どこかの誰かさんじゃないんだし、ちゃんと真面目にいいところを伝えましたけど?大した情報は思いつかなかったせいでほとんど何も言えなかったけど…。しかも、何でそんなに疑うかな…。ひどくない?そこまで疑念を持たなくてもいいと思う…。しかし、それを言うと、ゼンは、

「自分の日頃の行いを思い出したら、どうしてこんなに疑われるか分かるんじゃないかな」

と涼しい顔で返してきた。本当にひどいと思う。まあ、そう言われたら何も返せないのは事実だけど…。だが、言い返せないのが悔しい。そんなわたしたちの会話を聞いていたらしいカノンさんはくすくすと笑った。

「ふふっ、仲が良さそうで何よりだわ。…話を戻すけど、ゼン、話って一体…?聞くだけなら別に構わないけれど、魔法仕掛けに関することだったらジェシカさんの方が適任だと思うわ。私は完全に皇国の人間だから…」

そう微笑んだ。カノンさんの予想した「話」の内容が当たっていたのか、ゼンは驚いているようだった。けど、それでも構わない、と話を始めようとした。…これ、わたしはここにいてもいいのかな?魔法に関する話だから、一応わたしにも関係ある話だけど、兄妹でゆっくり語らう方が良さそうな気がする。こういう時間って貴重だろうし。そう思って、二人を邪魔しないようにそーっと部屋から退出しようとすると、それに気付いたカノンさんに、こちらに来て、と言うように手招きされてしまった。…え、いいの?本当にわたし、ここにいていいの?心配になったが、カノンさんを無視するわけにもいかず、わたしは先ほど座っていた席に戻ることにした。わたしが席に着いた後で、ゼンは話を始めた。

「…姉さんの言う通り、話したいことは魔法仕掛けについてです。どうすればいいのか、よく分からなくなって…。今までに魔法仕掛けは見つかっていません。見つけるためには、大々的に調査をすることが必要ですけど…、でも、今の状況ではそれもできない。…そんな状態で、何ができるのかなって…」

あれ、ゼンが珍しくネガティブ思考になっている。カノンさんもそんなゼンに驚いているようだ。…けど、その発言はつまり、リオナ様を回復させるのを諦めているってこと?そんな諦めながらやっていたら、普段は見逃さないようなことにも気付かなくなるのでは?気持ちって大事だ。それ次第で、その人の行動は大きく変わってしまう。そんなことを考えていると、カノンさんは、

「恐らくその質問には、私よりもジェシカさんが答える方が適していると思うわ。それに、彼女も何か言いたそうにしているし。ジェシカさん、どうぞ」

どうやら、わたしが言いたいことを察して下さったらしい。わたしは、カノンさんに「ありがとうございます」と微笑んでから、ゼンの方を向いた。

「色々言いたいんだけど、その前に一ついいかな?その言葉を言っているってことは、ゼンはこれ以上は何もしない、ってこと?今の状況じゃ何もできないから、その制約を受け入れて、何もかも諦めるってこと?」

「……っ。それは…」

ゼンが珍しく、言葉に詰まる。ゼンらしくない。いつもなら、こっちが反撃できないくらい徹底的に言葉で攻撃してくるくせに。何だか、皇国に来てから珍しいゼンを見ることが多い。きっと、それだけ大変でいつもの状態を保てないのだと思う。だが、今のでわたしの質問に対する答えは分かった。

「それじゃあ、ゼン自身はどう思ってるの?このままリオナ様が目覚めなくてもいいの?」

「そんなこと、思うわけがない!魔法仕掛けとか派閥とかのせいで誰かが被害を受けるなんて、絶対に嫌だ!」

ゼンは即答した。それと同時に、あることを確認したわたしは微笑んだ。その気持ちがあるなら、きっと何とかなる。それに、わたしが確認したことは、この状況をどうにかするのに繋がることだ。恐らくゼンは、それを行うことを半分決めている。ただ、本当にそれが正しいのか分からない。そういったところだろうか。わたしは言葉を続けた。

「そう。それなら、それでいいんじゃないの?『皇国の人間』じゃなくて、『魔法使い』としてどうにかすれば?それに、ゼンはそれをやろうとしているんじゃないの?」

そう言ってわたしは、ゼンのかばんを指差した。ゼンはいつもそこにあのお守りをつけている。でも、今日は何もつけていない。あの水色は、わたしの見える範囲ではどこにも見当たらない。さっきわたしが確認したのはこのことだった。あれは、祭祀家と言う名の枷のようなものだ。恐らく、ゼンにとってはあれだけが、自分が皇国の人間だということを示す唯一のものだったのだと思う。もし、今もそれにこだわっているのなら、今もそこにつけているはずだろう。

「確かに、魔法使いはこの国では認められていないみたいだけど。でも、ゼンは一人でいるわけじゃないよ。役に立つかは分からないけど、一応わたしはここにいる。それに、離れた場所だけど、協会長さんとかギルさんとかがちゃんと存在してる。だから、一人で戦わなくてもいいんだよ」

そう言うと、ゼンははっとしたように目を見開いた。その後で、カノンさんもふわりと笑みを浮かべて、

「私も、皇国の人間だけど、手助けすることくらいはできるわ。たまにしか会えないんだし、こういう時くらい弟に頼られたいなー、…なんて思ったり」

そう冗談っぽく言ったが、その言葉は本気のようだった。カノンさんの浮かべる笑みは、まるで暖かな日の光のようだ。まるで、その暖かさで氷が溶けるかのように、ゼンの表情が、少しだけ和らいだ。

読んでくださり、ありがとうございました。

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