第15話
「今回の件を不問とする代わりに、君たちにとある調査を依頼しようと思いますがよろしいですか?」
「「調査???」」
調査って一体何なんだろう?わたしは首をかしげた。隣でゼンも不思議そうにしている。調査って言われても、何の調査か分からない。だが、協会長さんはそれを詳しく説明する前にちらっと辺りを見た。未だに中庭の周辺にはたくさんの人たちがいる。恐らく協会長さんはあまりその調査に関する話を聞かれたくなかったのだろう。魔法の花を使って、わたしたちを協会長さんの部屋へと転移させた。一瞬で見える景色が変わったことにちょっと驚いていると、協会長さんは部屋の机の引き出しに仕舞ってあったらしい何かの書類を取り出した。それを、何も言わずにわたしたちに手渡してきた。ゼンがそれを受け取ったので、わたしはそれを横から覗き込んだ。そこに書いてあったのは、……子どもが行方不明になる、事件?これってこの森の外の世界の話じゃ…?何でそんなものがここにあるんだろう?すごく不思議すぎるんだけど。でも、取りあえずその内容を読んでみることにした。最近、ヴェリエ国内で子どもが行方不明になる事件が相次いでいる。そして、行方不明になる直前、彼らは決まって何か本らしきものを手にしているのだそう。しかし、不思議なことに、その子どもたちはしばらくすると帰ってきて、入れ替わるように他の子どもの行方が分からなくなる…。そんな、奇妙な事件。…というか、これが調査の内容?これって普通、警察が調査をするものでは?何でこの事件がわざわざ魔法協会に来たんだろう?…すると、協会長さんがわたしたちがその文書を読み終わるタイミングを見計らって話し始めた。
「…君たちは、魔法仕掛けというものを聞いたことや見たことはありませんか?」
その言葉にわたしもゼンも首を振る。魔法仕掛け、とは??罠みたいなものなのかな?でも、イメージが全く湧かない…。けど、ゼンの方は少し考えた後で、思い出したように言った。
「…あ、もしかして、魔法の力が込められた、特別な物品ですか?そのほとんどは魔法協会に収められているけど、稀に外部で見つかることもあるという…。もしかして、これも…!?」
その言葉に協会長さんは重々しくうなずいた。…え、この事件に魔法仕掛けが絡んでる、ってこと?わたしはもしかして、と思ってもう一回その文書を読み返してみた。行方不明になった子どもは、必ずその前に本を持っている……。…本?もしかして、この本が…、その魔法仕掛けの物?だから、魔法協会にこの書類が来た、そう言うことなのかな。わたしがようやくそのことを察すると、協会長さんはため息をついた。
「本当は、自分で行きたかったのですが。残念なことに協会内で色々と問題が発生していて、どうにも行けなさそうなんですよ。なので、君たちに罰のついでにお願いした、というわけです。行ってくれますか?」
その言葉は疑問形で終わったけど、たぶんこれは、行け、という命令だ。そもそも、わたしのせいで木が吹っ飛んじゃったし、協会長さんからの依頼を断れないというのも事実。なのでわたしはすぐにうなずいた。ゼンも少し不服そうな表情をしていたけどうなずいた。…たぶん、わたしのせいで巻き込まれたからだと思う。わたしがゼンを驚かさなければ、こんなことを頼まれなかったかもしれなかったのに。…ごめんなさい…。後で思いっきり氷の魔法で攻撃されそうで怖いな…。ゼンの攻撃は、今でも全く容赦がない。
「そうですか。それなら良かったです。…では、早速ですが、この事件について詳しく話しますね」
協会長さんはそう切り出した。
事件が最初に起こったのは、一か月ほど前のこと。一人目の被害者である男の子は、友達と一緒に公園で遊んでいた時にその本を見つけ、手に取ったそうだ。そして、その中身が気になったらしく、その本を開いてみたらしい。その瞬間、その男の子の姿が忽然と消えてしまった。周りにいた人たちは驚いてその近くに駆け寄ったが、男の子も、本も、見当たらなかった…。しかし、その男の子や本がどこに消えたのか分からないまま五日ほどが経った、ある日。突然その男の子は消える直前にいたその場所に現れた、無事に家族や友達と再会したそう。
けど、これでこの事件はめでたしめでたし……、では終わらなかった。
今度は、別の女の子が消えてしまったのだ。
その女の子は家族と一緒に道を普通に歩いていた。しかし、両親が少し目を離している間に女の子はどこから持って来たのか、両手で本を抱えていたのだという。それをどこで拾ったのか、と両親が彼女に尋ねたところ、女の子は答えたそうだ。
「急にね、私の目の前に現れたの!それで、読んで読んで、って言っているみたいに私の周りをふわふわ飛んでたんだよ!」
そう言って、彼女がその本を開いた、その瞬間。本もろとも、その子の姿が消えてしまったそうだ。両親は一瞬、これは現実ではなく、夢なのかと思ったそうだが、その時の様子は周りにいた他の人にも目撃されていて、それは間違いなく現実だった。しかし、その子も結局、三日くらいしてから無事に戻ってきたのだそう。けれど、その代わり、別の人がまた消えていて…。この一か月、それがずっと繰り返されているらしい。なので、これはさすがにまずい、とヴェリエ国から依頼が来たのだという。一応、国のトップの人たちには魔法協会の存在が知らされているそうで、何かあったら連絡が来る仕組みになっているのだと協会長さんは教えてくれた。今回も、それで依頼が来たのだと言う。
…でも、その本を一体どうすればいいのかな。まさか、人が取り込まれている本を燃やすわけにもいかないし。かと言ってそのままここに持ってきたら、それはそれで大変だろうし…?とわたしが疑問に思っていると、協会長さんは、
「ただ、この本に関してはいつどこに現れるか分かりません。今までにこの本が出現したのは、ほとんどがヴェリエ国の中心部らしいので、そこに行けば見つけることができるかもしれないですが…。見つけた場合は、危険なのでわざと本を開けてその中に入らず、外からの救出を試みてください。…特にジェシカはその点についてしっかり理解しておいてください」
と言った。分かったけど…、どうしてわたしだけ最後に呼ばれたのかが不思議だ。わたし、いつもちゃんと指示に従っているはずなんだけどな?しかし、隣のゼンが一言つぶやく。
「ジェシカって、やっちゃいけないこととかその理由をしっかり把握していても、危機的状況になったらそういうことを余裕でやって、後から人を大混乱させそうだよね」
と…。どういうこと…?取りあえず、ゼンの言っていることが褒め言葉ではない、ってことだけは分かった。しかも、協会長さんがなぜかその言葉に大きくうなずいてるし!二人してひどいと思う。わたしは意味が分からなくて首をかしげたが、結局二人ともその話についてはそれ以上何も言わなかった。本当に何だったんだか…。取りあえず、もし本を見つけたとしても、そこでそれを開けないで対処すればいい、ってことでしょ!それくらい、分かってます!そもそも本の中に吸い込まれる、ってすごく怖いし。絶対に経験したくない。中がどうなっているかも分からないのに…。そんなことを考えていると、最後に協会長さんがわたしたちにこう告げた。
「くれぐれも、細心の注意を払うように。何か困ったことがあれば連絡してもらえれば、他の人員もまわすことができるので、危機的状況に陥ったら絶対に連絡してください」
どうやら、その魔法仕掛けは相当危ないものみたいだ。まさか、ゼンを驚かせたことからこんなことになるなんて…。わたしは、少しそのことを後悔していたのだった。
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