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必然を君に。

作者: 佐藤さつま

本日二個目の投稿です。

落としどころを見失いかけてどうしようと思っていたのですが一応完成しました。

まだまだ初心者なのですがよろしくお願いします。


ああ、これは夢だ。

私が”俺”であった時の夢。

微かに覚えている前世の、しかも殺された瞬間だ。

そう瞬時に理解した。

自然に、ごく当たり前のこととして。

例えるならばそう。

氷が時間の経過によって自然に溶けてしまうように。


うやむやに浮いていた体が明確な形をもって固定される。

そして意識はリンクする。

前世かつての自分に。

痛みも苦しみも、願いも全部。

感じるのは当時の全て、だ。




背後からの鋭い一撃。

キッチンにあるありふれた道具である包丁。

それが背中に刺さっている。

刺された箇所がまるで火が出ているように熱い。

痛みというよりも傷口そこが燃えているようだ。

そして背中から包丁が引き抜かれる。

張り裂けるような痛みが再び体を襲った。

俺は床に崩れ落ちる。

傷口から止めどなく血が流れていく。

赤色の水たまりが床に広がる。

そして気づく。

驚くほどに力が抜け、体が動かない、という事に。

「あははははっ!」

背後から不気味に聞こえるのは女の声。

笑いながら俺を追いかけ刺してきた女の声だ。

狂ったような声が暗い部屋で響く。


………ああ、耳障りだ。なんて場違いにも思った。


すぐ近くに犯人そいつがいるにもかかわらず、だ。

もう自分の死期は近い、とそう悟っていたからかもしれない。

それでも思いがけずにふと過去の記憶が蘇る。

大量の血を失い、回らない頭で思い浮かぶのはそう――ある情景だった。



空全体が燃えているように真っ赤に染まった夕焼けの日に、親友と一緒に帰った道のりだ。

不自然なほど赤い夕陽に不気味だとこぼした彼。

あいつはいつも藍色のマフラーで顔を隠すくせに、いつだって微かに笑い声を漏らしていた。

不愛想で優しい唯一無二の親友だった。


そんな彼を思う。

もう会えない彼を思う。

古いビデオを再生したように。

そんなそんな走馬灯が流れていった。

そしてそれ以外も、これまでの人生の記憶が消えゆく意識に駆け巡った。

目まぐるしい。

徐々に掠れていく意識の中で最期にこれだけでも、と思う。

どうか感謝とお別れを。


『さよなら雅人まさと

今まで本当にありがとう。』


声にはならない。

することが出来ない言葉だけれども。

どうか届いてほしい。


祈るような気持だった。

意識が消え闇に沈んでいくさなかの出来事だった。

そしてすぐに残っていた意識は暗闇に飲み込まれていった。







目を覚ました。

いつも通りの自分の部屋だ。

痛む頭を無視して、顔を触る。

頬を濡らすのは私自身が流している涙だ。

あの夢を見た翌日はいつもこうなる。

はあ、と一息。

嫌な記憶だ。

どうせならもっと幸せな夢が見たかった。

なんて軽く思える程度にはもうこれには慣れてしまっていた。

昔から、物心つく前からこの夢を時々見ている。

この、前世の死に際を。

しかしこの夢は私には分からないことの方が多い。

なぜなら夢の中でははっきり覚えているのに今は走馬灯の内容は分からないからだ。

今、ただ分かるのは私が男であった事。

そして”まさと”という名の親友がいたことのみである。

しかもその親友の顔は記憶の中で霞がかっていて分からない。

なんとも言えないもどかしさがそこにはあった。

思い出したいような、そうでないような。

そして何となしに部屋の時計を見た。

「あ、やばい、遅刻するっ。」

いつもならばもう家を出ている時間だった。

急いで支度をし、ご飯も食べずに家を出る。

家から駅まではそう遠くはない。

しかし本数が多くないので乗り遅れると面倒なのだ。

自転車を必死で漕いだ。

そして駅について時間を見る。

………数分遅かったようだ。

いつもと違うルートで行かねばならない。

そう思いため息をついた時だった。

「ハンカチ落としたよ。」

ゆるキャラのプリントされた、確かに私のハンカチを目の前の男が拾う。

スマホを出したときに一緒にポケットから出てしまったのだろう。

それは分かる。

しかし、だ。

私は目の前の男に驚いていた。

「………まさと?」

夢の中の前世の親友の名前が頭の中に浮かんだ。

理由はない。しかし直感で分かった。

彼が親友であると。

「はは、すごい顔してる。」

そう言って彼はくすりと笑った。

そしてなんてことないように言う。

「久しぶり。」

たった五文字の言葉だ。

しかしそれを聞いて心がどうしようもなく浮かれてしまうのはどうしてだろう。

記憶がなくとも、魂が彼との再開に喜び震える。

そして意図せず自分の口が動く。

「この出会いは必然だ。」

デジャヴだ。

同じことを前世で言ったことを思い出す。

その瞬間前世の記憶が濁流の様に唐突に思い出された。

まるで堰を切ったように。

………頭が追い付かない。

ガンガンと頭が打ち付けられているようだ。

そして。

ふらふらとする中、驚いた表情の親友を目の前に私は意識を手放した。












「………必然か。」

かつて雅人まさとと呼ばれた男が呟いた。

その声には何故だか悲しみが籠っている。

彼は特別だった。

何度転生しても彼はそれまでの記憶を保持し続けた。

そして気づく。

親友との運命に。

親友との出会いは必然だ。

そしてこれは厄介な呪いだった。

親友は死ぬ。

俺と出会ったことで死ぬ。

直接的にしろ間接的にしろ、結果としてそうなってしまう。

そして今世でも出会った。

出会ってしまった。

………死期は近い。

親友は知らないだろう。

それでも思ってしまうのだ。

”出会えてうれしい”と

そして俺はまた自己嫌悪する。

何度も何度も自己嫌悪する。

あとどれだけの時間を共に過ごせるのだろうか。

俺は、歓喜と不安が入り混じる内心とは裏腹に眠る彼女の髪をなでた。







最後まで読んでいただきありがとうございます。

シリアスな話を書こうと思って書いたら想像以上にシリアスになってしまいました。

少し反省です。

でも楽しくかけたので良かったです。

またいつかシリアスな話を書こうと思います。

最後にもう一度、読んで下さりありがとうございました。

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