煙との出会い
前話前書き参照
それから何日か経って、また彼と会う機会があった。
「あっ」
聞いたことのあるような、ないような。そんな声に私は自然と振り返る。
ああ、この間の人だ。
「やっぱりそうだ」
「どうも...」
動揺こそはしなかったものの、ぶっきらぼうに返事をしてしまった。
「この前は面倒事押し付けてごめんね」
「いや、大丈夫ですよ。気にしないでください」
沈黙が生まれる。
まあ、ただ落し物を代わりに届けただけだし、こんなもんだろう。
じゃ、と声には出さず言って後をたたとうとするとまた、私に向かって声が優しく投げられる。
「あの、お礼...と言っちゃなんだけど、もしよければこの後お茶でもしない?」
これもまたありきたりなフレーズだなと、少しクスッとしてしまう。
夕陽が照らしているにも関わらず、彼の頬が少し紅くなっているのがわかる。
早く帰ってもつまらないので、私は二つ返事でOKした。ぶっきらぼうに。
そうして二人で近くの喫茶店に寄った。特に変わった所はないけれど、雰囲気だけはいい店だった。
「ごめんね、急に誘ったりして」
「いや、特に何かある訳でもなかったし」
「そうか、ならよかった」
私もよく"いや"とか"あ"とか無意識に使ってしまうけれど、この人もよく"ごめんね"とか意味の無い謝罪の言葉を使う。きっと私と同じで無意識なんだろうな。
「そう言えばまだ名前とか、何も言ってなかったね」
この場限りだと思っていたからあんまり気にしてなかったけど、一応聞くことにした。
彼は有川誠という名前らしい。有川さんはこの近辺では割と有名な私大の三年生で、あの日は大学の先輩との飲み会があったそうだ。
彼の自己紹介を一通り聞き終えたあと、私も自分のことを軽く話しておいた。
お互いのことを少し知って一呼吸おいたあと、尋ねられる。
「ごめん、ちょっと煙草吸ってもいい?」
へえ、煙草とか吸うんだ。そうは見えないのに。
てか、またごめんだ。
「大丈夫ですよ」
そう言うと彼はポケットから箱とライターをだして、火をつけた。
目を軽く瞑ってけわしい顔をした後に、溜息を吐くみたいに煙を出す。もう限界って言葉が白色の棒から聞こえてきそうになるまで、私はその慣れた一連の作業に見とれていた。
表面を潰して一方的に役目を終えさせた後、私達は他愛もない話をした。
いつもあの時間に帰るのかとか、学校は楽しいかとか、本当に何の生産性もないような事を、頼んだ1杯のコーヒーを飲み終えるまでえんえんと。
不思議と居心地がよかった。
彼の、有川さんの声とか話し方がこの雰囲気だけはいい店と絶妙に相まってなのか、ただ温かいものを飲んだからなのかは分からない。
「そろそろ出ようか」
と有川さんが言う頃には既に、また話したいと思えるほど私は彼に惹かれていた。
この場限りは、嫌だった。
そう口に出せればよかったのだが、こういったことに慣れていない私は結局言い出せず、また少しぶっきらぼうに別れの言葉だけを言った。
「お姉さん、灰」
何年経っても声変わりに期待できなそうな声で意識がもどる。
「服についてるけど大丈夫?」
「えっ」
まだいたのかと思うと同時に助かったとも思った。
「考え事?」
「いや、あんたが聞いてきたんじゃん。何で吸ってるのかって」
「ああ、あれ。考えてくれてたんだ」
なんつー無責任な。てかなんか馴れ馴れしいな。
「ところであんたいつ帰んの?」
「気が済んだら、かな」
「じゃあ一生帰れないかもね」
「そうかもね」
そう言って子供っぽい無邪気な笑顔を見せる。
何だこのマセガキ。
「それ、僕にも吸わせてよ」
急にとんでもないこと言い出すなこいつ。
「ダメにきまってんじゃん。私はまだしもあんたまだ小学生でしょ。近くにいることすらよくはないのに吸うなんて絶対ダメだよ」
「でも、お姉さんが辛そうにしてる理由、知りたいんだ」
きらきらした目を向けてくる。
「セリフだけはいっちょ前だな」
こいつがもう少し大きかったらキュンとしてたかもしれないな。
「だからさ...お願い」
「ダメ。諦めて。」
「ケチだなあ...」
確実に10歳くらいは年下の子供とこんな風に話す日がくるなんて。
そう言えば彼とも、こんな会話したっけな。
最初にノートにあったものをスマホのメモに書いて、そこから推敲、添削してますので割と早めに出せると思います。
完全自己満やけど、誰か見てくれとったらいいなあ。