第12話
気がつくと、そこはどこかの部屋で、わたしはベッドに寝かされていた。確かわたし、試合に出てて、それでゼンさんと試合して…。その後、ほぼ同時にお互いのリボンが無くなって…。そこから記憶が全くない。ということはわたし、そこで倒れた?もしかしたら、力を使いすぎたのかも…。そもそも一回戦目で力を消費しすぎた気がする。そんなことを思いつつ起き上がると、ベッドの隣で何かの本を読んでいた人物が顔を上げた。本を閉じて近くのテーブルに置く。そして、安心したように微笑んだ。…けど、わたしは何でこの人がここにいるのか分からなくて起き上がったところで硬直した。
「えーと、……どうしてゼンさんがここに??試合ってわたしたちの後にも実施されているはずですよね?見なくてもいいんですか?」
わたしがそう尋ねると、ゼンさんはあっさりと、驚くべきことを言った。
「あー…、試合ならもう終わってるから。ちゃんと他の試合を見て、その後でこっちに来たから平気」
え…、そうなの?!わたしは目を丸くした。まさか、もう終わってしまっているとは思っていなかった。わたしが全然信じられない、というような表情をしていたせいかゼンさんがその部屋の掛け時計を指差した。その時計は、夕方の時刻を示している。…本当だ。確かに、これくらいの時間ならとっくに全部の試合が終わっているだろう。そんなに寝てたんだ、わたし…。自分でもびっくり。すると、こんこん、とドアがノックされ、ニーナが入ってきた。そして、起きているわたしを見てほっとしたような表情を浮かべた。彼女はベッドに近付き、わたしが倒れた後の状況を教えてくれた。
「あの後、あなたの近くにいたゼンさんがここにジェシカを運んでくれたんですよ。…あ、ちなみにここは救護室です。それで、試合の間はずっと私がここにいたんですけど、終わった後でゼンさんが代わって下さったので少し休憩していました。…そうだ、治療専門の方を呼んでこないと!ここで待っててくださいね!」
そう言ってニーナは慌ただしく去って行ってしまった。いつも通りの彼女の様子に思わず笑ってしまう。けど、ニーナはすごく慌てていることが多いけど、優しい、ということも事実だ。そう思いつつ、ばたん、と勢いよく閉じられたドアを見ているとゼンさんがわたしに話しかけてきた。
「そういえば、君と試合してみて思ったけど、やっぱり魔法の力が強いよね。圧倒された。…それと、気のせいかもしれないけど、君が魔法を使った時、…一瞬目が深紅に変わったような、そんな気がした」
「…それ、ニーナにも一試合目が終わった後で言われました。今は、そうじゃないですよね?」
その言葉にゼンさんはうなずいた。うーん、一体何なんだろう…?ニーナだけだったら気のせい、って可能性もあるけど、ゼンさんにもそう思われているってことはそうなっていた可能性が高い。けど、瞳の色が変わるなんてこと、あるのかな…?魔法を使ったら変わる、とか?でも、前に水晶から炎を出した時は全くそんなこと言われなかったし…。やっぱり謎だ。今後も同じことがあるようなら、ギルさんにでも相談してみよう。そう思っていると、ニーナが戻ってきた。後ろに別の人がいる。恐らく、治療をしてくれる人だろう。その人は、わたしの脈をとったり、質問したりして、もう行っても大丈夫だと言ってくれた。なので、わたしはその人にお礼を言い、早速その部屋を出ることにした。そして、そこの廊下でゼンさんにもお礼を言った。今までのことも含めて、全部。
「ゼンさん、えっと色々ありがとうございました。今日の試合の後のこともそうだし、わたしが最初にここに来た時や水晶で炎を出した時に助けてくれて…。たぶん、あなたが来ていなければ怪我してたと思います」
「いや、何かを感じたので行ってみたらああなってただけだから。気にしなくて大丈夫」
ゼンさんは穏やかにそう言った。全く気にしていない、というように…。それが何だかありがたかった。わたしはぺこりと頭を下げてニーナと一緒に部屋へ戻ろうとしたが、何故かそこで止められた。
「君の魔法の力、本当に強かったけど……。でも、何か力の使い方が何とも言えないというか…。無駄に力を使っていることが多かったような、そんな気がする。…何となくだけど」
力を無駄遣いしてた、ってことかな?全く自覚がないのと、唐突にそう言われたので、わたしは思わず首をかしげてしまった。でも、それなら試合の後でわたしが倒れてしまったことにも納得がいくけど…。もうちょっと効率よく使った方がいいのかな…?その方が強い炎とかも出なさそうだし。コントロール力が必要かも。
「たぶん、エネルギーみたいなものがあり余っているんじゃないかな。それをどこかに発散できればいいんだけど…。でも、それをしたらここら辺一帯の森が全部燃えそうだしな…」
…さりげなく怖いことを言われたような、そんな気がするんだけど。森を燃やしたら大変なことになりそうなんだけど…。発散する方向で行くなら、場所を考えないといけない気がする。
「…というか、ゼンさん、試合をしながらそういうところまで見ているんですか!?そうじゃなければ、こんなに相手の魔法の使い方の特徴なんて掴めませんよね?」
「大したことではないと思うけど…。他の人と試合している時にもその人の様子を見ているから」
そこまで言われたところで思い出した。そういえば、ゼンさんって一試合目が終わった後にもその相手に一言二言告げていたような…?あれって、アドバイスみたいなものをしていたのかな。でも、どうして…?別に、頼まれているわけではなさそうなのに…。もしかして、自主的にやっているのかな。…何の為に…?そんなことを考えていると、ゼンさんは、
「引き留めてごめん。それじゃあ、僕はこれで。ジェシカ、お大事に」
と言って行ってしまった。というか今、さりげなく名前を呼ばれた??わたしの名前、知ってたんだ…、とどうでもいいことを考えていると、ニーナがどこか楽しそうな表情でわたしに言った。
「いつもあんな感じなので、ゼンさんは色々な人から慕われているんですよ。だから、同じクラスの中でも彼を狙っている人は多いみたいです。この前、ジェシカがゼンさんの話をした時、一斉に見られていましたよね?」
その言葉でわたしは最初の授業のことを思い出した。あの時、すごくびっくりしたけど、そういうことだったんだ。とわたしは納得した。…けど、ちょっと待って。ということは、明日の授業でわたしはまた同じような目に遭うということ!?だって、そうだよね!助けられた、ってだけでもあんなに見られたんだから、試合の相手になったならもっと大変なことになりそう…!わたしは思わずニーナを見た。彼女は、他人事のように笑っている。わたしはニーナに懇願した。
「ニーナ…、お願いだから明日、わたしのガードをして…。絶対に授業の時、皆からの視線攻撃で精神的に満身創痍の状態になるんだけど!お願い、ニーナ…!!一生のお願い!」
しかし、ニーナはあっさりと「無理です、頑張ってください」と告げてさっさとわたしを置いて行ってしまった。慌てて後を追いかけ、その後も何度も頼んでみたが、結局断られたのだった…。
読んで下さり、ありがとうございました。




