第19話
「…それで、さっきの人って一体…?知り合いっぽかったけど…」
ゼンが買ってきてくれた飲み物を飲んでようやく涼しくなったな、と思っていると、ゼンがそう尋ねてきた。急にどうしたんだろう??とわたしは首をかしげたが、何故かゼンは真剣そうな表情をしている。さっきの人…、って、バケツを手にわざわざわたしに話しかけてきた人、だよね?
「うん、ただの知り合い。…うーん、知り合い以下?わたしの近所に住んでいた人なんだけど。でも、大した話はしたことないよ?向こうが勝手に、わたしのことをからかっていただけで。…火の気がないところから炎を出して、気味が悪い、ってね。それだけだよ」
あの頃はいちいち気にしていたけど、今はあまり気になっていない。この力を使いこなせるようになった、っていうのと、不思議な力を持っている人がわたし以外にもいるということが分かったからかもしれない。たぶん、今のわたしなら何を言われても力を暴走させることはないと思う。…たぶん、問題はゼンの方。さっき、さりげなくバケツの水が凍ってたし。それは、わたしがけなされていたからだと思う。そのこと自体はいいんだけど、また何かあった時に周りのものを全部凍らせそうで怖いな…。そうわたしが考えていると、その不安が的中しかねないことをゼンがつぶやいた。
「今からさっきの人の後を追いかけて捕まえておいて、その後で魔法仕掛けの本に閉じ込めようかな?」
…!?何でそうなった!?というか、報復措置が怖すぎる…!さすがにそれをしたら大変なことになるし、回収する側の人間がそれを悪用したらダメだと思うんだけど!?そもそも本自体、見つけてないし!なので、その後わたしは、そこまで傷ついてないし、向こうだって遊んでいるだけなんだから気にしないで、とゼンに繰り返し説得する羽目になったのだった…。しかも、ゼンがなかなか納得してくれなかったから非常に大変だった…。別に、何かされたわけじゃないから本当に大丈夫なのに。…けど、ゼンは何故か心配そうで、どこか悲しそうでもあって…。それを見て思った。もしかしたら、ゼンも皇国にいた頃、わたしみたいに魔法の力に関して色々と言われたことがあったのかもしれない、と…。しかも、皇国では「神様のお告げ」というものや、独自の儀式や術などが信仰されていると聞いたことがある。その代わり、他国で使われている特別な力のようなものや神様を毛嫌いしている、とも…。もしかしたら、その影響もあったのかも。ゼンは何も言わないからこちらも聞いていない。だから、本当のことは分からない。…でも、その力を嫌いにはならないでほしい、と思ってしまう。そう願ってしまうのは、勝手なことなのかもしれない。それでも…、わたしはその時、確かにそう思った。
「ジェシカ、そろそろ移動しよう。ぼーっとしてたらあっという間に夜になるだろうしね。その前に本探しと宿探しをしないと…」
「はいはい、分かってますって。でも、わたしたち未成年だよ?宿に行っても相手してもらえるかな…。そこがすごく心配なんだけど、大丈夫かな?」
「あー…、そっちの意味じゃなくて…。宿自体は協会長が既に手配してくれているから大丈夫なんだけど、問題はそれがどこにあるのか全く分からないってことなんだよね。ここに来るのは初めてだし」
…それ、結構まずいのでは?だって、もし見つけられなかったら野宿決定だよね!わたし、野宿したことないからそういうスキルは全くないんだけど!そう思ったわたしは慌てて立ち上がった。そして、空っぽになった飲み物の容器を近くのゴミ箱に捨ててゼンを急かした。
「ゼン、早く行こう!夜になる前に早くその宿を見つけないと!人に聞くとしても、夜になったら皆中に入っちゃうだろうし…。早く早く!」
