第23話
強い光が波が引くように、徐々に収まっていく。その瞬間、目の前に薄い膜のようなものが現れた。それは透明で、だけどゆらゆらと波紋のようなものができているせいでその先はよく見えない。いつの間にか、周りは真っ白な空間になっていた。ただただ真っ白なだけで、何もない…。そんな場所。さっきまでは真っ暗だったから少し戸惑う。けど、これはこれで長くいたら気が狂いそうだな…。どこまでもどこまでも、白しか視界に入らないんだもん。白い色ばかり見ていたら本当におかしくなりそうなので、わたしは目の前の膜に目を戻した。相変わらず、ゆらゆらと揺れている。それは、止まることは決してない。…けど、その先に何かが見えるような気がする。何なのかはよく分からないけど、明らかに白ではない色。ということは、この場所を写し取っているわけじゃないと思う。もしかして、この先が元の世界に繋がっているとか…?
「うーん…。でも、何があるのかさっぱり分からないな…。何かがもう少しで見えそうなんだけど、表面が揺らめいているせいでその先が全然見えない…」
わたしは謎の膜にそっと近付いた。そして、そーっとそれに触れてみた。もしかしたら、普通に戻れるのかと思ったのだ。けど、そういうわけにもいかないみたいで、手に確かな感触がある。まるで、壁のように硬い。どうやら、壊すことはできなさそう。男の子も足で表面を容赦なく蹴っていたが、やっぱり無理そうだ。もしかして、これを壊さないといけないってこと…?やっぱり、魔法を使うべきかな。そう思ったわたしは、魔法で炎の矢を作って思いっきり表面にぶつけてみた。…が、上手くいかない。なので、続けて炎の矢を投げてみたのだが、全然効果がない。代わりに男の子がぎょっとしたような表情でわたしを見た。…驚かせてごめん。でも、その上で提案された。
「矢がダメなら、剣とかは?その方が膜を真っ二つに割れそうだし…」
剣…。わたしは、頭の中で木刀をイメージして、それを実際に出現させた。意外と使うのが難しい魔法で、今までほとんど使ったことがなかったのだが…。取りあえず、成功して良かった。すると、その木刀を見て男の子がそわそわし始めたのでそれを渡す。男の子は勢いよくそれを膜に振り下ろした。だが、刀はあっさりと弾かれてどこかに飛んで行ってしまった。…物理攻撃も魔法攻撃もダメって…、これ、手の打ちようがない気がするんだけど!それか、もっと強い力を使う必要があるのかな…?
「これを壊せるほど強い力を使うためにはどうすれば……?」
思わずわたしがそうつぶやくと、男の子がそれに反応した。
「それなら、他の人と協力とかすれば?あ、昨日、お前と一緒にいた奴とか!あいつ強そうだったし」
確かに、ゼンがいればめちゃめちゃ強いだろうけど…。問題は、どうやってゼンにこっちの様子を知らせて協力してもらうか、だよね…。ゼンに気付いてもらうためにはどうすればいいんだろう…?と、そこで膜の方を見たわたしは気付いた。もしも、この膜が元の世界に繋がっているとしたら…。繋がっている先は、本がある場所。つまり、ゼンのところ!要するに、この膜に何かすれば、ゼンに気付いてもらえるかもしれない。恐らく、向こうにはこんな膜なんてできていないだろうけど、きっとゼンなら気付いてくれるはず!本当にそうなのかは分からないけど、試してみる価値はあると思う。わたしはもう一回、木刀を取り出した。それを男の子に手渡し、わたしは炎の矢を手に取った。
「ね、二人で思いっきりこの膜に攻撃してみようよ!そしたら、向こう側にいる人が気付くかもしれないよ」
男の子は半信半疑、というような表情をしていたが、結局うなずいてくれた。何もやらないよりはやった方がいい。そう思ったのかもしれない。わたしと男の子は、それぞれが持っている武器で膜を攻撃し始めた。
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「後はよろしく、って言われても、どうすればいいのか全くいい案が出てこないんだけど?本当にジェシカってそういうところが適当だよね…。そもそも、何であんなにこっちを信頼してくるかな?別に信頼されることは悪いわけじゃないけど…」
一人そこに残されていたゼンは本を前にそうつぶやいた。しかし、それに対する答えが返ってくることはない。あまりにもその部屋が静かで、そのことにゼンは驚いていた。
「普段のジェシカがあまりにもうるさいからかな?こんなに静かなのがすごく違和感。前まではそれが当たり前だったのにな…。…って、そんなことはどうでもよくて、取りあえず本をどうにかしないと…」
ゼンは本の表紙を突っついてみたが、何も起こらない。まあ、これでどうにかなっていたら問題にはなっていなかったのだが…。本を凍らせてみることも一回考えたが、中にいる人にどのような影響が及ぶのか分からないので、それは止めておく。もし中にいるジェシカが氷漬けにでもなったら大変だ。だが、それ以外に特に方法を思いつかず、ゼンは困り果てていた。ジェシカに連絡しようにも、それができない。非常に面倒だ。それさえできれば作戦を立てることができるはずなのだが…。協会に相談してみることも考えたが、誰が出たにしても怒られることは確実だし、そもそも向こうはこちらに対応している場合ではないだろう。要するに、今のゼンは八方塞がりの状態だ。どうやって今の状況を突破すればよいのか、ゼンが本の表紙をいじりながら考えていると、不意に何か違和感を感じた。最初は、それが何なのか全く分からなかった。だが、それは次第に強くなっていく。ゼンは手に持っている魔法の本を見遣った。特に先ほどと変わったことはない。それなのに…、何か魔法の気配を感じる。それは、本が持っている独特のものではなく、でも、ゼンが知っている人のものだ。それが誰なのか、すぐにわかる。
「ジェシカ…!?…どういうことだろう?本の中から何かしようとしている、ってところかな。でも、それがこっちにまで伝わってくることって…、あり得る?」
思わず本を開けたくなったが、そうしたらゼンまでこの中に入ることになってしまう。なので、開けない。だが、その気配は強くなったり、弱くなったりを繰り返している。恐らく、ジェシカが本の中から出るために何かをしているということで間違いないだろう。ゼンは少し考えた。たぶん、ジェシカの力は不足している。つまり、誰か補う人物が必要だ。そしてこの場合、それは必然的にゼンになる。ただ、どこまでその力を加えればよいのか、そもそも力を使って大丈夫なのか、という不安があった。しかし、これくらいしか方法はないし、ゼンは特にほかの方法を思いついているわけではない。ゼンはため息をついた。
「本っ当にジェシカってこっちを振り回す天才だと思う…。別に面倒なだけで嫌じゃないけど…。戻ってきたら怒ろう。絶対にそうしよう」
ゼンは一人そうつぶやき、魔法の花を本に向かってかざした。そして、ジェシカが力を注いでいる場所に彼の力がいくよう調整する。そして、一気に力を込めた。夜が近づき薄暗くなってきた部屋に、水色の光が弾けた。
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