第21話
宿に戻ったわたしたちは早速、遠くにいる人と連絡ができるようになる魔法を使って、協会長さんのところへ連絡した。高貴な人とかは、何か番号を押すだけで話ができるという機械を持っているみたいだけど、かなり高価なので、庶民の間では手紙や伝言をすることが多い。でも、魔法が使える場合はこういうので一瞬で通じるから便利だなー…、と思っていた。…のだが。何故か、協会長さんに全く通じない。この魔法を使うと、目の前に長方形の形をした、相手の顔が映っているスクリーンが現れるのに、全く出てくる気配がない。…ということは、相手がこっちからの連絡に気付いていても全く出られない、ということだ。思わず、ゼンと顔を見合わせる。こんなことは正直初めてだ。昨日の連絡ではちゃんと出てくれていたのに…。一体、何があったんだろう?一旦、ゼンは魔法を使うのを止めた。使いすぎていると、こっちの魔力がかなり消耗されてしまうから…。
「明らかにおかしい…。よっぽどのことが起こらない限り、絶対に出られるって協会長は言ってたのに…」
思わず、というようにゼンがつぶやいた。確かに、おかしい。出られなかったとしても、後でまた連絡し直す、ということぐらいは言えそうなのに。要するに、それだけ大変な何かが協会で起こっているということだ。…と、そこで思い出した。そういえば、協会長さん、わたしたちに本に関することを依頼した時に、本当は自分が行きたかったけど、協会内で色々と問題が起こっている…、って言っていたような気がする。もしかして、それが関わっているのかな…?…でも、それくらい大変な問題って一体何だろう…?そんなことを考えていると、不意にわたしたちの目の前に勝手にスクリーンが現れた。驚いてゼンを見ると、違うというように首を振られた。…ということは、誰かがこっちに連絡をくれたってことかな。…もしかして、協会長さん?だが、その予想は外れた。スクリーンに映ったのは、何故かギルさんだった。
「悪い、協会長は今、協会内の面倒な事案を解決しようとしていて、他の人に構ってる余裕がないんだ。だから、こっちの件は代わりに俺とか他の奴が対応する。……で、どうしたんだ?深刻そうな顔になってるが」
「それなんだけど、魔法の本を見つけたのはいいんだけど、一人また犠牲者が出た…」
わたしがそう言うと、ゼンは持っていたその本をギルさんに見せつけた。ギルさんは画面越しにじっとそれを眺め、「本物だな」とつぶやいた。そして、詳しい状況説明を求められたので、その一部始終を話した。
「それはまた、何とも言えない結果だな…。本来だったら、見つけたらすぐに、中に人が入っているかどうかに関わらずこっちに持って帰ってきてほしかったんだが。…今の状況だと微妙だな」
そう言って、ここからは見えない場所を見る。そっちの方向で何かをしているのかもしれない。ギルさんはため息をついた。どうやら、相当疲れているみたいだ。
「仕方がない。その本はそっちでどうにかしておけ。というか、そうせざるを得ない状況だ。こっちは今、半人前の魔法使いでも何でも、いる奴を全員使って色々とやってる。要するに、そっちに人手を割くことは不可能だ。燃やすなり何なりして、取りあえずどうにかしてくれ。それじゃあ」
最後の言葉と同時に、スクリーンが消失する。…一方的に会話が切れてしまった。それに、大丈夫なのかな?いる人は全員…、ってことだよね?かなりまずい状況なんじゃないかな…。ゼンも何も言わないが、心配そうな表情をしている。
「…仕方ない。取りあえず、こっちでこれを解決するしかないみたいだね。なるべく早く終わらせて、協会の方を手伝えるようにしないと…」
ゼンはそう言いながら、魔法の本の表紙をぽんぽんと叩いた。…しかも、意外とその力が強い。かなり容赦なく叩いてるよね、それ…?本に恨まれそうで怖いな、なんて思ってしまった。…けど、どうすればいいのか分からないのは事実だし、早く終わらせる必要もある。取りあえず、この中に取り込まれてしまった男の子を出す必要があるんだろうけど…。どうすれば、これを開けずに人だけを取り出すことができるんだろう…。
