教育と道徳。銃と手帳
登場人物
男
拷問者
とある豪邸の地下室。一人の男が囚われている。何かものを書いている。ペンを走らせ続けなければならない使命があった。止まってしまう筆を少しでも速く、速く、とつとめた
男「『手足は拘束されているが多少の自由は利く。口は塞がれていない。恐らく聞かれて困るものなど一つもないのだ。そして見に来る者もいない。その姿は傷と青アザで埋め尽くされ…いや、赤ぶくれだ、だが赤か青かは問題じゃない。』」
拷問者「やあやあやあ。んん?先生の話を聞かないでノートばかりとる学生はとても模倣的だが真の教育へはたどり着けないんだ(熱いお玉を男へ押し付けようとする)」
男「『そんなことは問題じゃない。今私の命が危ない。この成金が犯した罪は前述のものに足して私を殺したということだ』(お玉を頬に押し付けられる)あぁぁぁぁぁぁ!!(息を荒げながら)…狂っている!!気狂いめ!早く私を殺してくれ!!」
拷問者「そもそも教育自体が狂ったものなんだ。わかるだろ?私はお前が二度と誤った記事を世に広めないよう教育してやってるんだ」
男「あれは事実だ!私は事実を世に広めなければならないんだ!」
拷問者「ねじ曲げねばならん事実もあるのだ。歴史書もそうだ!そうして作り上げられた"本当の"事実を教えられているんだ!(菜箸を男の太ももへ突き刺す)」
男「あぁぁぁぁぁ!」
拷問者「痛みは最強にして完全の教育だ。そして年を重ねればその痛みは増すのだ!」
男「『やつは熱したお玉や菜箸で私を傷つけた、恐らく何かを調理している途中』…ん?使用人は…いないのか?俺をこの椅子へくくりつけた野郎だ」
拷問者「あのマヌケならどこかへ行っちまった。私の昼食を放り出してだ!」
男「逃げ出したんだ…」
拷問者「そんなことはない。私の教えを完璧に守っているのだ」
男「なら、その昼食とやらは…」
拷問者「なあに、順番を守れないやつなんだ。」
男「その時点で教育とやらは失敗しているんじゃないのか」
拷問者「何が言いたい」
男「万人の為の万人に対する目的を考えないで何が教育だ!」
拷問者「私の言う教育はそれとは質が違うものだ。教育と道徳は違う。道徳からかけ離れたものは教育として素晴らしいものだ。しかし道徳を気にしてしまえば教育の手は弱まる」
男「でも!」
拷問者「いいだろう、少し賭けをしよう。ここからお前を逃がしてやる、あのマヌケに会わずに街まで行くことができたらお前は自由の身だ」
男「乗った。あとで泣くことになってもしらないからな!」
男はすぐに部屋を飛び出した
男「『俺は助かるのかもしれない!保証はないが、このことを世に広めなければならない!』」
男はキッチンを通りかかり、グシャグシャになって判別できないが、どこか美味しそうな匂いの食べ物を見る。それを少しだけ手で口へ放り込んでからポツンと置かれた一丁の銃を見つける。男は迷っている
男「『どうしようか、ポケットに入るのはこの手帳か銃か一つしかない。銃を持っていればそのマヌケとやらを殺して生き延びることができる。しかし出くわさなければ……銃を持っていれば町へ出ることは難しいかもしれない…。逆に私が犯罪者扱いだ。ミイラ取りがミイラ現象ってやつだ。ふふっ。生きた心地がする。この本は…警察に任せることができるかもしれない。もう時間がない、この続きが書けるように祈っている』」
男は銃を取り家を出る
しばらくしてから拷問者がキッチンへとやってくる。その本を見て付け足し始める
拷問者「『バカなやつだ。これを置いていかなければ…バカなやつだ。(遠くで銃声がする)あのマヌケには色々教えてやらなければやらない。』」
男は本を焼くわけでもなく、捨てるわけでもなくそばに置いて昼食の調理を始める
曲が流れる。それはエンディングの音。
ジャニス・ジョプリンの[summertime]が…
会場を、部屋を、お前を、君を、包み込むと共に暗闇がほんの少しの間訪れる