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煌めきの森 魔法の花  作者: 立花柚月
3章 皇国の魔法使い
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第26話

それから数か月ほどが経ったある日。その頃には既に、壊れてしまった建物もかなり修復が進んでいて、壊れた壁やガラスの隙間から虫が入ってきたり、天気が悪い日に風や雨水が吹きこんできたり…、ということはかなり少なくなっていた。まあ、それまでが非常に大変だったんだけど。雨のせいで紙類が濡れたり、風でプリントが吹き飛ばされたり…、ということがしょっちゅう起こっていた…。そんな事態も徐々に収まってきていたある日、わたしは、ニーナに頼まれて魔法の花を取りに行っていた。何やら、実験をするのだと意気込んでいたけど…、一体何をするつもりなんだろう?非常に疑問に思ったけど、ニーナはやってからのお楽しみ、とその内容を教えてくれなかった。…まあ、実験に失敗して部屋がめちゃくちゃになる…、なんてことにならなければ何でもいいんだけど。そんなことを考えながら歩いていると、中庭にゼンの姿を見つけた。…そういえば、わたしが脅かしたせいで魔法の本探しに行くことになったのってこの場所から始まったんだっけな…。ちょっと懐かしい。今となってはいい思い出…、かもしれない。そんな場所でゼンは一体何をしているんだろう?と気になったので中庭に出てみると、ゼンは何か紙を持っていた。それは何枚も重なっており、その一番下に封筒のようなものが見える。…もしかして、手紙かな?…けど、それにしてはゼンの表情がいつになく険しいような気がする。しかもあまり嬉しそうじゃないし。そもそも、ゼンに手紙が来たところを初めて見たような気がする。誰からだろう?と少し気になった。無理矢理見るようなことはしないけど…。しかし、ゼンはわたしが近付いても全く気付かない。…あの本の事件の後、わたしに驚かされないように、ってすごく警戒するようになったのに。なので、わたしはゼンが手紙を全て読み終わったくらいのタイミングで声をかけてみることにした。

「ゼン、おはよう!…何か、こうして話すの久しぶりかも?元気にしてた?」

「…?あ、ジェシカ。久しぶり。…この手紙を読むまではそこそこ元気だったけど、今はすごく気が重い」

ゼンは少し面倒そうな表情を浮かべている。非常に珍しい。それに、やっぱりゼンはわたしが結構前からここにいたことに気付いていないみたい。…何だか、ゼンらしくない。わたしはそのことがかなり心配になった。というか、ゼンをこれほどの状態にした手紙ってどんな内容なんだろう?と少し気になった。さすがに人の手紙だからそこまで詮索するわけにはいかないけど…、大丈夫かな。けれど、ゼンはすぐにその表情を消した。

「ああ、そうだ。伝えておきたいことがあったんだ。しばらく、協会を離れることになるかもしれない。いつになったら戻れるのかも分からないけど、たぶん帰ってくると思う。もしも誰かに聞かれたらそう答えておいて。じゃあね」

自分の言いたいことだけ言ってさっさと行ってしまった。…本当に、どうしたんだろう。いつも通りに見えたけど、絶対に普段のゼンではない。いつものゼンならば、そもそもわたしがいたことに気付いていたはずだし、多少話はするはずなのに…。でも、雰囲気的に聞けなさそうだと思って、引き留められなかった。何も聞かないで、と拒絶されているような感じがしたから…。わたしは少しの間そこで固まっていたが、ニーナに花を届けなければならないことを思い出し、そこを離れることにした。早くしないと怒られる。…と、そこでわたしはあるものが落ちていることに気付いた。それは、一見花のように見える、何か。でも、それが花ではないことをわたしは知っていた。なぜならそれは、ゼンがいつもお守りのように持っている物だから。わたしはそれを拾い上げた。本当ならば、今届けた方がいいのだろう。でも、いつもと違う状態だったから、そっとしておいた方がいいかな、と判断し、今日は取りあえず行かないでおこう、と判断した。その代わり、今度会ったときに絶対に返さないと…。


その後、わたしが部屋に戻ると、ニーナは不思議そうな表情でわたしに尋ねた。

「ジェシカ、ありがとうございます。これくらいあれば余裕で足りますね。…でも、少し時間がかかりました?もしかして、途中で知り合いの方にでも会いました?」

ニーナの鋭さにわたしは驚いたが、事実なのでうなずいた。ゼンに会ったことを伝えるとニーナは、

「ああ、それはご苦労様です。周りに誰もいなかったことを願っておきますね。…まあ、もし誰かがいたら絶対にジェシカはまだ戻ってきていなかったでしょうけど…」

…そういえば、忘れてた。ゼンの様子があまりにも気になっていたからだと思う。わたしは魔法の花をニーナに渡しながら、先ほどのゼンの様子を思い返した。…本当に、どうしたんだろう。しかも、しばらく離れることになるって…、どうして?詮索するべきではないのは分かっているけど、非常に気になっている。すると、ニーナはわたしから受け取った魔法の花を一つに束ねながら、彼女の勘の鋭さが際立つ質問をしてきた。

「普段はゼンさんと会うたびに、周りに人がいたらどうしよう、とか言っているジェシカがそれを考えなかったなんて珍しいですね。もしかして、ゼンさんとの間で何かありました?」

「うーん。何かがあったわけじゃないんだけど。ゼンが深刻そうな表情で手紙か何かを見ていたから少し心配になって…。普通、手紙ってもらったら嬉しいはずなのに、どうしたのかな、って…」

その言葉にニーナは何かを思い出したらしい。くるくると花の茎を紐で結んだ後、近付いて、というように手招きをした。そこでわたしが近くによると、ニーナはこそこそとわたしの耳元で彼女の知っている情報を教えてくれた。

「その手紙、もしかしたら私、知っているかもしれないです。私が実験を始めると宣言する少し前、用事があって協会長さんのところへ行ったのですが…、その時についでにゼンに手紙を届けてくれないか、と頼まれました」

ここに手紙が来るのは珍しいので、ニーナはつい気になってその差出人を見てみたのだという。…そこに書いてあったのは、皇国の言葉。ニーナは前に皇国にいた時期もあったらしく、少しだけならその文字を読めるのだという。そして、そこには彼女も読めるような文字が並んでいたそうだ。

「そこには、ゼンさんと同じ苗字の方の名前がありました。恐らく、ご家族や親戚の方だと思います」

ゼンの、家族…。更に手紙の謎が深まってしまった。普通、家族からの手紙って届いたら嬉しいと思うけど。それなのに喜ばなかったのは、一体…?…いや、もしも喜べないものだったとしたら…。例えば、その内容が嫌だったら…?それだったら、ゼンがさっき言っていた、気が重い、という言葉にも納得がいく。…そんなことを考えたところでわたしは我に返った。何を考えているんだろう、わたし。こんな風に色々と想像されたら絶対に迷惑だろうな、と…。なので、取りあえずわたしはゼンの手紙に関する謎については頭の中から追いやることにして、ニーナの謎の実験を手伝うことにした。そのせいでわたしは、さっき拾ったゼンの大切にしている物の存在さえも忘れてしまい、それに気付くのがゼンが皇国に戻ってしまった後になることを知らなかった。そして、それが原因で、色々と面倒な事態に巻き込まれることさえも…。

読んで下さり、ありがとうございました。

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