第34話
カノンさんは迷うことなく、道を進んでいく。しかし、時折、ここって入っても大丈夫なのかな?と心配になるところに入っていった。ゼンも普通にそれについていくので、わたしもそれに続くしかなかったけど…。人気のない場所ばかりだったので、一人で通ることは絶対にしないだろう。少し雰囲気が怖いし。そう考えながら歩いていると、さっき案内してくれた場所とは全く違う場所に出ていた。そこは外で、建物に囲まれている。上を見上げると、四角い青空が見えた。地面には砂利が敷き詰められている。どこだろう、ここ?こんな場所、絶対に一度も通っていない…。しかも、人気が全くなくて、静まり返っている。ゼンもあまり見覚えがない場所なのか、辺りを警戒するように見渡していた。だが、そこでようやくカノンさんが立ち止まった。
「ここら辺でいいかしら。そういえば、ジェシカさんにはまだ説明していなかったわね。実は、あまり多くの人にリオナ様のことを知られてはならないという理由で、彼女は数日ごとに色々な部屋に移動させられているのよ。今日はこちらに移動したみたいだけど…。あまり大勢で行くわけにもいかないから、あなたたちで行ってきてちょうだい。私はここでしばらく待っているから」
そう言うと、カノンさんはゼンに鍵のようなものを渡した。けど、それをどこに使うのか、わたしにはさっぱり分からない。少なくともこの辺りには使えそうな場所らしきものが見当たらない。だが、ゼンは分かっている、というようにうなずいて、「こっちだよ」と手招きした。え、でも…、本当にカノンさんが一緒じゃなくていいのかな?心配になったわたしはカノンさんを見たが、彼女はただ微笑するだけだった。わたしは、ゼンの方へ向かうことにした。砂利の音を聞きながらそちらへ向かうと、彼は扉の前で立っていた。何の変哲もない、扉。その鍵穴に、ゼンはカノンさんから受け取った鍵を挿そうとしていた。
「ちょっと待って。これでリオナ様のところに行けるの!?この向こうにいらっしゃるってこと?」
「ううん。そうじゃなくて、この鍵を使って扉を開けると、リオナ様のところに行ける。そういう仕組み」
そう訂正して、今度こそ鍵を挿し込んだ。そして、それをゆっくりと回す。カチャリと音が鳴った。でも、それは、ここではない…、どこか遠くから聞こえたような、そんな気がした。ゼンは鍵を引き抜き、扉を開けた。先にどうぞ、と手ぶりで示してくれたので、先に入らせてもらうことにする。だが、内心疑問に思っていた。なぜなら、その先に広がっているのは、普通の廊下で…。誰かがいるような気配が全くない。でも、わたしが一歩、平坦な床に一歩足を踏み入れたその瞬間。一瞬、世界がぐにゃりと歪んで……。
次に現れたのは、豪奢で…、でも、その豪華絢爛な部屋とはまるで正反対の、重苦しい雰囲気に包まれた部屋が現れた。
その奥には、お姫様が使うような、天蓋つきのベッド。そこに、一人の可愛らしい女の子が寝ていた。わたしの後から、ゼンもその部屋にやってくる。部屋には、わたしたち以外は誰もおらず、静まり返っていた。…というか、ここ、歩いていいのかな?異常に床がふわふわすぎて、まるで雲の上にいるみたい。何か…、歩いていいのかすごい不安。しかし、ゼンは普通にすたすたと歩いて、少女に近寄った。なので、慌ててわたしもそれを追った。やっぱり、驚くほどふわふわしている。転びそう…。だが、何とかベッドまで近付けた。少女…、リオナ様は、本当に同じ人なのかと疑ってしまうほど綺麗で…、儚げだった。ふわふわとした月夜の空のような黒髪。髪とは対照的な、透けてしまいそうな白い肌…。
「…、リオナ様は、ずっとこの状態が続いているみたいで、取りあえず今はこんな状況にさせている魔法仕掛けを探しているところ。…でも、見つからない。そのせいで…、助けることもできない…」
