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煌めきの森 魔法の花  作者: 立花柚月
3章 皇国の魔法使い
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第35話

その部屋の扉を開けて外に出ると、わたしたちはいつの間にか、先ほどの扉の前に戻ってきていた。さっきの鍵、すごいな…。魔法と言われても疑わないと思う。けど、ゼンの表情は険しい。その表情で、わたしも先ほどの貴族らしき人のことを思い返した。彼の言葉を思い出す度に、もやもやとした何かが心の中に広がるようだった。言葉は時に、強い毒となる…。すると、ずっとそこで待っていたらしいカノンさんが立ち上がって何かを言おうとした。けど、ゼンを見て、状況を何となく察したようだった。

「ジェシカのおかげで魔法仕掛けに関することは少しだけ分かった。…でも、状況は全然よくなってない。ああいう風に、リオナ様がいなくなることを願っている連中はたくさんいる。…しかも、派閥とかいう面倒な存在のせいで、大々的に動けない……」

ゼンにしては珍しい、悔し気で、苛立ったような声でそうつぶやくと、彼はどこかに行ってしまった。わたしは追いかけようとして…、結局その場から動かなかった。一人にしておいた方がいいような、そんな気がしたのだ。…けど、ここからどうすればいいんだろう。さっきの人に会いたくないし…。でも、リオナ様の様子は気になる…。そんなことを考えていると、カノンさんがわたしにあることを提案した。

「ジェシカさん、これから少し時間をもらってもいい?この皇国に関して…、色々なことを、あなたに話しておきたいの。ゼンはあんな状態だし…。構わないかしら?」

その提案に驚いたけど、断る理由はないのでうなずいた。ゼンの先ほどのつぶやきに関することで、少し疑問に思っていることがある。それと、あのお守りについても…。その話が聞けそうな気がしたからだ。すると、カノンさんは微笑み、わたしを屋内へと案内してくれた。今度は鍵を使わなかったので、普通の廊下が続いていた。


案内されたのは、カノンさんのお部屋だった。めちゃめちゃ広い。そして、白っぽい色の家具などで統一されている。そして、時折、何か不思議な道具が置いてあった。もしかしたら、祭祀に使う道具なのかもしれない。それらを眺めながら奥に進むと、そこには小さなテーブルと、二脚の椅子が置かれていた。座って、と手振りで指示されたので、わたしはそこに座らせて頂くことにした。すると、カノンさんは手ずからお茶を入れてくれた。そして、椅子にゆったりと腰かけた。一口お茶を飲み、早速、話を切り出した。

「まず、あなたにはお礼を言いたかったの。ゼンと、一緒にいてくれてありがとう。…何となく察しているかもしれないけど…、この国は、ゼンに…、魔法使いには優しくない国よ。あの子がまだここで過ごしていた頃も、そのせいで色々とあったの。例えば…、軽蔑されたり、色々と制約があったり…」

特にゼンは祭祀家に生まれたから、という理由で風当たりがきつかったそうだ。祭祀家には相応しくない力を持っている、と…。カノンさんは全くそのことを気にしていなかったようで、普通に遊んでいたらしい。でも、周りの大人はあまりゼンに会わせてくれず、その機会は少なかったのだという…。

「しかも、ゼンはいつもこちらの都合に合わせられているわ。今回のことだって、そうよ。普通の魔法使いだったら、この国の面倒な連中とか派閥を気にしないで自由に調査できるのに…」

一体どういうことか。首をかしげると、カノンさんはため息をついた。そして、何が起こっているのか、教えてくれた。この国は、ゼンに「この国の祭祀家の一員として」魔法仕掛けをどうにかすることを要求した。つまり、祭祀家という名の制約の中で、調査しなければならないということ…。しかも、祭祀家は中立の立場をとっている。なので、ゼンがさっき言っていた通り、大々的に調べることは不可能なのだ。それをすれば、祭祀家はリオナ様の味方だと、みなされてしまう…。それを聞いて、先ほどゼンが言っていた言葉に納得した。それに、わたしの姿を魔法で消していた…。たぶん、それも派閥とか、そういう面倒なものが関係していたのだろう。…と、そこでわたしは一つ、聞きたかったことを思い出した。

