prologue コミュ力とシミュ力
――コミュ力が足りなければ、シミュ力で補えばいい。
これは俺の処世術だ。
略さずにいうと、
『コミュニケーション能力が足りなければ、シミュレーション能力で補えばいい』
となる。
どういうことか説明しよう。
例えば、あなたが美容室に行ってみたとする。
美容師は髪を切りながら、あなたに何か話しかけてくるだろう。
こんなとき、緊張するようであれば、俺と同じタイプだ。
つまり「他人との会話が苦手で、コミュニケーション能力が低めの人間」。
あ、ハッキリ言っちゃってごめん。
でも、落ち込まないで欲しい。
シミュレーションさえ出来ていれば、大抵の会話は無事に乗り切れるはずだ。
例えば美容師からの質問には、一定のパターンがある。
最もオーソドックスな流れは
「学生さん?」「今日はお休み?」「お休みの日は、いつも何してるの?」だ。
これに対して俺が用意している答えはこう。
「結構映画好きなんでー、トモダチと映画見に行ったり、家でDVD見たりとかですかねー」
この一言で、話題は自然と映画の話になる。そうなれば、しめたものだ。
こちらから反撃……もとい、質問するのもいいだろう。
「なんかオススメの映画ありますか?」「最近見に行った映画ありますか?」
これで、しばらく間は持つハズだ。
ちなみに、映画を一緒に見に行く友達はいないが、そのぐらいの小さな嘘は許して欲しい。
さて、どうだろう。
事前に相手からの質問が予測できていれば、コミュ力低めの我らも、会話がしやすいことがわかって貰えただろうか。
少し乱暴な言い方をすれば、人とのコミュニケーションなんて、試験勉強と一緒だ。
出る問題を予想して、事前に勉強をするように。
相手の反応をひたすら予想して、正しい答えを用意しておけばいい。
事前の想像、疑似体験――つまりシミュレーションこそが大事なのだ。
このような地道なシミュにより、俺は表面的な会話を難なくこなせる人間になった。
そして、そんな生き方をしてきた俺も、この春からめでたく大学生となる。
大丈夫、俺は今後もシミュを怠らない。
ひどくまわり道かもしれないが、高度に発達したシミュ力は、ある程度のコミュ力に匹敵するものと信じている。
かつ、俺は自分のシミュ力に、うぬぼれてはいない。
コミュ力アップの勉強も常日頃から欠かさず、
『人付き合いのコツ99』『出来る☆話せる☆魔法の会話力アップ術』『マンガでわかる友達の作り方』などの本もしっかり愛読している。
だからきっと、大丈夫……だよね?
大学でちゃんと友達できたり、彼女できたりする……よね?
………。
だ、誰か俺に、大丈夫って言ってくれよ!
そんなわけで、「コミュ力(略)かもしんない。」スタートです。
ゆるめの、ほのぼのライトミステリでして、原型は数年前に書いていたものです。
それではどうぞよろしくお願い致しますヽ(´ー`)ノ