第17話
久しぶりの外は、何だか新鮮だ。わたしとゼンは取りあえず森を抜けて、水上車でヴェリエ国の中心部に向かうことになっていた。なので、その駅に行くために歩いている。でも、森の外ってすごく違和感がある…。ゼンも同じことを思ったのか辺りをきょろきょろしている。…けど、会話がなくて非常に気まずい。お互い、無言のまま歩いている。しかも、水上車の駅がある町まではずっと森が続いているせいで、周りに人がいないし、お店もない。つまり、気を紛らわせることができない…!本当に何だろう、この気まずさ…。どうすれば解消するのか分からない。何か話そうにも、全く会話が続かなさそうな言葉しか頭の中に出てこない。「快晴だね」とか、それくらいしか…。こういう時に限って、何故か言葉が出てこない。うーん、話題話題…。と考えていたら、今まで何も言っていなかったゼンが、
「そろそろ町に出ると思う。迷わなくて良かった。まあ、いざとなれば協会の方に連絡を取ってもいいけど」
と言った。確かに、近くに森の出口がある。ということは、本当に外に出るんだな…。一応、ここも協会の外だけど、見慣れた森が広がっているだけで外に出ているような気分ではなかったのだ。
「そうだね。…あ、そういえば、ゼンは何年ぶりに外に出るの?少なくとも、わたしより前に協会に来てるから、外に出るのはそこそこ久しぶりだよね?」
ここに来て、ようやく会話が始まった。それまではずっと、森のどこかにいる鳥の声しか聞こえていなかったので、何だか安心する。森の中で静かにしていると、一人ぼっちでいるような気がして怖かったので。
「何年くらいだろう?えーと…、五年くらい…、だったっけ?昔のことだからあまり覚えてないなあ…。その前は南にある皇国にいたんだけど、そこでの記憶もあまりないし。たぶん、そのくらいかな」
五年…!ってことは、そこそこ前だよね?…というか、ゼンの昔話を聞くのは初めてかもしれない。基本、お互いに過去の話はしないから。…でも、皇国ってことは、ここから結構遠い気がする。確か、南の方の島をほとんど領地にしていて、その国を建国したと言われている神様に守られた、そんな国だと聞いたことがある。その神様が本当にいたのかは分からないけど、祭祀を司る家とか、独自の術みたいなものがあるらしい。遠いから実際には行ったことがないからそれも事実か分からないけど。…そういえば、ニーナも西の国から来たって言ってたし、魔法が使える人って世界中にいるんだな…、と改めて実感した。そんなことを考えていると、いつの間にか森の出口に来ていた。と、そこでゼンがわたしを見て非常に真剣な表情をして念押しした。
「ジェシカ、絶対に本を見つけたとしてもその場で開かないでね。それと、たぶん人の量が多いと思うから離れないように。あと……」
「分かったから!そこまで言われたらさすがに理解したから!とにかく気をつければいいんでしょ、気をつければ。それくらいちゃんとできるってば」
そう言ってもゼンはどこか納得していない様子だった。…わたし、何でこんなに信頼がないんだろう?何だったら、この機会に信用してもらえるように大人しくしてようかな?そう思ったけど、本当にそうできるかは、……微妙かな。基本、大人しく待ってられないし。むしろ動いていたい方だもん。…たぶん、ゼンはわたしのそういうところを分かっていて納得していないんだと思う。けど、どうしたらそういう癖を治せるのか分からないので、取りあえずあまり考えないことにした。
その後、無事に水上車の駅にたどり着いたわたしたちは、行先を間違えないよう、「~行き」という看板を確認しながら水上車に乗った。水上車、と言うのは、川などの水の上を走る列車のことで、この辺りではかなり発達しているし、ほとんどの人が交通手段として使っている。要するに、それだけ色々なところに繋がっているということだ。乗り換えれば、遠い異国まで歩くことなく辿り着ける。非常に便利。あと、基本的に止まることがないというのも利点。非常に寒い冬でも、普通に動いている。
「…あ、ゼン、あれってヴェリエ国の王宮だったりするんじゃない?前に資料で見たことがある気がする。すごいね、あんなに大きいんだ!写真で見た時はすごく小さく感じたんだけどなー」
わたしが不意に見えたその建物を指差すと、何かの本を読んでいたゼンは顔を上げ、そちらの方を見た。でも、あまり驚いていない様子。何でだろう、と不思議に思ったらゼンはあっさりと言った。
「確かに広いけど…、皇国の宮廷の方がもっと面積が大きい気がする。一つ一つの部屋が無駄に大きいせいだと思うけど…。祭祀の部屋とか、あと、神々に関する書物の部屋とか…。あんなに広くなくていいと思うんだけどね」
そう言って、再び読書に戻ってしまった。…こんな時でも真面目。たまには本を読むのを止めて、景色でも楽しめばいいのに…。そもそも、何の本を読んでいるんだろう?ちょっと気になったので、聞いてみる。
「それ、何の本?謎の言葉で書いてあるから全く読めないんだけど、皇国の言葉で書いてあるの?」
「そう。皇国から持って来たものだから。内容は、祭祀とその役割について。正直、よく分からない」
ゼンは苦笑しつつ、結局読書を続けていた。…難しそう。わたしだったら、絶対に一行読んだだけで読むのを諦めると思う。それを考えると、ゼンは粘り強いというか、諦めが悪いというか…。取りあえず、すごいと思う。…けど、そこでわたしはあることを不思議に思った。それは、さっきのゼンの言葉。皇国の宮廷の方が広い、って言ってたけど…。妙に確信を含んだ言葉だったような、そんな気がする。「気がする」と最後に言ってたけど、ほぼほぼ断言に近い言葉だった。しかも、中の構造についても知っているみたいだし…。祭祀の部屋とか、実際に行ってみないと分からないものなんじゃないかな?防犯上、中の構造って公にされていないだろうし…。…ということは、ゼンは皇国の宮廷に行ったことがあるのかな。そう思ってわたしはゼンを見たが、彼は本を読むのに集中していて、わたしが見ていることにも気付いていない。そもそも、わたしが知っていいことなのか分からないので、取りあえず放っておくことにした。気になるけど、他人は他人。関係ない人が詮索していいような話じゃないだろう。そう思ったわたしは、それ以上は深く聞かずに、そのまま外を眺め続けていた。
三十分ほどして、ようやく目的の駅にたどり着いた。やっぱり、ヴェリエ国の中心ということもあり、非常に賑わっている。ゼンもその人の多さに戸惑っていたみたいだけど、すぐに慣れたらしくすいすいと駅の構内を進んでいく。しかも、上手い具合に人を避けて通ってるから、めちゃめちゃ早い…っ!あっという間にその姿が遠ざかっていく。一方のわたしはと言うと、全然進めない。人の波がすごすぎる!そのせいで、更にその距離が開いた。…少しは、こっちのことも考えてほしいんだけど?心の中でそうつぶやいていると、その声が通じたのか、わたしがいないことにようやく気付いたのか、ゼンが戻ってきてくれた。しかも、その速度も速いという…。一体、この差は何なんだろう…?すると、ゼンはわたしの腕を引っ張って、他の人とぶつからないように上手い具合に誘導してくれた。そのおかげで、非常に早く進むことができた。いつの間にか、駅の外に出ている。…びっくり。
「ゼン、ありがとう!というか、あの人の間をすり抜ける技術、どこで身に付けたの…?」
「…え、別に何か特訓したわけじゃないけど…。何となく…勘みたいな感じかな?」
そう答えが返ってきた。…絶対、わたしには一生習得できない技だ…。
読んで下さり、ありがとうございました。




