彼の理由
第1部前書き参照
同じ駅を使ってる事もあってか、あれから私と彼、有川さんはたまに会っては話し、二人とも時間があればどこかお店に寄ったりするまでの仲にはなっていた。
「いつもそれ吸ってるけど、おいしいんですか?」
「ああ..これ..?」
「そうです。私自身吸ったことないから分からないけど、体に悪いって言うじゃないですか。いかにもって臭いもするし」
「これねぇ...」
「僕は別においしいと思ってないかな。中にはおいしいから吸ってるって人もいるけどね」
「へえ」
おいしい訳でもない、それに体にも悪い。吸って良い事なんて何もないけど、私はただ彼が吸っているという理由だけで煙草に興味を持っていた。
「私にも少しください」
「え?」
彼は鳩が豆鉄砲をくらったような顔をして驚いた。実際に鳩に豆鉄砲をくらわせたことなんてないからどんな顔をするのかはわからないけど、今はきっとこの言葉がお似合いだ。
「駄目だよ、絶対」
「ええーなんでですか、どんな感じか気になるじゃないですか。私くらいの年は好奇心旺盛なんですっ」
少し子供っぽく、駄々をこねるように言う。
「駄目です。大人になるまで我慢しなさい」
少し笑いながら、子供をなだめる親みたいに言う。
「ケチ」
いじけた風を装って言ってみるが、彼は何も言わずにニコニコしながら私を見る。
「じゃあ代わりに、有川さんはどうしてそれを吸ってるのか教えてください」
「まだ煙草の話する?」
「気になります。それもだめですか?」
「ダメではないけど...」
今までに見たことのない、笑顔の後ろに戸惑いを隠した顔で言う。
「別に特別な理由なんてないけど、聞く?」
「聞かせてください」
彼が戸惑いをみせたのははっきりと分かった。それでも知りたい。
「よくある話...ではないかな。ただ前付き合っていた人が吸ってて、僕の家に忘れていった残りの煙草を、処理の意味をこめて吸っているうちにやめ時を失った。って感じかな。
ただ中毒なだけだよ」
誰にでもわかる無理した笑顔で言う
「未練とかがあるってわけじゃないよ!
あれからもうしばらく経つし」
「そうなんですか...」
ああ、きっと嘘だ。
本当に未練がなくて吹っ切れてる人はそんな寂しそうな顔なんてしない。
「少し切ないですけど、ちょっと素敵な理由ですね」
「素敵?」
「はい、よくいる悪い友達に勧められてとかじゃなくて、そこに恋心が混じってたってのが素敵です」
「そ、そうかな。何か、ありがとう」
彼の微笑みを合図に少しの沈黙と店内のゆったりしたジャズの曲が同時に流れ始めた。
まだ慣れない、ほろ苦さを感じるコーヒーを喉に押し込んで、席を立つ。
「もう暗いですし、そろそろ帰りましょうか。今日も楽しかったです。」
じゃあ、また。
優しく手を振る有川さんを背に、彼の理由を知った嬉しさと切なさを原動力に、家に帰る。
後書きって何書けばいいかわからないですよね。
私は自分のこと書いてるけど、本来は何を書くべきなのでしょうか。
あとこの話って早いテンポで進みますよね
もう少しゆっくりさせたかったんですけど、難しい。
何100ページにもわたるお話を書かれている作家さん方、尊敬します。
いつかそれくらい書けるようになれたらいいな