「…そういえば、ゼンの持っている水色のお守りみたいなもの…。カノンさんはそれが何かご存知ですか?いつも持っていたから大事な物だと思っていたんですけど、ゼンは、別に捨ててもいいって…」

それを尋ねると、カノンさんは少し考えた。水色…、と小さくつぶやく。少し時間が経ってから、「ああ…」と思い出したようにつぶやいた。

「あれはね、祭祀家の証みたいなものよ。国としては認められないような力を持っているけど、一応祭祀家の人間だから、ということで小さい頃にもらった物ね。私も持っているわ。まあ、それ自体に特に力はないから、ずっとどこかにしまっておいているけど。…そう、まだ、持っていたのね…」

しかし、その顔はあまり嬉しそうなものではなかった。悲しそうで、後悔しているようでもある、そんな複雑な表情…。カノンさんはそんな表情のままで、独り言のように、言った。

「本当に…、捨てたっていいのに…。ゼンは既に、魔法使いとして、祭祀とは全く違う道を歩いている。だから、別にこの場所に固執する必要はないのよ…」

その瞳は、どこか遠くを見つめている。過去の出来事を振り返るように…。わたしは小さくうつむいた。ここで暮らしていた頃のゼンに何があったのか、それらのことは詳しくは分からない。…けど、まだ小さい子どもにそんな扱いをするなんてひどい、とそう思った。でも、それなのにゼンは、その皇国にいた印とも言えるお守りを持っていた。それは一体、どうしてなんだろう…?何か、それに思い入れがあるのかな?そんなことを考えていると、不意にカノンさんが重い空気を変えるように、話題を全く違う物にした。

「そういえば、協会でのゼンはどんな感じなのかしら?ずっと心配で何回か手紙を送ったんだけど、あの子、どうでもいいことしか書いていないのよ。その日の天気とか、体調とか?まあ、それも大事なんだけど、ちょっと違うというか…。そんな感じだから、あまりよく分かっていなくて…」

そう言われてわたしは少し考えた。うーん…、それなら、わたしなんかよりも他の女の子たちの方がゼンのことをすごく知っている気がするんだけど…。答えるのに困る。取りあえず、わたしといる時のゼンを思い浮かべてみた。

「そうですね…。わたしから見たゼンは、すごく魔法が得意で、いつも落ち着いています。あ、それと、すごく頼れる人だと思います。…あと、女の子たちに人気…?」

我ながら、どうでもいい情報しか出てこない…。最後の情報なんか、特にいらないと思う。もっと良さそうな情報、ないかな…。そう思って記憶を探ってみたが、全然出てこない。何か、ゼンに申し訳なくなってきた。けれど、何故かカノンさんは楽しそうな表情をしている。そして、

「そうなのね。要するにジェシカさんは、ゼンのことを好ましく思っているってことかしら?」

唐突に言われたその言葉に、わたしは固まった。一瞬、意味が分からなかった。しばらく考えた後で、徐々にその意味が頭の中に入ってきて……。

「はい…!!?いや、いやいやいや、そんなことないです!絶対にないです。協会の女の子たちはそうかもしれないですけど…!わたしにとってのゼンは……」

けど、そこまで言ったところで言葉が出てこなくなった。なぜなら、そう言っていた時。心の中の自分は、「カノンさんの言う通りかも…」と言っていた…。けど、それを認めたくないわたしは、沈黙した末に、

「…ゼンは…、いたずら相手、…だと思います」

という、意味の分からない言葉を言った。カノンさんはその言葉にきょとんとしていた。

読んで下さり、ありがとうございました。

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