穀物大戦争〜終わりなき戦い〜
「コシヒカリー! 前へ!」
ザッザッザッ!
「あきたこまちー! 前へ!」
ザッザッザッ!
私は『大日本お米帝国』の少佐である。
3億つぶの部下を前にして、戦意高揚の為の演説をおこなうのだ。
「今日は憎っくき『西洋小麦共和国』との第98兆23億66万231回目の、大穀戦の日だ!」
「第3国である『聖お豆王国』も参戦してくる恐れがある!」
「諸君らは、今日この日の為にお米としての食味を高め、甘さを増し、己の美味しさと米ぬかを磨き上げてきた!」
「我らが祖国の主食の座を奪わんとする、外国産小麦どもを排除せねばならん!!」
「おぉー!!!!」
さすがは私の部下たちだ。
小さな米つぶとは言えども、戦意は十分である。
今日の戦場は『朝食』だ。
ここ数十年に渡り、朝食は『ご飯』なのか『パン』なのかについて、熾烈な争いを繰り返している。
「よし! これから前線へ進軍する! 大隊まえ進め!」
ザッザッザッ!
前線ではすでに戦いが繰り広げられており、まさに戦場だ。
「卵かけご飯パーンチ!」
「なんの! こんがりトーストキック!」
今日も戦場は恐ろしい光景だ!
各自が持ち味を出し合いながら、相手を倒していく。
「大隊とまれ! 我々はこれから第三大隊とともに、敵の小麦どもの右翼へ突撃を行う! 左翼は第一、第二大隊が担当だ! 中央の小麦主力を挟み撃ちにする作戦だ!」
部下へ作戦を伝える。
これから死地へおもむくのだ。
私の指令伝達にも、否応なく気合が入る。
「今日の勝利が、日本人の食生活の欧米化を阻止する為の、第一歩になるのだ! 全軍突撃ー!!」
私は部下とともに、敵小麦2億つぶに向けて突撃していく!
ちなみに戦場は一般家庭のキッチンである。
そして両軍あわせて5億の大軍がぶつかりあう!
初手でいきなり数千万単位の死者が出ていく。
「……消耗戦になると、中央に20億の余力を残している小麦の方が有利になる! 各自、一対一ではなく、敵一人に複数でぶつかるんだ!!」
私は大声で部下たちに指示を出す。
右翼は我々の方が数で優っているが、中央戦力は向こうの方が上だ。
「少佐! 友軍の援護射撃がきます!」
「各自! 友軍の射線から離れろ!」
蒸気式ふっくら羽釜土鍋IH炊飯圧力器が『蒸気』を発射する!!
ぷしゅーっ!
「ぎゃああ!! せ、せっかく乾燥されていたのに! 水分がぁぁ!!!」
穀類にとって、乾燥後の過剰な水分は品質劣化を早めるので、天敵である。
「蒸気式ふっくら羽釜土鍋IH炊飯圧力器の援護がある内に、遠距離火力で敵をせん滅するぞ!!」
「大隊かまえ! うちぃかたーはじめ!」
我がお米帝国が誇る最新兵器である、カレーライスマシンガンが辛さのあまり火を噴く!!
「ぐわぁぁぁ!! カレーライスは卑怯だぞ!! くっ! 先生出番です!」
はっはっは! 我が軍のカレーライスは圧倒的ではないか!
……そう思っていたら。
「ナンー!!」
「うわぁぁぁ! 本場が現れたぞ!! ヤバい! なんとか戦線を維持するのだ!!」
「や、ヤツは化け物か!? あの香ばしい香り、タダモノではないぞ!!」
ナンー! に部下たちが次々とやられていく!
これ以上アレに好き勝手やられてはたまらん!!
「諸君! 思い出せ!! かの国には『さふらんらいす』という、我々の魅力を引き立てる文化があるのだ!! 小麦勢力に負けるな!!」
「ハッ!? 少佐殿の言う通りだ!! まだ小麦に負けたわけじゃない!! ここからが俺たちの真骨頂だ!!」
そうだ! お前たちは、ただよく練り込まれた水田の中で過保護に育ち、日本のキレイなお水で快適に生育し、ぬくぬくと育てられただけの『お米』とは一味も二味も違うのだ!!
そこから生産者の愛情を注ぎこまれたお前たちこそが!! 世界に誇る日本のお米なのだ!!