急に慌て始めたわたしにゼンは何故か楽しそうに笑う。さっきのちょっと寂しそうな表情はすっかり跡形もなく消えていたので、わたしは少し安心した。そして、わたしたち二人はさっきと同じようにたくさんの人が歩いている道へと出た。…というか、さっきよりも人が多いかも?さすが、城下町だな…、と思ってしまった。すると、さっきのようにゼンが再び手を繋いできた。二回目…。一回ならまだしも、二回も手を繋いだ、なんてことが協会の女の子たちにばれたら絶対に大変なことになりそうだな…、なんて、どうでもいいことを考える。もしばれたら、視線が更に痛くなりそう…。やっぱり、絶対にこのことを言わないようにしないと…!わたしはあえて色々と違うことを考えた。というのも、適当にそういうことを考えておかないと、非常にゼンの方を気にしてしまいそうで…。向こうは全くと言っていいほど気にしてない様子なので、こっちも気にしない方がいいんだろうけど…、気になるものは気になる。しかも、周りに人が多いから、見られるんだよね…。自意識過剰かもしれないけど、全く視線がなかったとは言えないと思う。けど、取りあえずわたしたちは本探しと宿探しを同時に行いつつ、大きな通りを歩いた。時々、屋台で売っている食べ物とか、演芸会を見ながら進む。演芸をしている人は何人かいてどれも面白かったけど、特に手品や紙芝居などはゼンも面白がっていた。普段はすごく大人っぽい感じなのに、この時だけは無邪気な様子で、非常に楽しそうに見入っていた。何だか可愛いかもしれない。というか、ゼンがこんなに子どもっぽいところを見せるのって初めてかも?そんなことを思って公演中にちょこちょこゼンの方を見ていたのだが、どうやらそれに気付いていたらしい。終わった後で、不思議そうに聞かれた。
「さっき時々こっちを見てたけど、どうかした?」
「え、あー…、何というか、ゼンっていつも落ち着いた感じだから、あんなにはしゃいでいるのって珍しくて何か可愛いなー、って思って!まあ、要するに、大したことじゃなかったよ」
けど、ゼンはわたしの言った「可愛い」という言葉が気に入らなかったらしい。文句を言われてしまった。
「別に、可愛いって言われても全然、これっぽちも嬉しくないから。よし、これ以上ジェシカに『可愛い』って言われないように気をつけないと」
謎の目標を掲げていた。別に、さっきの無邪気な感じのゼンもいいと思うんだけどな?意外な一面、みたいな感じで…。たぶん、ゼンを慕っている女の子なら全く気にしなさそう。むしろ、珍しいところを見た!って喜ぶ気がする。…というか、これも女の子が知ったらまた大変なことになりそう。その時の様子を見たかった!みたいな感じで。…あれ、色々と、視線で攻撃されそうな要素が増えてきている気がするんだけど、気のせい…かな?考えると少し…、いや、かなり怖かったのでわたしはそれ以上考えないことにした。そして、宿と本探しを再開する。時々、そういうところで遊んでいたせいでかなり時間が経ってしまった。もう夕方だ。そろそろこの通りにいる人は家に帰る時間だろう。ということで、宿探しを中心に、わたしたちは歩いた。少し人が少なくなったので、もう手は繋いでいない。安心したような、何故かちょっと寂しいような…?不思議な感覚に襲われたその時だった。
「ジェシカ!見つけた、一つ向こうの角のところ、見てみて」
ゼンがちょっと嬉しそうにそう言った。そこには確かに、宿があり、名前も書いてあった。それは、ゼンが持っていた紙に書かれているのと、同じ名前。
「夜になると危ないだろうし、疲れたよね?今日は取りあえず、本探しは終了しよう」
わたしはその言葉にうなずいた。実際、暑さのせいですごく疲れた。どうやらゼンはそれを考慮してくれたらしい。何も言ってないのに…。まあ、そういうところが女の子たちにも人気なんだろうな…。そう思うと、ちょこっと胸が痛んだような、そんな気がした。
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