第13話
それからと言うものの、わたしとゼンさんはよく話すようになった。…というか、一方的に向こうからやってくる。何でなのかは全く分からないけど…。でも、そのおかげで最近は敬語なしで話すようになった。しかも、一応未だにわたしはゼンさんに対してさん付けをしているけれど、向こうはため口で普通に話しかけてくる。本当に何でだろう…?話す、と言ってもその内容は、全く他愛のない話が多い。その日に習ったこととか、魔法に関する話とか。楽しいことは楽しいんだけど、一つだけ大きな問題がある。…それは、そのせいで、最近同じクラスのみならず、他のクラスの女の子たちからすごく視線を感じるような…そんな気がする。怖いんだけど。すごく怖いんだけど。でも、それを理由に話すのをやめてほしい、と言えるわけもなく、結局わたしはその日も中庭でゼンさんと話をしていた。ゼンさんは何故か分厚い本を持っていて、わたしが近付くとその本を開き、ぱらぱらとページをめくりながら言った。
「この前の試合の時、ジェシカの瞳の色が変わったような気がした、って言ったよね?それに関してずっと気になっていたからここ最近資料室で調べてたんだけど…、そしたら、面白い本を見つけたんだ」
本当に興味津々というような表情をしている。そんなにそのことが気になってたんだ…。と驚いた。当事者であるわたしはそのことに関しては全く興味がない。別に、支障はないし。何か害がある、って言うなら必死でその理由を探すだろうけど、特にわたしの体には何も異変が起きていない。だから、全く調べていなかった。
「ここのページなんだけど…。ほら、この左上の文章。読んでみて」
わたしはゼンさんからその本を受け取った。一旦表紙を見てみると、そこには六人の魔法使いというタイトルが載っていた。どうやら、この前習った、光華の魔術師とか雫の魔女とか、最初にこの世界を作ったと言われている魔法使いたちに関する本みたい。一人一人の魔法使いたちについて詳しく書いてあるようだ。…けど、どうしてこの本が瞳の色の変化と関係があるんだろう??わたしは内心、非常に不思議に思っていたけれど、取りあえずその本を読んでみることにした。ゼンさんが指差した場所を見るとそこには、光華の魔術師についての説明が載っている。…??その文面を見て首をかしげる。
「光華の魔術師は、普段は藤色の瞳だったが、その瞳が時々紅色に変わっていたことがあった…?それってまるで、わたしと同じような…。ということは、あり得ないことではないってこと?ゼンさん、これ、どこで見つけたの?」
「だから、資料室だって。そこには大量の本があるから、もっと詳しいものもあるんじゃないかな。あ、そうだ、今から行ってみる?まだ開いていると思う。行ってみよう!」
そう言ってゼンさんはぐい、とわたしの手を引っ張った。わたしは突然のことに何の抵抗もできず、引っ張られていく。わたしはそのままゼンさんと資料室へ向かった。
資料室は落ち着いた雰囲気の場所で、かなり明るい場所だ。部屋の灯に加え、窓から日差しが差し込んでいるからだと思う。部屋の中には、わたしたち以外は誰もいなかった。けど、わたしはそのことにほっとした。もし、ここに誰かいたらまた視線で攻撃されそう…。そんなことを考えていると、こっちこっちとゼンさんが手招きした。近付くと、ゼンさんの目の前にある棚は全て六人の最初の魔法使いに関する本が置いてある場所だということに気付いた。こんなにあるんだ…!?と驚いていると、ゼンさんはそのうちの一冊を引っ張りだした。そして、とあるページを示す。そこにも、先ほどの本と同じような内容の文章が書かれている。ということは、やっぱり光華の魔術師は時々、瞳の色が変化していた、ということ…?
