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3-6 犯人からのメッセージ

「そう、そうなんです! 

ダンボール箱は、なぜ途中から色が変わったのでしょう。

これって何か意味があるんですか?」


 そうだ。今日置かれたのも、白いダンボールだった。


「こう考えてみてはどうでしょうか。

茶色のダンボール箱では意味が伝わらなかったので、途中から白色にした。

つまり、白色の方が犯人からのメッセージ性が強いんです」


「……犯人からのメッセージ?」


 さっき、白色のダンボール箱を運んでいるときに思い出した。

 俺の引越し業者のバイト経験からわかったことだ。


「白いモノって、運んでいる際に、軽く感じる心理効果があるそうなんです。

だから、引越しの業者が使うダンボールは、白色であることが多いんです」


「ひ、引越しですか? やっぱり、そんな……」

 月見さんの顔に緊張が走る。


「ダンボールは空ですよね。

これは、『荷物を、この空箱の中に入れろ』という意味だと思います。

つまり――」


 これを月見さんに言うのは、ひどく酷かもしれない。

 が、言うしかなかった。


「つまり、『このダンボールで(・・・・・・・・)も使って(・・・・)その部屋から引っ(・・・・・・・・)越せ(・・)

という意味だと思います。


106号室は本来は空室でしたが、ゆりさんが出入りしているのを見て、

住民がいると勘違いしてしまったのでしょう」


 月見さんの息を呑む声が聞こえた。

「なるほど。でも……!」


 月見さんの瞳は、悔しそうにうるんでいた。

 感情が抑えきれないらしく、少し早口になって切々と訴える。


「でも、どうして、引っ越せって言われなきゃいけないんですか? 

箱が置かれたのは、ゆりさんと脇本さんと私の部屋です。

どうして私たちなんですか? どうしてこのアパートなんですか? 

せっかくみんなここに住んでくれているのに」


「それは……」

 ああ、言いたくなかった。

 自意識過剰だと思っていたかったのに。


 ボソリと声が漏れる。

「……俺のせいかもしれないです」


「え? どうして灰田さんのせいなんですか?」

 問いかけを浴びながらも、俺は強引に話を進めた。


「それでは、二つ目。

『なぜ、106号室(・・・・・)104号室(・・・・・)205号室の前に(・・・・・・・・)置かれたのか(・・・・・・)』を考えていきましょう」


 月見さんは、すぐに言葉を付け加える。

「つまり、『なぜ、ゆりさん、脇本さん、私の三人が狙われたか』ですね」


「いえ、それは違います。住んでいる人ではなく、部屋番号で考えてください」

「ど、どうしてですか?」


「図を、書きますね」

 月見さんの質問に答えないまま、俺はさらさらと見取り図を書いた。


 黒ペンで部屋となる四角を作り、部屋番号を書き込んでいく。

 それから問題の三つの部屋番号の下に、強調するように赤ペンで線を引いた。


「すみません。やっぱりわからないんですが」

 月見さんは眉をひそめ、困った顔をする。


 俺はさらに、三つの部屋の中心を赤ペンで結んだ。

 赤い線による三角形が完成する。


「んー、やっぱりわからないですね。

三角形の中心は105号室……灰田さんの部屋ですけど」


「そうです。それが答えです」


「え?」

 小首を傾け、少し眉もひそめる月見さん。

 結論が近くなり、俺はひどく緊張してきた。唾をごくんと飲み込む。


 ううー。あー、これ本当に単なる自意識過剰だったらどうしよう。

 でもこれで多分、合ってるハズだ!


 俺は見取り図の105号室を指し示しながら、静かにハッキリと断言した。


「三つの部屋の共通点は、俺が住む105号室の近くであることです。

つまり、犯人は

105号室の周り(・・・・・・・・)の住民を(・・・・)引越しさせたい(・・・・・・・)』と思っているんです」


 目の前の月見さんが、口を半開きにしている。

 やがて口をパクパクさせて言った。

「え、えーと、面白いお話なんですけど、なんていうか……」


 い、いかん。

 これではまるで自意識過剰な人間と思われてしまう。

 俺が弁解しようとしたそのとき――


「ちょーっとそれって自意識過剰じゃない? 

世の中はアンタを中心に回ってるわけぇ?」

 手厳しい罵声とともに、ナツさんがムクリと起きた。


「な、ナツさん、起きたんですね」

「ううん、ずっと起きてた」


「い、いつからですか?」

「んー。月見ちゃんにタオルケットをかけてもらったときから」

 最初じゃん! 全部聞いてるじゃん!


 ナツさんは髪をかきあげ、少し顎を上げる。

「いやあ、このまま寝ててもいいかなって思ってたんだけど、

あまりに灰田くんが妙なこというからさ。


灰田くんってアレなの? 我田引水タイプ? 

日本のどこか、一度でも行ったことがある場所で犯罪が起きたら

『俺も巻き込まれていたかも!』って騒いじゃうタイプ? 


友達が落ち込んでたら『俺のせいかも!』って勝手に思っちゃうタイプ? 

自分の行動が、世界を大きく変えると思ってる感じ?」


 俺の目の前までナツさんが近づき、慌てて月見さんがとりなす。

「ちょ、ちょっと、ナツさん! 言い過ぎです!」


 寝起きのナツさん、マジできついよ……。

 言葉のナイフでズブズブ刺されている。


 最初から、正直に言ってしまえばよかった。

 深呼吸をして、目を閉じて思い出す。


 こちらをじっと睨み付ける天願カナリの姿を――。 


 ゆるふわな栗毛色の髪に彩られた、凛々しく端正な顔立ち。

 長い睫毛に縁取られた大きな瞳。

 強い目力で、こちらを射抜くようなあの表情……。


 そう、客観的に見れば、

 天願さんは(・・・・・)おそろしく美少女(・・・・・・・・)じゃないか(・・・・・)


 俺は軽く息を吸い込み、一気に喋った。

 少し泣き出しそうな勢いで、吐き出した。


「すいません! 俺、大学で、ある女の子から恨み買ってるんです。

今思えば、その子はものすごく美少女です。

俺が大学から遠くのアパートを探したのも、その子と気まずくなったのが一因です。


どのぐらい根に持たれているのかはわかりません。

けど、恨まれているのは確かで、こんなことになって、俺どうしたらいいのか……」


 ナツさんは人差し指で俺の唇をそっと押さえる。

 そして、申し訳なさそうに呟いた。


「……ごめん。ちょっと言い過ぎた」

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