「そもそも、この近くにあるとは限らないよ。確かあの魔法仕掛け、近くになくても効果を発揮するはずだよ。だから、術者が持っていたって、おかしくないんじゃない?」
だが、何故かその言葉にゼンはぽかんとした。…??何かわたし、おかしいこと言ったっけ?魔法仕掛けの話をしただけなのに…。そんなに驚くこと、ある?だが、次の瞬間、ゼンが言った。
「ジェシカ!それ、先に言って欲しかったんだけど?!捜索してもあまり意味のないようなところを調べちゃったんだけど…。それ、早く教えてほしかったな…」
「先に言って欲しいも何も、わたし、今日ここに来たばかりなんだけど?そんな文句を言われても…」
でも、他にも色々と調べたことがあるし、それを渡しておこうかな?そう思ったわたしは、かばんを開いた。…そこで、思い出す。そういえば、ゼンにお守りを返さないといけないんだった…。わたしは、お守りと調べたことをまとめた紙、両方を取り出し、ゼンに渡した。
「ごめん、そのお守りを中庭で拾ったんだけど…、返しそびれちゃって。良かった、返せて。紙の方は、魔法仕掛けに関する諸々のことが書かれているから、参考になれば」
「あー…、うん、ありがとう。でも、これ、別にそこまで大事じゃないし、何だったら捨てても良かったんだよ?」
そう言って、ゼンはお守りを見つめた。どこか、複雑そうな表情で…。けど、わたしはその言葉に納得がいかなかった。あれだけずっと大事そうに持っていたのに…、大事じゃない、ってどういうこと?でも、それを聞けるような雰囲気ではなかった。ゼンは少しの間、それを見ていたが、やがて視線を外した。そして、リオナ様の方を見て何かを言おうとした……、その時。
「…おや、先客がいましたか。ですが、あなたは一体……?」
そんな声が聞こえた。見ると、いつの間にか近くに人が立っていた。…この人、いつからここに…?全く気配を感じなかった。それに、まとっている雰囲気が少し怖い。すると、ゼンはわたしの一歩前に出て、彼に恭しく一礼した。…えーと、これはわたしもやった方がいいのかな?取りあえず、同じような感じでわたしもお辞儀した。…合ってるのか、自信が全くない。
「初めまして。祭祀家のゼンと申します。リオナ様のご回復を祈って、祈願させて頂きました。ちょうど終わったところですので、そろそろ退出しようかと思っていたところでした」
…??祈願、してたかな?してないと思うんだけど…。でも、そう指摘してはならないような気がして、わたしは黙っていた。それと同時に、わたしは今更気付いた。ゼンが…、魔法を使っていることに。魔法で、わたしの姿を入ってきた人から隠している。…じゃあ、お辞儀したの、あまり意味がなかったのかな?でも、一体どうして…。疑問が多いが、わたしの存在がばれてはいけないのなら、わたしは黙っていなければならない。
「なるほど。さようで…。リオナ様は、ずっと悪い夢を見られている、ということですが……。お可哀想に…。どうか、悪い夢ではなく、楽しい夢を見続けられるよう、私も祈ることにいたしましょう…」
そう言ってリオナ様を見た。痛ましそうに…。でも、何か、その言葉に違和感を覚える。少し考えて、気付いた。この人は、リオナ様が目覚めないことを、願っている…。楽しい夢ならば、覚めることはないだろう。そんな意味がその言葉に隠されている。それに気付いたと同時に、すっと心の中が冷めていくような、そんな気がした。ゼンも何も言わないし、表情も変えなかったが、内心苛ついているようだった。
「それでは、失礼させて頂きます」
ゼンはさっさと会話を切り上げ、わたしにしか分からないように合図をする。ついてきて、ということだろう。わたしは、音を立てないようにそっと立ち上がったが、とても気分が重苦しかった。
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