第22話
どこまでも暗い世界に落ちていく。どこを見ても全く光らしきものが見当たらない。どこか底なのか、そもそも周りがどんな感じなのか、全く状況が分からない。なので、取りあえずわたしは花を使って火を出した。カンテラがあったら便利なんだけど、残念ながら持っていないので諦める。そして、火を辺りにかざしてみた。だが、意外とこの中は広いらしく、すぐそこまでしかその様子は分からない。まるで、光が闇に吸い込まれているよう…。ちょっと怖い。でも、少しするとようやくわたしの足が地についた。かなり落ちたような気がしたのに、その衝撃がほとんどなかったことに驚いた。…えーと、この後、どうしようかな?たぶん、わたしがここに来たことであの男の子はここから出られたはずだけど…。他には誰もいないのかな?念のため、きょろきょろしながら辺りを捜索することにした。…と、どこかから何かが聞こえた。だが、暗いせいでどこにいるのか分からない。しかも、その声が反響しているせいで方向さえも分からないし…。一体どこにいるんだろう?気になったので、取りあえず、声をかけてみることにした。
「おーい、誰かいる?いたら返事してくれない?それか、この明かりが見えているならこっちに来て!」
すると、どこかからぱたぱた、誰かが近付いてくる音がした。その時わたしはふと思った。もし、今近付いてきているのが敵だったらどうしよう?でも、呼んじゃった後だし…。まあ、取りあえずその時は話し合いから始められれば何とかなる…かな?ちょっと自信がない。それに、どこから来てるのか全く見当がつかない。
「…って、どこかで聞き覚えのある声だと思ったらジェシカか。何でここにいるんだ?」
そこにいたのは、あの男の子。…あれ、おかしいな。わたしがこっちに入ったから代わりに出られると思ったんだけど。…誤作動?そもそも、本に誤作動って存在するのかな?うーん…、まあいいか。一人でいるよりは多少気が紛れるはずだし。わたしは深く考えないことにした。
「それに、また炎出してるし。どうやってんだ、一体。まあ、暗いよりはましだ…けど……」
何故か、男の子はその途中でわたしをまじまじと見た。…?どうしたんだろう?しかし、しばらくすると、男の子は何かを考え始めた。そして、怪訝そうにわたしに尋ねてきた。
「今、一瞬だけど、お前の目が赤っぽく見えた。…炎のせいだと思うけど。でも、それにしてはすごく綺麗で…。分かりやすく例えるなら、夕焼けみたいだった」
その言葉、久しぶりに言われた気がする。たぶん、あの魔法試合の時以来。結局あの後はどうにもならなかったから徐々にその話題は薄れていったけど。ここにきて再び…。しかも、今回は魔法使いではない男の子に言われてしまったし。ということは、やっぱり瞳の色のこと、本当なのかな。けど、この話をしているわけにもいかないので、ごまかすことにした。後でここから出たらゼンに報告しよう。それで、どういうことかを協会に帰ってから調べ直せばいいよね。うん、そうしよう。
「たぶん気のせいだよ。そんなことより、取りあえずここから出る方法を探さない?あなたのお母さんに心配されるだろうし、遅くなると怒られちゃうんじゃない?」
そう言うと、男の子は素直にうなずいた。どうやら、この状況ではこの炎について、追及したりからかったりする余裕はないみたい。まあ、わたしにとっては非常にありがたいんだけどね。そう思いつつ、取りあえず辺りを歩いてみることにした。何か出る方法が見つかることを祈りながら。けど、黙っているままでも気まずいので、適当に話をすることにした。
「あなたは、ここに来てからどうしてたの?ずっと同じ場所にいた?それとも、探検とかしていたの?」
「はあ?まさか、そんなことできるわけがない。真っ暗なところを無闇に歩くなんて危なすぎるだろ。そんな状況でも歩くのは、よっぽど馬鹿な奴か好奇心が異常なほど旺盛な奴なんじゃないか?」
…確かに。わたしは炎を出せるからまあ中に入っても大丈夫かな、って思ったけど、マッチとかがない限り、普通の人にそれはできないよね。男の子の言う通りだ。わたしも、もし炎を出せなかったらここに入ろうって発想には至らなかっただろう。そこで気付いた。やみくもに歩き続けても元の場所に戻れなさそうでちょっと怖いかもしれない。…今更だけど。
「ここって、他にも人とかいるのかな?いたらここから出るための方法を教えてほしんだけど…」
「どうだか。少なくとも、お前が来る前まで、話し声は全く聞こえてなかった。今も聞こえないが。そもそも、本当にここ、何なんだ。真っ暗すぎるし誰もいないし、意味不明だ」
男の子はぶつぶつと文句を言った。そして、疲れたらしく一旦そこで立ち止まった。このやり取りの間に実は結構歩いていたのだ。わたしもかなり疲れていたので、辺りを見つつもそこで立ち止まった。一体、どうすれば出られるんだろう?さすがにわたしの作戦、無謀すぎたかな…。と思って小さくため息をついたその時だった。心の中で、誰かの声が響いた。
『これはからくり。必ずどこかに仕掛けがある。望めば簡単に壊せるはずだ。…ほら、すぐそこにある』
誰の声なのかは分からない。でもそれは懐かしくて…。魔法試合の時にも聞いた声だ。わたしはその声に導かれるように、右の空間に炎をかざした。そこにあるものを見て、目を見開いた。そこにあったのは、不思議な紋様が描かれた、びっくりするほど美しい…、宝石のようなもの。それが、ふわふわと宙に漂っていた。うっすらと魔法の気配を感じる。わたしはそっとそれに近付いてみた。…何か表面に、変な文字が書いてある。何だろう、これ?読めないんだけど。謎の声は、これが仕掛け、みたいなことを言ってたけど本当なのかな?すごく怪しい…。と思っていたら、再び声が聞こえてきた。
『魔法が発動すれば、この中に取り残された者を元の場所へと送還できる』
え、すごくない、それ!?ここに来てあっさりと解決しそうなんだけど。…と思ったら、その言葉には続きがあった。なんと、声は続けてこう言ったのだ。
『ただし、そのためにはこれを壊さなければならない。果たされなければ、永遠にこの暗闇をさまよい続けるだろう』
怖いよ、それ!ただの脅しにしかなってないよね!!反応に非常に困る。それに、さまよい続けるのって嫌なんですけど。と思っていたら、男の子が服の袖を引っ張ってきた。そして不安そうにつぶやいた。
「やっぱり、ここから二度と出られないのかな……」
その顔は非常に泣きそうで、でもそれを必死でこらえていた。それを見たわたしは、やっぱりこの宝石を使うべきだと、確信した。恐らくこのままではここから出ることはできない。それなら、少しでも出られる可能性が高い方にかけてみたい、そう思った。わたしはそっと、宝石に花をかざそうとした。
『本当に良いのか?失敗すれば、ここでずっと過ごすことになる。それでも、行くのか?』
誰かが意地悪い声でそう聞いてきた。その声音は、どこかわたしを試すようでもある。でも、わたしは迷わずうなずいた。成功するか、失敗するか、の問題ではない。必ず、成功させなければならない。そう知っている。だから、わたしは男の子に言った。
「大丈夫、ちゃんと戻れるよ。だから、一緒に行こう。絶対に、元の場所に戻ろう!」
それが、わたしの答えだ。そう言うと、不思議な声はくすりと笑ったようだった。わたしは、今度こそしっかりと、花をかざした。その瞬間、強い光が辺りを覆った。
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