「どちらにも同じことは書いてあるんだけど、残念なことにそれ以上のことは何も書いてなかったんだよね…。たぶん、ジェシカを観察していれば分かるんだろうけど…」
そう言ってゼンさんはわたしをじーっと見つめた。…た、確かにずっと見ていれば分かるんだろうけど、何かすごく恥ずかしいからやめてほしい…!!というか、本当にそうなるか分からないし…。大体、ずっとこのままの状態でいるわけにもいかないし!そう思ってわたしは慌てて言った。
「ぜ、ゼンさん、あの、じっくり見られていると、どうすればいいか分からなくなるんだけど…?」
そう言うと、ゼンさんはようやく我に返ったようだった。一瞬、「…」となった後で、
「…あ、それもそうだね。ごめんごめん。つい、気になっちゃって」
と謝られた。悪気がないのは知ってるけど、めちゃめちゃ反応に困る…。その後、しばらくお互い無言になってしまったので、わたしは空気を変えるために、ずっと気になっていた質問をすることにした。
「ねえ、そういえばずっと気になってたんだけど、試合の後とかでどうして色々な人にアドバイスしてるの?別に、頼まれてやってるわけじゃないでしょ?」
「そうだね。でも、客観的に見た方がいい、ってこともあるし。それに、この相手はこういう特徴を持っているって分かってたら、その対策もできそうだし。正に、一石二鳥じゃない?」
なんか、考えてることがすごい!わたしは驚いて「そう、なんだ…」としか言えなかった。わたしには、絶対にできないことだと思う。ゼンさんってやっぱりすごいんだな、と思ってしまった。
「…あ、そうだ、もし良かったら魔法のコントロール方法とか教えようか?得意な魔法の種類は違うけど、こういう資料に載っていたやり方を色々試してたからたぶんそれが役に立つと思うんだ。僕も、最初にここに来た時は魔法を使うたびに周りにある物を全て凍らせてたんだよね…。今となってはいい思い出だけど」
ゼンさんはどこか楽しそうな表情でそう言った。……え、それ本当に大丈夫だったの?絶対にそれ、融かすのが大変だったと思うんだけど。わたしは思わず氷で覆われた部屋を想像してみた。…すごく寒そう。それと、融かした時に床が水浸しになりそうなんだけど…。融かした後はどうなったのかな?しかし、わたしがそれを言う前にゼンさんがいいことを思いついた!というような表情で言った。
「あ、でも、もし同じような状態になったらジェシカのところに行けばいいのかな。そしたら、炎で全部氷を融かしてくれそうだよね。もしそうなったらよろしく」
いや、よろしく、って簡単に言うけど、コントロールを間違えたら氷をなくすどころかその部屋や道具までなくすことになりそう…。どの程度コントロールできるか分からないので、わたしは取りあえず
「その前に、ゼンさんが部屋中を氷でいっぱいにしないように願ってるね」
と言っておいた。その言葉に、何故かゼンさんは面白そうにくすくす笑っていた。そして、資料室の本棚の中から数冊の本を取り出すと、持ってきてくれた。すごく大量…。それらを目の前にあるテーブルに置くと、一冊ずつそれらの本に何が書いてあるか教えてくれた。主に、六人の魔法使いについて書いてある物が多いみたい。…急にどうしたんだろう?と思っていると、その質問に答えるかのようにゼンさんが言った。
「この前ニーナから、君が魔法使いに関するテストでぎりぎり合格の点数を取ったって話を聞いたから、ここに来たついでに説明した方がいいかな、って思って。ニーナにも機会があったら頼む、って言われてたし」
ニーナが!?わたしはびっくりした。というか、何でわたしの点数を知っているんだろう…!?怖いんだけど。それこそ何かそういうのが分かる魔法でも使ったのかな?!ニーナめ……。けど、ゼンさんはそれ以上それについては何も言わず、魔法使いについて色々な説明を始めた。時々、資料には載っていないような逸話も教えてくれてとても面白い。それだけのことなのに、何故か特別なことのように感じるような気がするのは何故だろう?
「…ジェシカ?ちゃんと話、聞いてる?」
ゼンさんが少し怪訝そうにそう聞いてきた。わたしは慌てて、
「聞いてる聞いてる!雫の魔女の話だよね?」
「…やっぱり聞いてなかったね。今、僕がしてるのは月下の魔女の話」
え、いつの間に!?謝ることも忘れて絶句したわたしを見て、ゼンさんは楽しそうに笑っていたのだった。
1章完結です。次回から2章に入っていきます。
読んで下さり、ありがとうございました。




