煙の理由
この作品では未成年による喫煙の描写がありますが、本来は法律によって未成年喫煙は禁止されています。
大人になるまで吸っちゃだめだよ。
ここならきっと大丈夫だ。
周りの目を気にしながらそっと火をつける。
今でも決しておいしいとは思わない。それでも吸っているのは義務みたいな、責任みたいな、自分でもよく分からないけどそんなものを感じているからだ。
情けないほど短くなって使い物にならなくなるまでのほんの数分だけ、私を大人にさせてくれる。
もっとはやくこいつに出会いたかった。
そしてあの人にも。
「それっていけないんじゃないの?」
一瞬、どきっとして慌てて隠そうとする。
「テレビで見たけどそれって、大人じゃないと吸っちゃだめなんじゃないの?」
気づかなかった。
まだ大人の"お"の"O"も感じられないような声がすぐ側からする。
横を見ると、その声の正体は私よりも確実に年下の、ランドセルが少し板についてきたような子供だった。
「それって、煙草のこと?」
うん。と言うように首を縦にふる。
「私、大人に見えない?」
「いや、そのカバン、高校生の人が持ってるのよく見るから」
そう言って横に置いてあった学生カバンを指さす
「ああ...」
この子供、なかなか鋭いな。
「確かに、本当は大人にならないと吸っちゃだめなんだ。けどお姉さんは特別なんだ」
「なんで特別なの?」
「大きくなれば分かるよ」
「そうなんだ」
子供はそう言うと、私の隣に腰を下ろした。正確にいうと私の隣に置いてあるカバンの隣だ。
「何してんの?この煙、吸い込むと体に悪いよ。」
「お姉さんも吸ってるじゃん」
「だから、私は特別なの」
「それはさっきも聞いたよ」
「だったらさあ...!!」
はやく帰れよ。そう言いかけたところで冷静になる。子供相手になにムキになってるんだ。
大人気ないな。いや、大人でもない。
「ごめん、なんでもない」
「僕は大丈夫だよ」
もしかしたら私よりこの子の方が精神年齢的に上かもしれない。
「お姉さんはどうしてそれを吸ってるの?」
そう、唐突に聞かれて戸惑う。
「どうしてって...」
言葉が詰まる。この子相手に特別はもう使えない。
「逆にどうしてそんなこと聞くの?」
「だってお姉さん、辛そうだもん。辛いなら吸うのやめたらいいのに」
辛そう...そうか、私そんな風に見えるんだ。
法律上、人前で吸うわけにはいかない。いつも人目のつかない所で吸っていたから誰か指摘されるなんてことはもちろんなかった。
「ねえ...そこの君」
鮮明に、とはいかないけれど彼との出会いはこんな感じだった気がする。あれは放課後の駅での事だった。
今どき古い、けれどナンパだとしたらお決まりのフレーズを自分にかけられていると気づかなかった私は、他人事のようにそそくさと歩く。実際、他人だ。
「これ、君の?」
真後ろから聞こえる声の正体を見ようと振り返った私に向かって優しく出された手には、かわいいクマのキャラクターがついたキーホルダーが握られていた。
「え、いや、違いますけど」
「あ、そうなんだ。ごめんね、急に声かけたりして」
「いや、私は全然」
少しの沈黙の後、彼は腕時計を見て少し急いだ素振りを見せる。
「申し訳ないんだけどこれ、駅員さんに渡しておいてくれない?ちょっと今急いでて...」
「あ、いいですよ」
"あ"とか"え"とかばっかりだな、私。
「ごめんね、ありがとう!それじゃ!」
急いで走っていく彼の背中を見て、私は急なことに少し動揺していた。
動いて揺れているはずなのに、誰かが私の体にぶつかるまでそこから動けなかった。
.....
私はとりあえず、与えられた使命を全うすることにした。
初投稿です。
勢いだけで書いた話なので稚拙な部分ばかりではありますが、どうか感想を頂けるととてもありがたいです。
もし批評される場合は、「ここそこはダメ。けどここはよかった」
みたいにして頂くと凹まずに済みますので、よろしくお願いします。