「諸君!! 今こそ我々が外国産小麦どもをせん滅する時だ! ヤツらに日本の食文化の素晴らしさを叩きこんでやれ!!」
「おぉーー!!」
それからの我が軍は圧倒的だった。
強敵であるナンー! を撃退した我々お米軍は、右翼の小麦どもを退け、小麦陣営の本丸である、中央に迫る!
「よし! このまま左翼の第一、第二大隊とともに敵中央を挟撃し、せん滅するぞ! 友軍主戦力8億つぶも、敵中央に攻勢をかけている! このまま押し込め!!」
我がお米軍が総攻撃を仕掛ける!
だが、相手は世界の覇者である小麦だ。
そう簡単には穀類最強の座を手放さない……!
「ハッハッハ! 貴様ら米の実力はその程度か!? 笑い話にもならんわ!!」
「あ! あれは! コッペパン将軍だと!? こんな最前線にコッペパン将軍が出てくるだなんて!? ど、どうしたらいいんだ!!」
小麦軍の中でも給食やその他で高い地力を誇る、コッペパン将軍は脅威だ。
我々お米軍の前線部隊だけで相手にするのは、かなり厳しいだろう。
「くっ……! こんな時におにぎり将軍がいてくれたら……!!」
その男は颯爽と戦場に現れた!!
「……呼んだかい?」
「お、おにぎり将軍!?」
お米たちの希望であり、お米の良さを手軽かつ最大限に引き出すパワーの持ち主、『おにぎり将軍』だ!!
おにぎり将軍はコッペパン将軍とがっつり組み合い、身体と身体で、あるいは言葉と言葉でぶつかりあう!!
「コッペパンなんて、教室の机の中で忘れ去られて、カピカピガチガチの状態で発見されるような存在だろう? 僕は出されたら必ず食べきられるぞ。忘れられたりなんかしない」
おにぎり将軍が口撃する
だが、コッペパン将軍も敵ながら見事と言わんばかりに反撃に出る。
「貴様のようなおにぎりなんて、コンビニで売られているものでも、賞味期限はせいぜい半日程度しかなかろうが! 私が何故、机の中にしまわれると思う? それは、貴様のように米つぶがくっついたり、海苔が手にベタついたりしないからだ!! このスベスベとしたボディーを見てみろ! 貴様のような凸凹だらけで、下半身太りした体とは、質が違うのだよ! 質が!」
おにぎり将軍に大ダメージ!
これはマズい。
そう思っていたら……。
「ふっ! 君はたしか種類が少なかったな? 僕は中の具材を変える事で、数十いや、数百のバリエーションを出せるんだ。 そもそも僕は、コンビニに入って正面の一番目立つところが、ほとんど定位置だ。君はどうだ、入り口から見えもしないところへ大抵置かれているじゃないか。注目度が違うんだよ、注目度が」
「ぐうう……!!」
コッペパン将軍が顔を真っ赤にしながら、押し黙る!!
「我々の勝ちだな」
「ああ、間違いない」
我がお米軍は勝利を確信した。
敵の小麦軍は、コッペパン将軍の敗北を悟り、敗走しつつある!
「たたみかけるなら、今だ! 突撃しろー!」
「おぉー!!!」
我々お米軍が『おにぎり将軍』の口撃による勝利を見たことにより、状況を圧倒し始める。
外国産小麦軍はギリギリで、我々の主力部隊の侵攻を阻んでいる状態だ。
戦況は我々が有利。
勝利は目前……のはずだった。
しかし、我々の戦いは思いもよらない形で終わりを迎えた。
「お母さん、ぼく今日はパンがいいなー」
「はいはい、じゃあ朝ご飯はパンにしましょうね」
……今日の朝食をめぐる我々の戦いは、我々お米の完全敗北に終わった。
今日も選ばれなかったのだ。
だが、我々の戦争に終わりはない。
人間が食事する限り、我々の戦争は続くのだ。
次の戦いはランチだ、職場のランチタイムをいかに有効活用するか。
当然ランチには強敵である『魔王ラーメン』も出てくるだろう。
我々は負けられない。
日本の食文化の象徴としての地位を取り戻す、その日まで。
この小説を読んでくださり、ありがとうございます。
正直なところ、とんでもない展開すぎるので、受け入れてもらえるか少し心配です(笑)
読んでくれたあなたが、少しでも笑ってくださったのなら、うれしい限りです。
他にも小説を執筆しておりますので、よろしければ他の作品もお読みくださると、幸いです。
ぺこり。