「これに関する情報が少なすぎる…。もう少し何か分かっていれば、どうにかなるんだけど。この中から人を引きずりだす方法、何かないのかな?そういうのに関する本、持ってくれば良かった…」
とゼンが後悔している。それは分かったんだけど…、引きずりだすって言い方がちょっと…。物を取り出すわけじゃないんだし、もうちょっと優しい言葉か丸く包んだ表現を使うべきでは…?時々、ゼンは雑な発言をする。しかも、突然そんな発言をするから、いつまで経っても慣れない。…って、そんなことはどうでもよくて。取りあえず、中にいる人を出さないと…。
「これ、魔法でどうにかできないかな?例えば、この中の様子を魔法で覗いてみるとか…」
わたしは思わずそうつぶやいた。それができたら、すごく便利そうなんだけど…。中の様子が分かるし、中にいる人がどうなっているかも分かりそう。わたしのその言葉に、ゼンは少し考える。そして、魔法の花を一本取り出し、本に近付ける。すると、うっすらと花と本が水色に輝いた。綺麗なその光はやがて丸い球体を生み出した。もしかして、成功??そう思ってゼンを見ると、彼は少し嬉しそう。やっぱり、成功みたい。わたしは、水色の球体をじっと見つめた。たぶん、この後、中の状態を映すはず…!そう思ったのだが…。
「あれ、全然映らない。むしろ、真っ黒になったんだけど…。失敗したかな…?」
ゼンがつぶやいた。実際に、さっきまで水色だった球体が闇のような黒色に変化してしまっている。…でも、本当に失敗なのかな?ゼンが魔法を失敗することなんて、絶対にないと思う。わたしは、じーっと球体を見つめた。そして、確信する。この魔法は、失敗していない。
「ゼン、これ、ちゃんと中を映し出してるよ!ほら、ここにうっすらとだけど、動いている人影が見える!これ、あの男の子じゃないかな?何だか、そんな気がする」
わたしがそう言って球体の左の方を指差すと、ゼンはそっちを見て、納得したようにうなずいた。…でも、こんなに真っ暗の状態って怖くない?大丈夫かな…。明かりがあれば詳しい様子が分かりそうだけど…。
「ねえ、これ、やっぱりわたしが中に入ろうかな?そうすれば男の子は外に出られるし、魔法で中を調査することもできるし!そしたら、この本をどうにかする方法が見つかるかも」
「確かにそうだけど…。でもさ、そしたら帰ってくる時にどうするつもり?今のところ、一人だけの力で帰る方法はないから、どうにもならない。もしジェシカが帰って来なかったら、ギルさんに怒られそうだなあ…」
ギルさんが…、怒る…??何でだろう?心配はしてくれるかもしれないけど、怒ることはなさそう。というか、怒ったところを見たことがないし。
「そもそもそれ、協会長が絶対にやらないよう言ってたことだよね?特にジェシカに対して念押ししてたし…。そのことを忘れたらダメだと思うけど?ということで、その案は却下」
きっぱりとそう言われてしまった。えー、絶対にいい案なのに。わたしだったら暗闇の中でも炎を作ってどうにかできるだろうし。そう思ったわたしは、本を手に取った。そのまま表紙に手をかける。
「ジェシカ!?人の話、聞いてた!?絶対にそれ、やったら危ない。戻って来れなかったら…!」
「大丈夫、たぶん。だって、わたしが戻って来なかったらゼンがどうにかしてくれるよね?なら、戻って来られるよ。…ということで、後はよろしくね」
「あのさ、人に丸投げするの止めてくれない?!考えさせられるこっちの身にもなってほしい!あと、変に信頼されても困るから!」
そう言ってゼンはわたしから本を取り返そうとした。慌てて避けて、わたしは勢いよく本を開いた。
その瞬間、まるで光の全くない夜のような闇がわたしの視界に広がった。
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